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常に主役に抜擢される準備をしておけ

ケンカをするのは積極性か

義を見てせざるは勇無きなり(ぎをみてせざるはゆうなきなり)。
論語の言葉で、人としてなすべきことと知りながら、それを実行しないのは勇気がないからである、という意味だ。

この言葉を知ったのは中学生の頃だ。当時の人気漫画「夕やけ番長」(梶原一騎原作、荘司としお絵)に出てくる主人公赤城忠治(あかぎ・ちゅうじ)がケンカをする時、時々前フリで言うセリフだった。

「夕やけ番長」は、もう半世紀以上も前の名作と謳われるマンガだが、主人公の赤城忠治はケンカの天才、どんな強敵にもひるまず戦うスーパーヒーローだ。

忠治は自分から喧嘩を売ることはなく、あくまで人助けのためにケンカを買う男なのだ。この「義を見てせざるは勇無きなり」、はまさに赤城忠治にピッタリの、決闘に臨む際の決め台詞だった。

かつて元プロレスラー、格闘家の前田日明もこの言葉をよく使っていた。僕も前田日明も梶原一騎にすっかり影響されていたに違いない。

刃物を持った暴漢と戦うのは積極性じゃない
きのうエレベーターボーイは人助けで積極性だと言った。「じゃあ、刃物を振り回している暴漢から女性を救うのも同じ人助けだから積極性だな?」、というツッコミがキミたちから出るはず、と架空の質問を自分にしてみたわけだ。

さて、ここで勇気を出して女性を助けることが、「義を見てせざるは勇無きなり」に該当し、称賛すべき積極性になるのだろうか。

基本的には「ならない」、だろう。

考えてみれば、このデリケートな状況で助けるか否かを第三者が決めつけるのはそもそもおかしい。一人で飛び込んでいけば、どんな武術の達人でもケガをする恐れが状況だ。

人助けが仮にできても、自分が怪我を負ったら、死んだら愛する家族はどうなる、と考えればどんな人でも、うかつに女性を助けようとすることは無謀だろう。

「義を見て・・」はこの場合、当てはまらないだろう。刃物を振り回す暴漢と対峙するのは、人としてすべきこと、とは言えないからである。

冷静に状況判断するメンタリティは積極性
この場合、「違う積極性」で女性を救うことはできないか。まずすべきは、何をするのがベストかを考える状況判断だ。。

自分の身を守りながら、女性を助けることができないか。まわりに協力を要請する、暴漢の気をそらすために何か投げつける、大声を上げる、ケイタイで110番をかけ万が一のためにドクターヘリを要請する、などをとっさに思いつくのは立派な積極性だと思う。この場合の積極性は「トンチを思いつくアドリブ力」に近い。

このような場合に備えて”準備をする”ことも、立派な積極性ではないだろうか。例えば日頃、空手、合気道などの武術を学んでいれば、自分に累が及んだとき、少なくとも致命傷を負わずに済むだろう。職場で仲間と自主的に万が一のためのシュミレーション訓練をすることも、準備に他ならない。

腕にシャツを巻いて刃物に立ち向かう空手家

ただ、刃物を出されると、相当な武術の達人でも難儀することは覚えておいたほうがいい。

もう20年くらい前になるが、池袋で大量殺傷事件があった。事件のあったその日、僕は空手道場にいた。師範が「今日の事件みたいに、刃物で襲われたらどうする。ちょっとシュミレーションしてみよう」と言って、対刃物の戦術を色々教えてくれた。

師範が特にすすめたのは、片腕に服や上着を巻きつけて戦う、というアプローチだった。空手八段のその有名な先生は、いつもの稽古メニューの代わりに、片腕をカバーしながら戦う様々なバリエーションを教えてくれ、僕ら道場生たちは時ならぬ緊急事態に備える特別レッスンを受ける幸運にあずかったのだ。

空手を続けてかれこれ40年。腕に覚えはある。刃物くらい、という不敵な自信があるが、それが危ない。生兵法は大怪我のもと、だからだ。でも願わくば教員として生徒を守るシチュエーションであれば、飛び込んでいきたい。

「世界のオザワ」のブレイクは「その時に備えいつも準備をしていたから」

緊急事態に備えて準備をするのも積極性に違いない。ただ、命に関わるようなことだけじゃなく、常に様々な可能性を考え、準備しておくことは、キミの大飛躍につながることがあるのだ。

あの世界のオザワこと、指揮者の小澤征爾氏の話だ。

彼は常に、いつピンチヒッターで指揮者をやってくれのオファーが来てもいいように、常日頃から準備をしていたという。

世界のオザワが世に出たのは、その日指揮棒を振るはずのコンダクターが急病で、急遽彼に声がかかったのがきっかけだった。

備えあれば憂いなし、だ。このことわざのほうが、冒頭の「義を見て・・」よりも使えるかも知れない。

今日も読んでくれてありがとう。

また明日会えるのを楽しみにしている。

                              野呂一郎

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