スタンフォードMBA留学記(2024年卒業) ⑭リーダーシップ編その5
リーダーシップ編はいったん最後になります。
スタンフォードビジネススクールでは、琴線に触れるようなリーダーシップの授業(その3・4でご紹介したTouchy Feelyなど)もあれば、人に言うことを聞かせる力を高める授業(タイトルにpowerが入っている授業)もあります。
ここでは、Acting with Powerという授業について書きます。リーダーシップの先生と演劇の先生が組んで、どのように振る舞えば力のあるリーダーになれるか、ということを学んで練習する授業です。ここでいう力(パワー)とは、あえて日本語にするとすれば、人に言うことを聞かせる力かと思っています。
この授業の最大のメッセージは、リーダーとしてパワーを高めることと温かさをもつことは両立できるというものです。通常、パワーのあるリーダーは冷たいイメージがありますし、人柄が温かいリーダーはパワーが弱いと思いがちですが、それは違うということです。ここまでは納得しやすく、自分は典型的な後者でした。
それでは、パワーを高めるためにはどうすれば良いのでしょうか。色々な意味で、なるべく大きなスペースを占拠する(maximize your space)ことが大事だと習いました。例えば、
声を大きくする
ゆっくり話す
身振り手振りを大きくする
大きくどっかり座る(背もたれにもたれて、肘掛けに肘をかけて、足を大きく組む)
道を譲らない(!)
これで色々腑に落ちました。私は日本の小学校で、「傘かしげ」が正しいマナーでそうするべきだと習いました。こちらに来て、道を塞いでいる人たちが邪魔なのにどいてくれないと思っていましたが、ある意味どいたら負けということかと思いました。
日本でよしとされているマナー(静かにする、座るときは背もたれに背を付けず手はお膝など)を守ってきたことが、ここでは自分のパワーを下げていたのだとショックを受けました。ただ、パワーを上げるための行動のリストを見たときに、日本で生まれ育った身としては、失礼すぎると拒否反応を覚えたのも事実です。道で人が通っているのにどかなければただの迷惑な人ですし、会議室で若手の私がどっかり座っていたら何事?という感じだと思います笑
多様な文化に考慮がない点でこの授業にがっかりしましたし、それはアメリカ人学生も留学生も指摘していました。ただ、ここではそうするものなのだと知り、苦手ながらパワーを上げるための練習をロールプレイなどで繰り返したことはいい勉強になりました。また、なぜ日本の人たちがグローバルな場面でリーダーシップを発揮するのに苦労するのかということが、身をもってよくわかりました。立ち居振る舞いを気を付けるだけで、力のあるリーダーとしての風格を身に着けることができるというのは、新しい視点でした。
ちょうどこの授業を取っていたときに40人のクラスメイトを日本へ旅行に連れていくことになり、日本ではなるべく声も使う空間も小さくしてくれ(minimize your space)とお願いしました。これがハマったらしく、minimize your spaceは旅行中の合言葉のようになりました笑 自分たちのマナーが悪くて私を困らせたらだめだということで、みんな一生懸命声も使うスペースも小さくしてくれたのですが、それでも日本基準ではまだ足りないと言ったら驚いていました。
日本の文化とのあまりの違いに、「これまでどうやってスタンフォードビジネススクールで生き延びてきたの?!」とピュアな疑問を私にぶつけてくれたクラスメイトもいました。旅行の最後のほうでは、電車で7人掛けの席に小さくなって静かに座っているクラスメイトたちを見て、文化・マナーを精一杯学んでくれたのだなと感動しました。それまではひたすらスタンフォードビジネススクールで教わるリーダーシップに自分が苦労しながら合わせて練習していましたが、逆に日本では自分の文化を世界中から来たクラスメイトたちに紹介することができ、一歩先に進んだ気がしました。
次回からは、これまでのように小話を挟みつつ、アントレプレナーシップ編に移ります!