物流改革論。「人間性」に方向を変えろ
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:2025年に物流危機が言われるニッポン。このままの働き方を放置して、物流企業に明日はあるのか。それを支える日本人の精神性にもメスを入れる。
物流を担う方々のご苦労
僕はいつも、宅配便のドライバーを始め、物流にたずさわり、我々に日々、重い荷物を届けてくださっている方々は、つくづく大変だな、と思うんです。
彼ら彼女らは、単に荷物を抱えて始終走っているだけではありません。
重い荷物をまず積み込む仕事があり、それを荷下ろしし、ダッシュしてあなたのお家のベルを鳴らすのです。
僕は、配達員の方が、近くの階段のないアパートの5階まで駆け上がって、荷物を届けたのも何度も見ています。
即日配達、翌日配達という、魅力的な企業のマーケティング・スローガンは、こうした無理めの、ある種超人的なハードワークに支えられているのです。
公開いじめなのか
あのハードワークは、見方によっちゃ衆人環視の、いじめ、です。
あの働き方をルールにしているところもあるし、自らを追い込まなくてはならない現実もあります。
常にダッシュしてないと、走って階段を駆け上がらないと、ノルマの一日300個の配達ができず、歩合制の賃金体系だと飯が食えないのです。
しかし、これを放置しているのは、頑張ることが偉いことだとする、日本人の美学ではないでしょうか。
猛暑の中、汗だくで荷物を抱え走り回って頑張っている、人たちの汗は美しい、みたいな価値観がこれを許し、あまつさえ美化しているのです。
これだけ熱中症で人々が亡くなり、少年少女の犠牲も後をたたないのに、なぜ部活をやらなくてはならないのでしょうか。
その象徴が夏の甲子園です。
ひどい環境で頑張ることが、頑張らせることが、人を成長させる、そんな信仰が日本人の中でまだ健在なのです。
ムリを放置する企業は勝てない
資本主義の悪いところは、カネが儲かる方向には導いても、それが人間を正しい方向には導かないことです。
物流企業の多くは、一個でも多くの荷物を届けさせるという方向であり、ムリを放置しているように見えます。
しかし、正しい方向はそれじゃありません。
正しい方向とは、労働者の労苦を少しでも軽減することではないでしょうか。
エルゴノミクス(ergonomics人間工学)が足りないんです。
エルゴノミクスとは、人間の心身に負担をかけない科学のことです。
なぜ、物流会社は、重い荷物をもたせるかわりに、重荷を軽減するパワースーツの開発に投資しようとしないのか。
トラック製造会社は、なぜもっと積荷をラクにする設計ができないのか。
ダンボール会社は、なぜより積み込めるダンボールじゃなくて、持ちやすく体に負担のないものを開発しようとしないのか。
利益じゃなくて、労力軽減を考えないのが、資本主義の悪、です。
顧客も意識改革が必要
改革なんて、でも、カンタンです。経済学のインセンティブ理論を使えばいいんです。
みんなが即日配達、最低でも翌日届けて欲しい、なんて欲するから、ムリが生じるんです。
需要がないところに、供給は生じません。
企業も、時代がますます人間性に向いていることを、ご存知ない。
物流企業の、これからの勝つマーケティング・スローガンは「即日配達」じゃあありません。
こう言えば、いいんです。
我々が、便利よりも、労働者のためを選択すりゃ、いいんです。
そして、その方向こそが、企業の長期的な利益につながるのです。
今日は、つい猛暑で頑張ってる、生協のトラックドライバーのお兄さんを見て、こんなことを考えてしまいました。
皆様、暑さに負けず頑張って、いや、頑張らないでくださいね。
野呂 一郎
清和大学教授
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