プロと素人の違い
職場の同僚がこんなことを言った。
「同じ仕事を繰り返すのは、だんだんめんどくさくなる」
本業が他にある彼女はここのところの世の中事情で副業が許されているらしく、週に何回かアルバイトに来ている。
「コールセンターのオペレーターも毎日同じ内容の問い合わせに
同じように答えていると、だんだんつまらなくなってきて、
自分流にカスタマイズした話し方をする気持ちわかるなぁ」と。
そんな話を聞きながら私は、自分が遥か昔、映像編集のアルバイトをしていた二十歳の頃を思い出していた。
TV番組のVTRや企業CMのVTR編集をしていたんだけど、
その一方で非常に割の良い編集作業があった。結婚式だ。
当時は結婚式を行うことはごくごくあたりまえのことで、その披露宴を撮影してVTRに収めることも普通に行われていた。
ブライダルフェアなるものに参加して、結婚式の際にビデオ撮影しますよ、
一生の思い出にいかがですか?と営業もしていた。
みなさんあたりまえのように注文していたので、ほとんど毎週末撮影があり、翌日にはせっせと編集をしていた。
結婚式といえば、披露宴。披露宴といえば司会者。
この司会者、友人に頼む人もいるようだが、
私が編集した中では圧倒的にプロが多かった。中にはTV局のアナウンサーもいたりした(結婚式の副業は認められていると聞いたことがある)。
徳光さんの司会を編集したこともあったっけ。
で、このプロの司会者はすごい。
何がすごいって、毎回毎回判で押したように同じセリフを感情込めて言うのだ。
「新郎新婦の入場です。みなさん盛大な拍手でお迎えください!」
「新郎は学生時代から女性に人気があり〜」
「新婦はこの日のために〜」
「育ててくださったご両親へ〜」
見事なくらい同じことを喋っているのだ。
しかし、なぜか全く違和感なく、むしろ耳心地よく聞こえるから不思議だ。
プロのアナウンサーらしく滑舌がいいからだろうか?
あるとき、私はホテル会場に何かの用事で出向いた。
(どうして出向いたかまでは覚えていないが、おそらく予備のバッテリーを持っていったのだろう。)
そのとき偶然にもプロ司会者に会った。その人は撮影準備をしている様子を眺めていたのだ。私は若さゆえ〜話しかけていた。
「どうして毎回同じ話ができるんですか」
直球
「プロだからですよ」
ど直球が返ってきた。
聞くと、打ち合わせをして進行を見ると大体内容は同じで、話すことも同じになる、とその司会者は言っていた。
確かにそうだ。結婚式の進行はどれも割と似たようなものだ。
そしてこうも続けた。
「同じようなセリフで進行していても、目の前の新郎新婦のために心を込めて司会をしていますよ。でもプロだから同じようにできるのかな、うん。」
当然プロだから、なのか
でもプロだから、なのか
どちらにしてもプロだから、が正解らしい、と思った。
「コールセンターのオペレーターも毎日同じ内容の問い合わせに
同じように答えていると、だんだんつまらなくなってきて、
自分流にカスタマイズした話し方をする」
ああ、これがプロと素人の差なのだ。
同じことを答えることに飽きたり、つまらない、と感じるのは素人だ。
コールセンターは毎回話すお客様が違う。お客さまにとっては毎回毎回同じ話を聞かされているわけではない。飽きるだの、つまらないだの感じるのは自分勝手なことだ。
プロはお客様のためにできてなんぼ。
30年前の記憶と共にあらためて考えてみたというお話。