EV絶滅?時代に一人勝ち、トヨタの知恵。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:きのうの記事の続きで、トヨタの企業としての優秀さに、日本の知恵が凝縮している事実を検証する。今年から日本の時代に入った。
トヨタの「全方位戦略」という知恵
きのう論じたとおり、EV(電気自動車)は、間違いなく衰退していくでしょう。
トヨタはそれを見越していたんだと思うんです。
佐藤新社長が掲げていたのが、「全方位戦略」です。
ガソリン車、ハイブリッド車、EVを全部揃えて、あらゆる方面のニーズに応えるという姿勢です。
僕は、あるとき佐藤社長のインタビューをテレビで見て、非常に感銘を受けたんですよ。
それはこんな話でした。
これがトヨタなんです。
ゼニ金じゃなくて、企業の社会的使命をはっきり認識している、ということです。
アメリカ企業だったら、投資家がそんなことをしたら黙ってませんよ、超少数派のために、EVシフトの例外を作るなんて利益になりませんからね。
しかし、日本という国は、投資家を含めて、そうした企業に高い評価を与える国です。
トヨタの全方位戦略は、トヨタという企業だけでなく、日本社会が創り出した方針ともいえるのです。
トヨタの日本的知恵
それは弱者や少数者のためのクルマ、を考えているだけではありません。
口数が少ないことも、トヨタの日本的知恵、なんです。
ディカーボナイゼーション(脱炭素化)で、地球温暖化を防ぐために、ガソリン車はやめてEVで行こうという世界的合意の時代です。
佐藤社長も、内外のマスコミから、「トヨタのEV戦略は?」と矢継ぎ早に聞かれる機会が増えてきました。
しかし、佐藤さんははっきり明言を避けています。
僕はこれは、日本の知恵じゃないかと思うんですよ。
よく日本では「沈黙は金」などと言うが、そんなことは世界では通用しない、と言われます。
僕はそれは時と場合による、と思うんですよね、
舌禍事件は、国の内外を問わず起こります。
「言わぬが花」ということも、国際的には通じるし、それは奥ゆかしさを超えて実は「戦略」と言ってもいいのです。
トヨタはEV戦略に口を閉ざしていることもそうですが、毎年自動車売り上げ世界一などと持ち上げられても、決してコメントを出そうとしません。
だしても間違ってもアメリカ企業のように、「わが社の優秀な製品が売れて誇りに思う」なんて言いません。
トヨタは、海外生産、販売が過半数を占め、地元の海外メーカーと競合しているという微妙な空気を読み、事を荒立てるような自慢めいたことをあえて言わないようにしているのです。
トヨタの誇りと自信
同じクルマでも、イーロン・マスク率いるEV車のテスラと、佐藤社長率いるトヨタはえらい違いです。
マスクさんはちょっとでも生産性が低ければ、従業員を容赦なく切りますが、佐藤さんはそんなことはしません。
トヨタは、その下に何千という下請け会社を抱え、何百万という関連企業の従業員を抱えているという社会的責任感を強く持っています。
豊田市に行くと、その事実が雰囲気で伝わってきます、「企業城下町」とはこのことなんだな、と。
トヨタのクルマはそうした人々の努力とチームワークの結晶であり、そこに蓄積されたスキル、知恵、ノウハウといった知的財産の重要性と尊さを、トヨタはよく理解しているのです。
時代は変われどこの資産は残さねばならない、風化させてはならない、電気自動車何するものぞ、という信念がトヨタからは伝わってきます。
日本企業と海外企業の優劣を論じるつもりはありませんが、最近また日本企業の表面的なことだけで、生産性が劣るとか、デジタル化が進んでないなどとなじる声が聞こえてきます。
しかし、日本の企業の本当の強さは、今申し上げたトヨタに見ることができるのではないでしょうか。
それは謙譲であり、我を捨てて全体に奉仕する精神であり、社会奉仕であり、協調性であり、チームワークです。
そしてそれを支えているのが、従業員のポテンシャルを信じる終身雇用制であり、年功序列とは言いませんが、職位間の給与の差が少ない人事システムなのではないでしょうか。
日本の品質は世界に称賛されますが、それを真似しようとするならば、制度から学ばないとうまくいかないでしょう。
コロナのような疫病が人々を苦しめ、大きな戦争が頻発しているこの世界で、人々が平穏で豊かな暮らしを享受できているのは、日本くらいです。
GDPがドイツに抜かれる、などどうでもいい話で、僕らはそろそろ日本の良さを見直す時代に入ったのではないでしょうか。
来年の今頃、世界は一人勝ちのトヨタを称賛することになるでしょう。
野呂 一郎
清和大学教授
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