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「夜間往診」提供事業者が考える、夜間往診の課題と未来

はじめまして、ノーススターで代表をしている田北です。

ノーススターでは「医療をもっと身近に」というビジョンの下、インターネット・テクノロジーを活用することで人々が本当に必要な医療に辿り着ける一助となること、そして患者さんが自分の健康について向き合う羅針盤となることをミッションとしています。

日本では戦後、国民皆保険制度が作られ、人々が平等かつ容易に医療機関を利用できる体制が整備されました。また医師や看護師の方を始めとする医療従事者の方の日々の努力・献身に支えられ、世界で最長寿、そして最も健康な国の一つとなっています。

一方で日本の医療の未来を考えると、医療高度化・高齢化に伴う医療費の増大(財源不足)や、医師不足、医療者の働き方改革、地域医療の格差問題などなど、避けては通れない課題が多くあるのも現実です。これまでの医療を当然のこととして成功体験だけに囚われていては、破綻の道に進むのは目に見えています。私たちノーススターは、後世にこれまでの素晴らしい医療を引き継いでいくためにも、自分たち自身が、今、アクションを取る必要があると考えています。

ノーススターは株式会社という形態ではありますが、医療従事者の方々と同じく「より良い医療の実現を志すもの」として、新しい医療サービスのあり方を世の中に提案したいと考えています。こちらのnoteでは自身の考えの整理も兼ねて、社会や医療業界の課題や、そうした課題に対する会社としてのスタンスを発信していきたいと思います。

第一回のテーマは、夜間往診サービスについてです。

キッズドクターでは、医療機関や往診事業者と提携して「夜間往診サービス」を提供しています。自宅に医師が来てくれる往診サービスは患者にとって非常に便利に感じる一方で、現状の使われ方には課題点も指摘されています。

今回は夜間往診の現状について改めて整理した上で、キッズドクターとしての往診に対するスタンスや、今後より適正利用を進めていくための考えについて書いてみたいと思います。


コロナを期に夜間往診サービスへの需要が大きく拡大

2020年からの新型コロナウイルス感染症の感染拡大をきっかけに、自宅に医師が訪問して診察・治療が受けられる夜間往診サービスの利用が大きく広がっています。
特に新型コロナウイルスの流行禍においては、自宅療養者・入院待機者に対する医療支援として、また医療体制が逼迫した際の補完的な受け入れ窓口として、往診サービスは大きな効力を発揮しました。

昨今では夜間・休日のかかりつけ医が開いていない時間においての救急医療の代替・補完として、サービス利用の裾野が広がっています。

そうした往診サービスに対して、患者側はどういったメリットを感じているのでしょうか?特に子育て家庭がイメージしやすいものをいくつかまとめてみます。

患者が感じる夜間往診のメリット

自宅で医師の診察が受けられる

患者にとっての往診サービス最大のメリットは「自宅に医師が訪問して診察・検査・治療(薬の処方含む)が受けられる」ということかと思います。夜間救急病院は待ち時間が長かったり、夜間の移動が困難だったりもするので、特に小さなお子さんを持つ保護者の方は「助かるシステム」と感じるのではないかと考えられます。

健康保険・こども医療助成が適用される

夜間・休日往診も通常の保険診察と同様に健康保険や自治体のこども医療助成等が適用されるので、費用の観点でも患者側は安心して受診することができるのではないかと考えられます。

病院での感染リスクへの不安が減る

往診を活用することで、感染症を保有している疑いのある患者が公共交通機関で移動したり一つの場所に集まったりすることを防げるため、二次感染リスクを抑えられる可能性があります。またコロナ以降、病院での二次感染を恐れて病院受診を控えるという行動も見られましたが、そうした方の不安も往診であれば取り除くことができます。

このようなメリットから往診サービスの利用が増えている現状がありますが、課題もあります。

そもそも往診は、”患者ご本人もしくはその家族やその看護にあたる方から医療機関に対し往診を求め、医師が往診の必要性があると判断した場合”にのみ認められるもので、誰もが気軽に利用できるものとは定義されていません。その必要性の判断にあたっては、解釈が分かれるところです。

具体的には次のような課題点が指摘されています。

夜間往診の課題

コンビニ受診を助長する

往診は患者にとっての利便性が高いため、安易なコンビニ受診を誘発する可能性があります。特に子どもの受診に関しては、自治体のこども医療助成が使えるため無料もしくはかなり低額の自己負担で治療が受けられることから、コンビニ受診を更に助長するリスクがあります。

高額な医療費・社会保障への影響

往診は緊急的なケースまたは夜間・休日等のイレギュラーな時間に医師が自宅に訪問して診療を行うという性質上、診療報酬が比較的高額に設定されており、場合によっては数万円の費用となることもあります。前述のとおり利用する側の金額負担は少ないのですが、国が健康保険で負担している医療費は高額になる、ということです。高額な医療費がかかっていることを意識せず使い続けると、現在・将来の医療財政にネガティブな影響を与える可能性があります。

医療の質の確保

往診は緊急的な受診となるため、かかりつけ医等が持つ過去の治療歴や患者データを十分に確認・検証できず対応するケースが多くあります。また往診医師は幅広い患者の幅広い疾患に対応する必要があるため、患者が子どもの場合でも小児科等の専門医が診察にあたるとは限らず、医療の質という観点で課題があります。「あくまで救急受診である」という性質を患者が理解せずに利用すると、患者の期待値と実際の対応が大きく異なるということも生じ得ます。

医師リソースの無駄遣い

夜間往診は医師が患者宅に移動するというサービスの性質上1時間に1〜2件の診療にとどまることが多く、一般の病院受診フローと比べて多くの患者を診られない=限られた医師のリソースを有効活用できないというデメリットもあります。また昨今の医療業界の働き方改革を踏まえると、夜間・休日に稼働するという無理のあるワークスタイルが拡大することへの懸念もあります。

キッズドクターでは保護者の不安に寄り添うことを大前提としつつも、社会保障や医療サービスの一端を担うものとして、自分たち世代や後世への負の遺産を残さないためにも、課題点には真摯に向き合っていく必要があると感じています

今後どういった形で往診サービスに関わっていくかは正直悩んでいるところで、模索しながら進んでいる最中です。社会から一定のニーズがある中ですぐに変えていくことはなかなか難しいのですが、われわれとしてもできる限りの対応は行っていきます。直近では、下記対応を進めていきたいと考えています。

キッズドクターの往診利用適正化に向けた取り組み

患者啓発の実施

夜間往診に限らずですが、国や自治体の施策で子どもの医療費の自己負担が抑えられていることは、未来を担う子供や子育て世代を社会が支える素晴らしい仕組みだと思います。だからこそサステイナブルに仕組みが存続できるよう、そこに一定の費用がかかっていることを利用者に啓発し、不要不急の受診や往診利用を適切に抑制する取り組みを行うことは、事業者・医療機関側の責任だと考えます。

アプリ内コンテンツを通じて保護者の方へ往診の適正利用の啓発を行ったり、重症化を見極めるポイントを伝えたり(保護者が受診不要と判断しても医療者から見ると重症化リスクがある、などという恐れもあるため、こちらは慎重に考える必要がありますが)、患者のセルフメディケーションを後押しする取り組みを実施しています。

適切なトリアージの実施

往診の適正利用の観点で最も難しいのが、緊急性や必要性の判断の部分です。こちらに関しては患者や保護者による判断は当然難しいため、医療従事者の判断が必要となりますが、医師が全てのトリアージ需要に応えるのは医師リソースの観点でも難しい選択となります。そんななかキッズドクターでは、小児の救急外来に長けた熟練の看護師と医師が連携し適切なトリアージを実施できる体制を作っており、症状に応じた適切な医療の受診勧奨、不要不急受診の抑制等の取り組みを実施しています。

オンライン診療の活用

最近、病院受診を補完する医療サービスとして、オンライン診療の利用が広がっています。オンライン診療は検査ができない、医療的処置ができない、といったデメリットはあるものの、往診と同じく自宅でスマホなどのデジタルデバイスを介した診察が可能となります。診療費用が相対的に低く抑えられているため上手く活用すれば医療サービス提供のコストも抑えられますし、医師が移動する必要もなく、医療財政・医師リソースの適正利用という観点で往診にない大きなメリットがあります。

キッズドクターでは上述のトリアージと組み合わせ、こうしたオンライン診療の利用を促進することで、医療費の適正利用という点でも一石を投じていきたいと考えています。

最後に

ここまで長々と読んでいただきありがとうございました。
最後となりますが、このnoteは、特定の事業者や医療関係者を否定・批判する意図はありません。あくまでも私たちノーススター社の考えや現状を記載したものです。それぞれスタンスに違いはあれど、”医療を良くしたい”という同じ思いを持つ方々と、今後もあらゆる方面で協力しながら日本の医療業界の発展に貢献していきたいと考えています。

今後もその時々の考えをまとめていきますので、またこの連載でお会いできますと幸いです。

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