![見出し画像](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/127497359/rectangle_large_type_2_14d43b08e099afe2bad68de34067eef1.png?width=1200)
『残夢』
マリンバの音が鳴るiPhoneを手にしたら現実世界に引き戻された。たしかに音はそこで鳴っていた。そして僕はやっと今いるこの世界が現実だとようやくわかった。自身の体をゆっくり起こす。外が明るいのか暗いのかよくわからない時間だ。まるで時間がない世界に浮遊しているかのようであった。
もう1つの世界で僕はなにもない荒野を歩いていた。厚い雲に覆われ、生命力を失った草花が点々と寂しく聳えていて、でも一輪だけ咲くナルキッソスがそこにいた。それが見えた僕はそっと撫でた。ようやく見つけた生き別れの肉親かの出会ったかのように。
「やっと逢えたね」
どこからかそんな声が聞こえたような気がした。少し枯れたようなの声で。
「ここだよ」
え?
声がする方に近づいてみるとそこにはナルキッソスがいた。聞き間違いでないことが、ナルキッソスの揺れでわかった。幾つもの季節を、白い梅雨空を誰とも言葉を交わす必要もなく、ただ誰かを待っていたかのよう存在していた。
「あなたは今は何してるの?」
・・・
わけのわからない問いに僕は戸惑うばかりで、ただ呆然と立ち尽くしていた。見つめる先には先の見えない地平線と少しの風になびいたナルキッソスがいるのみ。風になびく髪の毛で見えなくなっている視界を手で掻き分けながら前を進む。するとそこには断崖のふちに立っていた。まるで呼び寄せられたかのように。
何もないところで、聞こえない声に耳を澄ませ歩を1歩ずつ。1歩ずつ。海に投げ出された僕はゆらゆらと漂う。
そうして僕はようやく夢から醒めた。
いいなと思ったら応援しよう!
![noruniru](https://assets.st-note.com/production/uploads/images/87489842/profile_84d7e37f9299e30023e3ba91ffeb3d9a.png?width=600&crop=1:1,smart)