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ノスタルジア5 -ボルゾイからの使者-

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ノスタルジア13


早朝。
荒れた村。無造作に地面に捨てられたたくさんのゴミや路上で眠る
ホームレスたち、路地裏には喧嘩をしている人など、
村には不穏な空気が漂っている。
古い宿屋。宿屋の前に駐車されているウエスト達の車。
二段ベットが2つと、小さなテーブルとソファーのある部屋。
部屋にはルーとワイヤーの二人のみ。俯きながらベッドに座るルーと
ルーの前でしゃがみ込み、目を合わせるワイヤー。
ルーは小さく震えておどおどしている。

ワイヤー「名前はなんて言うの?」
ルー「…」

ルーは答えない。眉を下げるワイヤー。

ワイヤー「ええと、あ!じゃあ僕があだ名を考えてもいいかな?」
ルー「…ルー」

俯いたまま、小さな声で呟くルー。
ワイヤーはぽかんとするが、すぐに顔を輝かせる。

ワイヤー「ルー!」

ワイヤーは明るい声をあげる。

ワイヤー「すっごく良い名前なんだな!」

大げさな声をあげて賞賛するワイヤー。ルーはワイヤーの声に
ほんの少しだけ視線を上げるが、すぐにしょんぼりとした様子で
顔を背ける。その様子を見て困惑し視線を彷徨わせるワイヤー。
ふと、ルーの帽子が目に止まる。

ワイヤー「…ルーは帽子をとらないの?
部屋の中だから取った方がいいんだな」

顔を上げるルー。その表情は怯えている。ルーは両手で帽子を掴み、
よりいっそう帽子を深くかぶる。その様子を見てたじろぐワイヤー。
突然、乱暴にとびらが開く。
入り口から顔を出すウエストとチャーリィ。

ウエスト「メシを食いにいくぞー」

ワイヤーは立ち上がり返事をする。

ワイヤー「わかった」

そしてルーの方へと声をかける。

ワイヤー「ルーもご飯を食べに行こうよ」
ルー「…」
両手で帽子を掴みながらちぢこまるルー。ワイヤーは眉を下げる。

チャーリィ「本人がいらないって言ってるんだから、いいんじゃない?」

二人の様子に呆れるチャーリィ。

ウエスト「そうだ、ほっとけ」

そういって部屋から出て行く二人。
ルーの前に立ちつくしながら、ワイヤーはもたもたと視線を彷徨わせる。

ウエスト「行くぞー」

廊下からウエストが顔を出す。ワイヤーはルーを心配げに見つめるが、
やがて2人と一緒に部屋を出て行く。


***


3人がいなくなった部屋。
ワイヤーが部屋を出て行くと、ルーはきょろきょろと不安げに
あたりを見渡す。ルーは肩にかかってるポシェットを外し、ベッドの上に
置き、そしてポシェットからオルゴールを取り出す。
おそるおそるオルゴールを確認するルー。オルゴールに特に目立った傷は
見当たらない。ルーは胸をなでおろし、そしてオルゴールのネジを回して、手を離す。オルゴールはウンともすんとも言わず、まったく動かない。

ルー「…!」

呆然とするルー。ルーしばらくオルゴールを見つめていたが、
やがてがっくりと肩を落とし、ベッドの上に寝そべる。

ルー「…」

ルーはベッドの上で丸くなり、そして目を閉じる。


***


レストラン。
席につき、食事を取るウエストとチャーリィとワイヤー。
レストランには、村同様、ガラの悪そうな人物たちが集まり、
酒をあおったり賭け事に勤しんでいる。

チャーリィは皿をつつきながら、時々、周りを目をやり、
そして顔をしかめる。ワイヤーは一心不乱に並べられた料理に
むしゃぶりついている。

チャーリィ「はあ、なんか落ち着いて食事もできないわね。
こんな町からはさっさと出たいわ」

ウエストに視線を向けるチャーリィ。ウエスト料理に目を向け、
手を動かしながら答える。

ウエスト「明るくなるまで休憩するだけだ、我慢しー」

チャーリィの背後で騒ぐ声が上がり、それからがしゃんと何かが割れる音が響く。驚いたチャーリィは肩を震わせる。チャーリィの背後から
響く酔っ払いたちの笑い声。ため息をつくチャーリィ。

チャーリィ「ねえ、」

チャーリィは声を潜め、少し前のめりになる。

チャーリィ「本当にメインクーンはあんな遺跡でボルゾイを
侵略するつもりなのかしら?」
ウエスト「…」

食事をする手を止めて、少し考えるウエスト。

ウエスト「さあな」

そう言って、ウエストはまた手を動かしはじめる。

ウエスト「まあでも、あんな物が出てきたのは初めてだ。
一体どんなヤバい機械なのかわかったもんじゃなねぇしな」

ウエスト食べながら、話を続ける。

ウエスト「…ボルゾイとメインクーンっていうのは、
これまでお互いを牽制しつつも、絶妙な均衡があったからこそ
ギリギリの関係を保ってきただろ?」
チャーリィ「…」
ウエスト「今回の遺跡の発見で、それが崩れちまうかもしれないから、
ボルゾイも気が気じゃないんだろ。」

食事の手を止めたまま、チャーリィはため息をつく。

チャーリィ「それにしたって、メインクーンもボルゾイも
あんな小さな子にこだわるのはよく分からないわね…」
ウエスト「そうだな」

頷くウエスト

ウエスト「…なんにせよ、あのガキを引き渡して報酬さえを貰えば、
ボルゾイともおさらばだ。その後、メインクーンとボルゾイが
どうなろうと、俺たちには何の関係無いことさ」
チャーリィ「そうねえ…」

チャーリィは一言つぶやき、そして止まっていた食事の手を動かし始める。
突然、ワイヤーが勢いよく立ち上がる。

チャーリィ「!?」

目を見開き、ワイヤーを見上げるウエストとチャーリィ。

ワイヤー「ウェイターさん、ハンバーガー追加で!」

口元に食べかすをつけたながら声を上げるワイヤー。

ウエスト「おい、食いすぎだ!」

ウエストも立ち上がり机を叩く。
がしゃんという音を立てて積まれた皿が揺れる。


***


宿屋。昼前。
身体を起こし、あたりを見渡すルー。部屋は眠る前とほとんど変わらない。
ルーが寝ているものとは別のベッドにはワイヤーが、ソファーの上ではチャーリイが読書をしている。ルーが目を覚ました事に気がつくワイヤー。

ワイヤー「あ、おはようルー、朝ご飯そこに置いてるんだな」

テーブルを指差すワイヤー。そこにはトレイの置かれており、
トレイには何重にも重なった巨大なハンバーガーが乗っている。
見て目をぱちぱちと瞬かせるルー。ルーはハンバーガーを見て、
空腹を感じるが、手をつけていいのかわからず、ワイヤーとチャーリイを
うかがうように交互に見る。

チャーリィ「痛むから、さっさと食べちゃいなさいよ」

本をめくりながらチャーリイは答える。おずおずとした様子でテーブルの
方へ行き、それからトレイ抱え、またベッドへと戻ってくるルー。
ベッドの上へと腰をおろし、一番上のパンをめくる。ルーはパンを
おそるおそる口へ運び、ゆっくりと租借する。
チャーリィはルーの様子を目だけで追っていたが、
ルーがパンを齧ったのを確認すると視線を本へと戻す。
安堵の色を浮かべるワイヤー。
突然、バンと派手な音をたててドアが開き、
ずかずかとウエストが入ってくる。

ウエスト「駄目だ、やっぱり部品を交換しないと
ボルゾイまで持ちそうにない」
チャーリィ「じゃあ、メインクーンを出る前にどこかに寄らなきゃね」

ベッドから顔を出すワイヤー。

ウエスト「ああ、クソ」

ウエストは帽子を片手で押さえながら、ルーの座っているベッドの隣に
乱暴に座る。ウエストは隣で座っているルーがパンをほおばっていることに気がつく。

ウエスト「ベッドの上で食うなよ」

ウエストの声にルーは肩をびくりと震わせるルー。
ルーはベッドからおりる。

ウエスト「少し寝るから、昼前に起こしてくれ」

そう言ってそのままベッドの上で寝そべり、
帽子を頭から顔へとずらすウエスト。
一方、ルーは行き場をなくし、トレイを持ったまま部屋の中でおどおどと、不安げにあたりを見渡す。チャーリイはソファーに座りながら
本を読んでいたが、ルーの様子に気がつくと体をずらし、大人が1人、座れるほぐらいの空間を作る。

チャーリィ「ん」

開いたスペースを指でとんとんとつつくチャーリィ。
ルーはチャーリイの仕草を見て一瞬は躊躇するような様子を見せるが、
他に行き場もないのでチャーリイの隣にすわり、
またパンをほおばりはじめる。

ウエスト「ん?」

寝返りをうった拍子に、ウエストの額に硬いものが当たる。
目を開くウエスト。目の前には小さな箱。

ウエスト「なんだこれ?」

ウエストは箱を手に起き上がり、そして入念に触り始める。

ワイヤー「どうかしたんだな?」

ワイヤーがベッドから起き上がり、ウエストの方へ顔を向ける。
本を一旦をソファーに置き、ウエストの方へ向かうチャーリィ。
つられてルーも食事の手を止め、ウエストの方へと顔を向ける。
オルゴールを手にするウエストを見て、目を見開き慌てた表情をするルー。

ウエスト「うーん、オルゴールか?」

箱をあちこち触りながら、ウエストがつぶやく。

チャーリィ「まあ、可愛い」

オルゴールを見つめながらつぶやくチャーリィ。

ルー「それ…」

消え入りそうな声を絞り出すルー。
ワイヤーはオルゴールをじっと見ていたが、ルーの声に振りむく。
そこには食べるのをやめ、不安そうにオルゴールを見つめるルー。
ワイヤーはウエストとルーを交互に見て、それからルーに尋ねる。

ワイヤー「あれってルーの?」
ルー「うん…」

か細い声で頷くルー。

ワイヤー「ウエストー!そのオルゴール、ルーのだって!」

ワイヤーはウエストに向かって声を上げる。

ウエスト「ふーん」

ウエストは気のない声で返事をしながら、オルゴールのゼンマイを回す。

ウエスト「ん?」

眉をひそめるウエスト。

ウエスト「これ壊れてんな…」
チャーリィ「あら…」

チャーリィが残念そうに声をもらす。

ルー「…」

ウエストとチャーリィの言葉にルーはうつむく。

ウエスト「おい、ルー!」

突然、ウエストがルーに声をかける。勢いよく顔を上げるルー。

ウエスト「これちょっと借りとくぞ」

ルーにむかってオルゴールを持ち上げるウエスト。

ルー「あ…」

ルーは困惑し、何かを言おうとするが、言葉が出ない。
ルーの様子を見て、ワイヤーが明るい声で答える。

ワイヤー「大丈夫!」

不安げにワイヤーの顔を見るルー。得意げに続けるワイヤー。

ワイヤー「ウエストは機械を修理するのが得意なんだ!
任せたらいいんだな!」
ルー「…」

驚いた顔でワイヤーを見つめるルー。
ウエストはオルゴールを自身が身につけているヒップバッグへ
としまいこみ、そしてまたゴロンと寝そべる。

ウエスト「んじゃあ、俺は少し寝るから」

そう言って帽子を顔へと乗せる。

ウエスト「昼過ぎには起こせよ」

ソファーへと戻るチャーリィ。再び本を読み始める。
ぽかんとするルー。
ワイヤーはにっこりと笑い、唖然としているルーに話しかける。

ワイヤー「ね、ルーのオルゴールは大丈夫だからさ、
とりあえずご飯食べちゃいなよ」


***


森林奥深くにある遺跡の前。昼。
バーマンとその数名の部下たちが遺跡の周りに集まっている。
爆発音が響き、地面や周りの木がが振動で揺れる。

バーマン「…」

バーマンは遺跡をじっと見つめながら、煙が分散するのを待つ。
バーマンの隣や背後には緊張した面持ちで見守る多数の部下。
煙は徐々に薄くなり、岩からはみ出でた無機質な機械が姿を表す。
扉のような形をした巨大な塊には傷一つついていない。

バーマン「やはり駄目か…」

悔しそうに唸るバーマン。
バーマンは勢いよく振り返り、背後に並ぶ自分の部下たちに怒鳴りつける。

バーマン「おい、何か見つけたやつはいないのか!?」

肩を震え上がらせるだけで、誰一人、返事をしない。
イライラした様子のバーマン。

バーマン「いいかお前ら!裏口でも、スイッチでも、とにかく何でもいい!徹底的に調べて何か見つけろ!行け!」

バーマンの怒鳴り終わると同時に部下たちが慌てて散り散りになる。
バーマンは険しい表情で部下たちの様子を眺め、そして目を細める。

バーマン「クソッ、あの女に横取りされる前に、なんとかせねば…」

遺跡の前。バーマンの部下の1人が巨大な機械を調べている。
その兵士は入念に隅々を強く押していく。
くぼみに指を入れ強く押すと、扉の機械の一部分が変形し、真ん中に細く
長い小さな窪みのある小さい台が姿を現す。
兵士は腰から細ながい金属の棒を取り出し、くぼみに入れる。棒を左右に動かすが、金属がぶつかる音が響くだけで何が起こるということもない。
兵士は棒を引きぬき、次は自分の手を入れよう試みる。しかし、穴が細すぎるため上手く腕をを進ませることができない。
兵士は力任せに自身の手を突っ込み、無理矢理ねじ込ませようとする。

兵士「ぐっ..」

指を圧迫され声を漏らす。
兵士はくぼみに手をを入れるのを諦め、指を引き抜こうをする。
突然、くぼみを中心に、まるで水がホースを伝うように
台一面に光の筋が走る。

兵士「えっ?」

ほうけた声を上げる兵士。
台の一部が開き、そこから細長い棒が伸びる。棒の先端には鋭く尖った針のようなものが付いている。

兵士「!?」

兵士は驚いて台から離れようとするがくぼみから指をうまく引き抜けない。
細長い機械は台から伸び続け、そしての先端を兵士の方へと向ける。

不機嫌そうに遺跡の周りを見回るバーマン。
バーマンの部下たちはバーマンが背後に立つたびに肩をこわばらせる。

兵士「うわあああ!」

突然、背後から上がる悲鳴。

バーマン「なんだ!?」

バーマンは声の方へ振り返り、バーマンの部下たちも顔を上げる。

遺跡を囲うように集まっている兵士たち。

バーマン「何があった!」

バーマンは立ち尽くしている兵士たちを押し退け前に出る。
遺跡の前ではしゃがみこむ兵士に針のような細長い機械が迫っている。

バーマン「かがめ!」

叫ぶバーマン。慌てて体を前かがみになる兵士。
バーマンは腰から素早く銃を引き抜き、細長い機械に向かって発砲する。
金属がぶつかり合い鋭い音が響く。しかし細い棒は傷一つつかず、ビクともしない。

バーマン「クソッ」

バーマンは銃を投げ捨て、腰に差してある剣を引き抜き、
細長い機械に向かって突進する。バーマンの剣と針が勢いよくぶつかり、
無機質な音が森に響き渡る。細長い機械と対峙するバーマン。
剣で針を押さえながら汗をにじませる。バーマンの背後では兵士が呆気に
とられていたが、すぐに気をとりなおし必死に台のくぼみに挟まった指を
引き抜こうとする。

兵士たち「…」

遺跡の周りで固唾を飲んでその様子を見守る兵士たち。
兵士は空いた手で壁に手をつき、力を入れる。指が勢いよく台から抜ける。
指が抜けたのと同時に台一面に広がった光の筋が収束していき、細長い針がバーマンの剣から離れる。
針は何事もなかったかのように台へと収納される。
バーマンは機械と対峙したままの格好で、立ち尽くす。
バーマンの腕を離れ、地面へと落ちる剣。

兵士たち「…」

静まりかえる一同。ゆっくりと腕を下ろし、それからバーマンは
遺跡を見上げる。そこには威圧的にそびえ立つ巨大な機械。

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