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マーケティング1.0~4.0の変化をエレキギターに当てはめて考えた。

ジブン株式会社ビジネススクール。10月の4限目の課題は
コトラーのマーケティング1.0から4.0への進化」

1.0~4.0の流れををエレクトギターの歴史に当てはめて考えてみます。


マーケティング1.0 生産主導

プロダクトアウト、物を大量に生産できるようになった時代は、生産物を消費者に認知してもらう事(広告)、実際に消費者に届ける(流通)がマーケティングの役割。

メーカー「ハウらないエレキつくったよ!」

エレクトリックギターのパイオニアであるアメリカのフェンダー社。
1950年、ソリッドボディのエレクトリックギター「エスクワイヤ」を発表します。
エレキギター自体はエスクワイヤ以前にも、アコースティックギターにピックアップ(弦振動を電気信号に変換するパーツ)を搭載したものが存在していました。しかしそうしたギターは音量を大きくすると、空洞になっているボディで音が共振(フィードバック)が起こり、ハウリングによるノイズが発生し、大音量での演奏には適していませんでした。
エスクワイヤは、ギターのボディは箱状で空洞があるという常識を捨て、空洞のないソリッドなボディを持っています。空洞がないといことは、そのまま演奏しても音が響かない、という事でもありますが。最初からアンプで電気的に音量を増幅することに振り切った構造を持っています。
エスクワイヤはその後「ブロードキャスター」、そして現在もエレクトリックギターの代表的な機種である「テレキャスター」と名称を変え、販売されています。

上記はテレキャスターを扱う販売店の当時の広告です。
色々説明書きがある中に、「7.No Feedback」とあります、これが「ハウリング起こしませんよ」という事ですね。
広告のなかに「RADIO&TELEVISION EQUIPMENT」とありますが、これが販売店の名前のようです。楽器屋ではなく、電気屋で売っていたと思われます。最初は本格的な楽器とは認知されていおらず、それだけに、製品の特長を箇条書きできちんと説明して、認知を得ようとしていたのかもしれません。

しかし、1950年代といえば、レコードの普及、コンサートの規模の大型化など、ポップミュージックという巨大なビジネスが誕生した時代。大音量を奏でるソリッドボディのエレキギターは時代の一翼を担っていきます。
それこそテレビも普及し、音楽番組などで目にする機会も増え、認知されていったと思います。

余談ですが、フェンダー社の創業者であるレオ・フェンダー自身、ギター職人ではなく、ラジオの修理などを出がける電気屋でした。
ギターといえば、バイオリン等の製造技術の流れを汲み、板を蒸気で曲げたり、カンナで美しい曲線を削り出したり、接合部の形をぴったり合わせてニカワで接着するなど熟練の手仕事を要するものでしたが、テレキャスターの板(ボディ)に棒(ネック)をネジで留める、というアメリカらしい豪快な製造合理化にしびれます。最初楽器屋が扱わなかったのもうなずけます笑


マーケティング2.0 顧客志向

マーケットイン、顧客のペルソナや、セグメント、ターゲットごとのニーズにフォーカスしていく。

ユーザー「こういう演奏がしやすいギターが欲しい!」

多く人がエレクトリックギターを手にするようになり、その中で、より自分の使いやすいように改造する動きが生まれます。

象徴的なのがこちら

ギタリスト、エディ・ヴァン・ヘイレンの通称「フランケン」と呼ばれるギターです。特徴的なストライプ模様、ストラトキャスターと呼ばれる形状のギターに、ハードロックに適した厚みのあるサウンドのピックアップ、そして大胆なアーミング奏法を可能にするダブルロッキングトレモロなどを搭載しています。

ライトハンド奏法など、ギターのテクニックに革命をもたらしたエディ・ヴァン・ヘイレン。彼の登場でそうした演奏方法に対応したギターのニーズが高まり、1980年代はハイテクなスペックを搭載したギターが主流となりました。顧客(ギタリスト)のニーズが変化し、メーカー側がそれに応える流れですね。

さらに日本からはE.S.Pなど、ギタリストの要望に合わせてゼロから設計するカスタムメイドを得意とするメーカーも現れます。



マーケティング3.0 価値主導・人間中心

企業文化、ブランディング、精神的な価値

ファン「推しと同じギターが欲しい!弾かないけど!」

1990年代、日本では「ヴィジュアル系ロックバンド」のムーブメントが起こります。煌びやかな衣装やメイクに趣向を凝らしたアーティストたちは、ギターにもオリジナリティを求めます。そうしたニーズに応えたのがカスタムメイドを得意とするギターメーカー、E.S.P.でした。ルナシー、ラルクアンシェルなどがこぞって使用し、彼らと同じスペックのモデルが「アーティストモデル」として発売されます。
そうしたモデルの多くは、主にそのアーティストに憧れる若いプレイヤーが買い求めましたが、ギターは弾かないけれど、好きなアーティストが使っているモデルをコレクションするファンも生まれます。

演奏の道具、という実用的な価値だけでなく、好きなアーティストとのつながりを感じる精神的な価値が出てきたのですね。


コレクター「1969年のモデルがほしい!」

一方アメリカに目を戻すと、80年代終わりに、ガンズアンドローゼスが登場します。

ガンズのギタリスト、スラッシュが古びたギブソン社の「レスポール」を演奏する姿が、それまでハイテク系ギター全盛でやや下火になっていたクラシックなモデルの人気に再び火をつけます。

ギブソン社は、フェンダー社と並びアメリカの2大エレクトリックギターメーカーといえる存在です。もともとマンドリンやアコースティックギターの製造からスタートし、合理的なフェンダーとは対照的に、伝統的な製造手法を活かした美しいエレクトリックギターで知られています。

1980年代から90年代、ギブソン社にもフェンダー社も、老舗としてそれまでの歴史が積み上がってきました、それはメーカーとしての歴史にとどまらず。20世紀の音楽産業の歴史とも言えます。数々の名演が、ギブソンやフェンダーのギターで奏でられてきました。古いモデルもビンテージとして市場で取引されるようになりました。両メーカーともそうした自社の歴史的な資産を活かして、例えば「1969年、ウッドストックでジミ・ヘンドリックスが星条旗よ永遠なれを演奏したフェンダーストラトキャスター」や「イーグルスのホテルカルフォルニアのレコーディングで使用されたギブソンレスポール」といった、歴史的な名器と同じ年代のギターを、あるいはそのもののレプリカをメーカー自身が再現して販売するなど、これまた実用的な価値のみにとどまらないコレクション的な価値を生みだしています。

マーケティング4.0 顧客の自己実現を目指す

デジタル経済、承認、WAO

メーカー「こういうギターを選ぶとFコードが抑えやすいですよ。オンラインでレッスンもしているので、一緒に頑張りましょう!お店にも遊びに来てね!」

2000年以降、ポップミュージックの主流がロックからヒップホップへ移る流れの中で、音楽を始めたい、となったときにまず手に取るのはギターからラップトップやスマートホンへ、となってきている。と思いきや、そうとも言い切れないようです。

フェンダー社は2015年、新たなCEO(最高経営責任者)にナイキやディズニー・コンシューマー・プロダクツでCFO(最高財務責任者)やCMO(最高マーケティング責任者)を務めたアンディー・ムーニー氏が就任します。その後の年間売上高は4億ドルからスタートし、コロナ化を経てもなお、現在10億ドルに迫る勢いで成長しているといいます。

フェンダーのCEOになったアンディさんは、さっそく購買層を知ろうとする。

「フェンダーのギターは誰が買っているのか教えてほしい」

社内で問いかけると、さまざまな意見が集まった。しかし、もっとも大きな購買層はどこにあるのかがさっぱりわからない。そこで新たにマーケティング・リサーチをかけた。フェンダーでは、それまでは市場に大きくリサーチをかけてこなかったのだ。

調査した結果、次のことが明らかになった。

①フェンダーの購買者の約45%が初めてギターを手にする層
②そのうち約50%が女性
③初めてギターを購入する人の約90%が1年以内にギターをやめる
④継続してギターを弾く約10%のほとんどが一生弾き続ける
⑤アメリカではその多くがオンラインでギターを学んでいる
⑥ギターを継続する層は、上達するにつれて計5~7本のギターを購入。平均1万ドル(約144万円)くらいギターに使う

このリサーチの結果から、アンディさんは経営のプランを立てた。

https://goetheweb.jp/person/article/20241022-fender

・握力の強くない女性や子供も演奏しやすい、ショートスケール(弦長が短く、張力が柔らかい設計)のラインナップに力を入れる。
・オンラインのサブスク型レッスンサービス「フェンダープレイ」を提供する。

ギターを始めた人の離脱率を下げ、継続する手助けにメーカー自身がコミットする。インターネットを活用することで、ものづくりの会社であるフェンダー社も直接レッスンコンテンツを提供できるようになりました。

さらに、リアルな拠点にも力を入れています。2023年6月、東京・原宿に世界初の旗艦店をオープン。ガラス張りで、ナイキストアやアップルストアに近い明るくオープンで入りやすい雰囲気で、かつフロアを上がると、重厚で落ち着いた雰囲気の中、カスタムショップと呼ばれる最高級ラインナップもずらりと並ぶ、フェンダーの世界観を伝える店舗になっています。

ここにはリアルxインターネットの相乗効果があると思います。

近年、フェンダーは自社のウェブショップにも力を入っています。ウェブショップで気になるギターを見つけると、旗艦店に在庫があると表示され、
ウェブで広く見込み客にアプローチし、そこから自社の世界観を伝える旗艦店への導線も設計されています。
YouTube上では、フェンダーのギターを愛用するアーティストや、ギターに関するインフルエンサーたちがフェンダーの旗艦店を訪れる動画が数多くアップされています。そうした動画が広まることで、旗艦店を訪れることも一つの体験価値になり、一般のギター好きも、「フェンダーに行ってきた」とSNSでアップしたくなると思いますし、そうしてまた認知の裾野が広がる効果があると思います。

フェンダー社はエレクトリックギターをつくる製造業の会社ですが、フェンダーのギターはポップミュージックという巨大な文化に深く紐づいています。その文化・歴史という強力なブランドを活かしつつ、インターネット・リアル双方で顧客とのコミュニケーションポイントを増やし、新規顧客がギターを継続的に楽しめるようにケアをし、ともに成長を続けている。これが、マーケティング4.0の1つの在り方だと思います。

ふと思ったのですが、楽器メーカーが楽器のレッスンサービスを提供するって、ヤマハが、ヤマハ音楽教室で昔からやってることですよね。すごいぞヤマハ。

こうしてみていくとマーケティングはコミュニケーションだと感じます。
インターネットによって接点が増えたことで、よりきめ細やかなコミュニケーションが可能になっているだと思いました。

「Made in USA」が今も輝く製造業

ギブソン社は、2018年5月、裁判所に連邦倒産法第11章の適用を申請。家電やオーディオ・エレクトロニクス商品に手を広げたことで負った5億ドルの負債によって経営が立ち行かなくなった、と報じられています。ギブソン社も時代の変化に危機感を持ち多角化に乗り出し、そしてそれは上手くいかなかった、と想像できます。
その後、リーバイスのブランド責任者を務めていたジェームズ・カーレイ氏をCEOに迎え再建に取り組み、現在も製造を続けています。2023年7月、カーレイ氏は退任し、セザール・グイキアン氏が就任しています。

上場会社ではないので定かでないのですが、拾えたデータによると2023の年間売上高は9.9億ドル。

推移はちょっとわからなかったのですが、フェンダーもギブソンも、(そしてリーバイスも)アメリカの歴史・文化を代表する製造業であり、ハイエンドなラインナップに関しては今も、メイドインUSAであることに特別な価値を有するブランドです。こうした企業のマーケティングが今後どう変化していくかも楽しみですね。

最後に、現代の名手、ジュリアン・ラージによる、テレキャスターの音色が素晴らしい演奏を。ライブ見に行くので楽しみ!

ノースKでした。


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