合気道を海外でどう表現するか?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:日本の武道を海外でどう表現するか。下手でもそれなりに必ずウケる秘密。人間追い込まれると知恵が出てくるという件。
合気道は海外でウケる
僕は海外で何度か、合気道のデモンストレーションをやったことがあります。
最初やったのは、もう35年も前のことです。
日本語を教えながら、大学院で勉強するという教育交換プログラムで米国留学中、ジョージア州の大学の留学生イベントで、披露しました。
僕が合気道をやっているということが、何かのきっかけで地元に広まり、偶然その地にあった、日本の、いや世界の合気道の総本山である合気会(あいきかい)のアメリカ支部長が「そのイベントで本場の合気道を披露してくれないか」と言ってきたのです。
ポイントは、小さな日本人が大きなアメリカを投げて見せる絵を作ることでした。
円の動きで大男を投げるのに、一番派手なワザは、小手返し(こてがえし)といって、相手のパンチ、手刀を交わして手首を捻って投げ飛ばす動きです。
相手の攻撃が強ければ強いほど、派手に投げ飛ばされるのが合気道の理、です。
受け手のアメリカ人は、そこをよくわきまえており、僕らは演武の練習の成果を発揮できたというわけです。
ピストルvs合気道
合気道の開祖・植芝盛平(うえしば・もりへい)先生には、かつて至近距離でピストルを突きつけられ、それをかわしたという伝説があります。
おそらく本当でしょう。
海外で武道ショー(笑)をやるとき、おしゃべりは、経営学的に言うとストーリー・テリングは非常に重要です。
ある国では、合気道の神秘性を強調するため、この話をしたことがあります。
もちろんその次は、それを実演しなくてはなりません。
観客の一人を無差別に選んで、ピストルを持たせ、僕に狙いを定めさせました。
もちろん、ピストルは日本から持ってくるわけに行かないので、相手の手をピストルの形に見立てたものです(笑)。
僕とその観客が至近距離で対峙します。
「キミはこれからピストルで僕を殺す。本当の拳銃じゃないから、撃った時に『バーン』と言ってくれ」そうお相手に頼みました。
「バーン」
そう音がしたときには、僕は相手の視界から消えています。
僕は斜め45度に倒れ、相手役の金的に回し蹴りを入れていました。
実技+ストーリーの大事さ
そこでまた説明が入るのです。
「合気道とは、武道とは相手を観察することなんです。今僕は、相手の一瞬の目の動きを察知して、弾丸が僕の頭をめがけて放たれる瞬間を察知し、倒れて難を逃れつつ、その倒れる勢いを利用して、急所に回し蹴りを入れたのです」。
これはウケました。
もちろん、ハッタリですよ(笑)
植芝盛平じゃないんですから、目の動きで相手の初動を察したなんてありえない(笑)
でも、このハッタリが大事です。
英語はこういう時に便利ですよ、アグレッシブな言葉なので、自然に表現が盛られるから。
さて、前者の演武は、技をかける方、かけられる方がいて、双方合気道に熟達していますから、理想的な演武ができました。
でも、後者のは、合気道ができるのは僕一人だけ。
でも合気道の何たるかを見せなきゃならない。素人を使って、いかに合気道を見せるかの一つの工夫といえましょう。
どう見せるかは、無限
下手くそなのに、空手の演武も何度かやりましたよ。
でも、そこで大事なのは、上手い下手、ではないんです。
なにかのテーマを持って、観客を感心させることなんです。
例えば空手だったら、「空手は君主の武術と言って、自分からは決して攻撃しない」などと説明して、代表的な空手の型の始まりだけ見せて、空手の型は受けから始まることを説明するのもいいでしょう。
ガイジンにウケる型というのもあります。
例えば「観空大(かんくうだい)」、派手な動きとダイナミックさが特徴の型、です。
空手の強さを見せるために、観客と戦ったこともあります。
こっちの弱さを読んでくれて(笑)、手加減してくれたから助かりましたけど。
要は観客の反応次第で、引き出しから臨機応変にいろんなパターンをその場でいかに即興的に出せるか、なんです。
もちろんまだ僕はそんなことはできませんけれども、刻々と変わる観客と場内のムードを読んで、それに最適のリアクションができれば、その人は最高のマーケターに違いありません。
武道の演武だったら、YouTubeでいくらでも見れるので、テーマをいかに面白く設定するか、これが僕がいつも海外でなにかやれと言われた時に、頭を悩ませるところです。
ところで、さっきの合気道vsピストルでよかったのは、最後の金蹴りです。
あの動作は、空手の「ウンスー」という上級型にある動きなんです。
偶然、対ピストルで使いましたが、合気道の解説に空手がうまく融合できたといえるかもです。
僕は思うんですよ、海外でこういう経験をすると、なにか知恵が出てくるな、と。
やっぱり人間、ある種追い込まれることが大事なんですね。
これからも色んな国で、下手くそな日本武道の演武ショー(笑)を披露する覚悟です。
野呂 一郎
清和大学教授