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トイレに行っトイレ
朝、布団の中で目を覚ますと、喉の奥が重く、胃がキリキリと痛むのを感じた。
学校に行きたくない。
もう何日、この気持ちで朝を迎えているだろう。玄関のドアを開けることすら怖い。クラスの誰かと目を合わせることを考えただけで、息が詰まりそうになる。
母は心配そうに、「今日はどうする?」と聞いてきた。僕は布団をかぶりながら小さく「休む」と答える。母はそれ以上何も言わず、ただ優しく「そっか」と呟いた。
時間だけが静かに過ぎていく。SNSを開くと、クラスメイトたちの「今日の授業つまんなかったー」「テスト最悪!」みたいな投稿が流れてくる。そこに僕の名前はない。まるで僕がこの世界にいないみたいだった。
「……トイレ行ってくる」
誰に言うでもなく呟いて、布団から抜け出す。部屋を出ると、母がキッチンでコーヒーを飲んでいた。僕を見ると、少し微笑んで言った。
「トイレに行っトイレ」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。でも次の瞬間、なんだかおかしくなって、ふっと笑ってしまった。
「あはは、なにそれ……」
「ダジャレ。ちょっとでも笑えたなら、よかった」
母はそう言って、またコーヒーをすする。
僕はトイレのドアを開ける前に、もう一度だけ小さく笑った。