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被災地に求められる創造的な復興とは? | WHY & HOW by NOSIGNER Vol.10

「WHY & HOW by NOSIGNER」は、デザインファーム・NOSIGNER(ノザイナー)がお届けするソーシャルデザインマガジンです。いまデザインが挑むべき社会課題(=WHY)を毎回一つ取り上げ、その背景を掘り下げるとともに、NOSIGNERが関わっているプロジェクト(=HOW)についてご紹介します。


WHY #10:被災地の創造的復興

度重なる災害で疲弊する被災地

令和6年能登半島地震で甚大な被害を受けた能登地方は、地震発生から10ヶ月が経過したいまもなお、人手や資材の不足、半島という土地の特性などさまざまな要因が相まって、復興への道のりは険しいままです。こうした中、9月下旬には能登半島を襲った記録的な豪雨によって河川の氾濫や土砂崩れが多発し、中には被災者が入居する仮設住宅も含まれていました。先の地震、そして今回の豪雨によって被災された方々に心よりお見舞いを申し上げるとともに、一刻も早い能登の復興を望むばかりです。
令和6年能登半島地震を受けて、 WHY & HOW Vol.1では「防災」をテーマにしましたが、今回のニュースレターでは、自然災害などによって甚大なダメージを受けた被災地の「創造的復興」にフォーカスします。

気候の不安定化によって、歴史的な被害をもたらす自然災害が世界各地で頻発している。主に地殻変動に起因する地震の数には大きな変化がない一方で、昨今の気候変動の影響によって、干ばつ、異常気温、飢饉、洪水などの気候災害が急増している。

災害の度に破壊されるインフラ

被災地の復興においては、道路およびその沿線にある上下水道、電気、通信といったインフラの早期復旧が急務となります。現代の道路は、土地や施工費の安さなど経済合理性を優先してつくられることが多いため、凹凸が少なく地権が明確な川沿いや干潟などハザードマップと重なるエリアが選ばれており、災害の度に破壊されてしまうケースが少なくありません。何度も同じ場所を修復するだけの復旧工事は次の災害に耐え得るものにならず、災害大国である日本においては「賽の河原」とも言えるのです。また、こうした水辺は流域生態系の生命線になっているため、開発によって自然に甚大なダメージを与えてしまうことも大きな問題です。
旧来の街道筋などは、強靭性があるなだらかな尾根などにつくられているケースが比較的多く見られます。こうした古来の知恵と現代のテクノロジーを融合させ、人と自然が共生できる新しい土木をデザインすることが求められているのです。

気候変動の進行とともに増加する自然災害によって、住む場所を追われる人々は年々増加している。

復興の背景にある利権構造

世界的に見ても災害と復興は利権に直結してしまう実情があります。被災地における復旧工事、復興事業は、一握りの利権者に莫大な富をもたらすという構造的な問題を抱えています。多くの人々の命が失われた東日本大震災、あるいは甚大な台風津波(高潮)の被害から10周年を機にNOSIGNER太刀川が講演したフィリピン・タクロバンでも、被災地では沿岸部で巨大な防潮堤が次々と建造されました。これらは住民への合意形成を十分に図らず、時に反対を押し切る形でつくられているケースも見られました。その結果として地域の魅力が失われ、過疎化が進行してしまうことも多くあります。災害からの復興においては、どのような地域をつくりたいのかという住民を巻き込んだビジョンの形成こそが大切なのです。
世界各地で頻発する自然災害による被害者が増えている中で、傷ついた住民の希望となり、災害に強く地域の価値を高める真にレジリエントで創造的な復興戦略が求められています。


HOW#10:能登半島地震復旧・復興アドバイザリーボード

石川県復興プランの策定に参画

能登半島地震からの復旧・復興にあたって、幅広い見地から専門的・技術的な意見を聴取することを目的に石川県が設置した「 能登半島地震復旧・復興アドバイザリーボード」の委員にNOSIGNER代表の太刀川英輔が就任しました。これまで3回にわたって行われたアドバイザリーボード会議や、被災6市町および金沢市で行われた「 のと未来トーク」などを通じて被災地の事業者や住民とも対話を重ねながら、復興プランの策定を進めています。
「石川県創造的復興プラン」(仮称)では、単なる復旧にとどめず、自然と共生する能登の魅力を守り高めることで、能登ブランドをより一層高める「創造的復興」を掲げ、「教訓を踏まえた災害に強い地域づくり」「能登の特色ある生業の再建」「創造的復興リーディングプロジェクトの創出」などの施策が検討されています。

被災地の事業者や住民との対話を重ねた「のと未来トーク」。

創造的復興の実現に向けた提案

アドバイザリーボードの一員である太刀川は、復興プランをより良いものにしていくためにさまざまな提言をしてきました。創造的な復興に向けて能登が一丸となれる明確で創造的なパーパスの策定の必要性を訴えた上で、古い慣習から脱却する現代的な土木の実践、地域のレジリエントや持続可能性を高めるエネルギー施策、能登の自然美と伝統美を活かした地域ブランドの世界発信、被災した歴史的建造物の再利用、禅思想やクラフトの「聖地」の復活と再発信、サーキュラーエコノミーと脱炭素に配慮した持続可能な農業モデルの構築など具体的な提案を数多く行いました。

能登半島地震復旧・復興アドバイザリーボード会議における太刀川の発表資料より一部抜粋。

流域単位で適応策がデザインされた能登へ

太刀川による提案の多くは、気候変動に適応する新しい都市開発コンセプト「 ADAPTMENT」を援用したものです。能登を「流域治水」と「適応策」の聖地にすることや、集落ごとに流域地図と生態系を踏まえたスーパーハザードマップをデザインし、自然と共生しているエリアや水の流れが理解できる新しい地域防災を発信すること、小流域単位で生態系を保全する能登半島国定公園をリデザインすること、などの提案にADAPTMENTの思想が反映されています。
豊かな自然と文化が共存し、美しい日本の原風景が残る能登地方には日本が世界に誇る多くの粋が結集しており、さまざまな観点から世界的な「聖地」となり得るポテンシャルを持っています。能登の素晴らしい資産を世界に発信していくとともに、これからの気候変動にも耐える地域開発づくりの知見を最大限活かしながら、能登の創造的復興を実現するために尽力していきます。

能登半島の小流域をGIS(地理情報システム)で解析し、現在のハザードマップ(黄色)と、能登半島地震によって斜面崩壊した箇所(赤)を示した太刀川作成のマップ。自然災害も生物多様性の喪失も同じく、流域単位で発生する。今後より強靭な能登半島をつくるには、こうした観点を見つめることが不可欠になる。

太刀川の発表資料を見る(P.64より)


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

NOSIGNERでは、いま私たちが挑んでいる社会課題(=WHY)や、デザインの実践(=HOW)を毎回1つずつ紹介する「WHY&HOW」から、NOSIGNERの最新ニュース、代表の太刀川英輔による近況報告、スタッフ持ち回りコンテンツなどさまざまなコンテンツが満載のニュースレター「WHY & HOW by NOSIGNER」を配信中です。

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ABOUT NOSIGNER

NOSIGNERは、社会の各セクターを進化へ導くデザインパートナーです。デザイン戦略のプロフェッショナルとして、ブランディング・商品企画・空間設計・ウェブサイトのデザインなど様々な領域で国際的に評価されています。また、地域活性・まちづくり・脱炭素・気候変動・防災などの分野で豊富な知識と経験を備え、代表の太刀川英輔が提唱する「進化思考」を通して、創造的な組織や人材の育成活動にも力を入れています。


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