米食肉大手タイソンはチキン戦争に勝てるか?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:米食品業界で起こっている”チキン戦争”の概要。タイソンが取り組む生産管理改善の是非。IE(インダストリアル・エンジニアリング)とは何か。アニマル・ウェルフェアという現代における最重要項目。
生産管理とは何か
ここのところヘンリー・フォードのことを取り上げ、自動車の生産システムのことを話してきました。
結局、自動車の生産システムのネックは、サプライチェーンの不完全性です。
ヘンリー・フォードは原材料とパーツの安定供給がままならないことに憤り、それでも生産ラインをコントロールすることに、生涯を賭けたのです。
さて、生産システムの本質がサプライチェーンの不完全性にあることは、自動車に限りません。
それはありとあらゆる生産現場に共通です。
今日は引き続き生産現場の話をしますが、テーマは食品、”チキン”です。
今、アメリカの食品業界はコロナで牛肉と豚肉の価格が高騰し、チキンに熱い視線が注がれています。
ほら、サプライチェーンつまり食品という原料の供給が不安定なのは、自動車と変わらないでしょ。
価格が高くなって購買できない、天候不順で不作、戦争で輸入が途絶える等々、サプライチェーンが不安定なことが、安定した生産を邪魔するのは自動車の場合と同じです。
生産管理の要諦
僕は運よく、コンサルタント修行時代に生産管理の理論を学び、工場で生産管理をつぶさに観察し、経営者にアドバイスする機会を得ました。
その理論というのがIE(あいいぃ。インダストリアル・エンジニアリング Industrial Engineering )です。
です。
1の人間工学的要素とは、作業が自然で快適なことです。
例えばその作業が自然な人間の動きにあっていれば、仕事は快適で生産性が高くなります。
机の高さ、椅子の硬さ、無理な動きを強制してないかなどをチェックすべきです。
2.の合理的な作業の流れとは、停滞する工程を作らないことです。
一つでも流れが悪い工程があると、全体が停滞し、作業時間が増え、生産性が落ちます。IEの眼で停滞する工程を改善します。
3.のムリ、ムダ、ムラ(仕事の不均等、やり残し)のチェックは、IEのプロが目視で、また作業分析という手法で行います。
ムダは不必要な動作を極力排除することです。
ムリ・ムダ・ムラは生産性をそぐ極悪三兄弟です。
タイソンの生産管理を採点する
タイソンのCEO(最高経営責任者)ドニー・キング(Donnie King)さんは「タイソンは米国最大のチキン製造拠点を持っていて、全米チキン総供給の5分の1をしめている。これを改革する」と意気軒昂です。
この背景には、ビーフビジネスが振るわないことがあります。
今年の収益は過去最悪の予想で、これが続くと見越して何百万ドルをチキン生産体制の増強に投資したのです。
タイソンの問題点
タイソンはアメリカ最大のチキン製品メーカーですが、増える一方のチキン需要にコンスタントに応えられていません。
2021年から骨なし皮なしチキンの価格が3倍に跳ね上がり、ライバル会社からチキンを仕入れたこともありました。
チキン増産のためには、チキンに与える穀物飼料を増やさなくてはなりません。
チキンをカスタマーにきちんと供給するには、従業員を確保しなくてはなりません。
従業員をやめさせないために、また新たに採用するために、人件費がかさむ現実があります。
タイソンの生産革命
手っ取り早いのは機械化だということでしょう、タイソンは昨年12月、生産管理プロセスに13億ドルを投じました。
最も人手のかかる部分もカバーしたのです。
チキンナゲットの破片から落ちる油を濾して再利用する新しい機械は、月に20万ドルの節約を生んでいます。
同時にスタッフのレベルを上げるため、タイソンは従業員の手当も増やしやる気を出させました。
ゴールドマン・サックスのアナリストは、タイソンが「骨取り工程も含めて、チキン製造工場の最も難しい部分を機械化した。これは改革に値する」と手放しのほめようです。
IE的なこともやっています。
チキンナゲットの廃棄物を入れるゴミ箱は、生産ラインから300メートルも離れていたので、ぐっと近づけたなどがそれです。
タイソンチキン改革の盲点
さて、読者の皆様は「おう、クルマのメーカーじゃなくて、チキンのメーカーも頑張ってるじゃねえか」と思ったかもしれません。
しかし、昨今の経済における最重要項目を、タイソンは忘れているようです。
それは、「アニマル・ウェルフェア animal welfare」の観点です。
今や消費者は、企業の生産能力なんてどうでもいいんです。
かられ彼女らが気にしているのは、製造過程で何をどのくらい作るかじゃないんです。
そうでなくて、「正しくつくるか」です。
ナイキが非難を浴びたのは、シューズを途上国で作るにあたって小児労働をさせていたからです。
世界的な不買運動が起こり、「最強ブランド」の俺たちは揺らがないと高をくくっていたナイキは青ざめました。
いまや消費者はあらゆる生産物のトレーシング(原料まで追っかけること)までします。
その過程でインクルーシブに反することがあると、大騒ぎされます。
これはいい悪いの問題ではないんです、現実です。
タイソンが、もしこのことに気がつかないのなら、それは一流企業とはいえませんね。
今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
では、また明日お目にかかるのを楽しみにしています。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー