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コンサルに役立つジャーナリズムの使い方。
この記事を読んで大学生のキミが得られるかもしれない利益:生成AIの時代だからこそ、よいジャーナリズムが重要になってきたという事実。The Wall Street Journal最新記事に見る、よいジャーナリズムの条件。記事をどうコンサルに使うかの実践編。
よいジャーナリズムの条件
きのう、AIの時代だからこそ、よいジャーナリズムが必要、といった。
じゃあ、よいジャーナリズムとはなにか。
それはfact (事実)とcomment(意見)がはっきりしている記事のことだ。
日本のジャーナリズムは、ここがすでにだめだ。
事実と意見をごっちゃにしている記事がほとんどだ。
たとえば、最近こんな新聞記事があった。
「トランプ、起訴を支持率アップに利用」。
![](https://assets.st-note.com/img/1687082211925-vEQmBCAs5X.png)
事実はこうだ。
トランプは37の事案で訴追された、そして共和党大統領候補としての支持率は数%上がった。
起訴を支持率アップに利用した、事実はない。結果として、そのように見えるだけだ。
しかし、日本のジャーナリズムは、このように事実とコメントをごっちゃにして、読者をミスリードする。
よい記事は事実は事実として書いて、それについて筆者はどう感じたかは、分けて書くべきだ。
この書き方によって、読者は独自の判断ができる。
しかし、2つをごっちゃにすることで、読者に記者や新聞社の見解を押し付けようとするのが、日本のジャーナリズムの実情だ。
The Wall Street Journalの記事分析
例えば、きのう論じたThe Wall Street Journal電子版2023年6月16日号Disney Finance Chief clashed with top executives before stepping down(ディズニー社の財務トップが辞任の前に、同社トップエクゼクティブらと衝突)という記事を分析してみよう。
この記事を事実と意見に分けてみよう。
事実(facts)
・CFO(財務トップ)クリスティン・マッカーシ氏(Christine McCarthy)は20年間、戦略アドバイザーとしてディズニー社に貢献してきた
![](https://assets.st-note.com/img/1687082759336-HXHL83UB1W.png)
・しかし彼女はこの6月に突然辞任を表明した
・彼女は家族疾病休暇(family medical leave)をとっている
・彼女の夫は今年当初から、施設で療養中である
・彼女は鋭い物言い、機転が利く、自分の意見を曲げないことで知られ、 上司に対しても、物怖じせずズバズバ反論してきた
・彼女の辞任は会社内から驚きをもって、とらえられている
・彼女はディズニーのエンタテイメント部門を他社と統合し、より利益を上げることを提案していた。それが同時に会社のムダを削ぎ落とし筋肉質な組織にできると考えていた、ネットフリックスのように
・彼女は前CEOボブ・チェペック氏(Bob Chapek)追放の首謀者である。取締役会に「彼のリーダーシップについていけない」と話したという
・コンテンツへの投資額、ディズニー社が行おうとしている改革に関して、彼女と経営トップたちとの間に、深刻な齟齬がある
・ディズニーのテーマパーク事業は順調、しかし、ケーブル、地上波離れにより、ESPN事業、ABCテレビ事業は低迷。
意見(comments)
・現代のエンタテイメント界を席巻しているのは、コード・カッティングと言われる現象である。
ケーブルテレビの契約をやめてインターネット経由の動画視聴を選択する消費者のトレンドを示している。
マッカーシーさんの辞任は、業界に「ストリーミング・ファースト」の流れが本格化していることを示している。
![](https://assets.st-note.com/img/1687082937804-kGGvhmCxEq.png)
・ネット広告の需要が不調なことが、ディズニーへの逆風になっている
・マッカーシー氏がやめたことで、ディズニー社は2020年からストップしていた配当金の支払いを再開することになるだろう。
あいまいな事実も記せ
記事は事実と意見の中間にある、「曖昧な事実」についてもしっかり、その旨を記している。
例えば、「マッカーシーさんに近い筋によると」と断って、
「関係者によれば、20年務めてきた彼女が、ここに来て突然やめる必然性はまったくない」と書いている。
あいまいな事実を、「間接的に聞いたことだが」、と断って書く作法にこそ、事実と意見をいっしょくたにしてはいけないという、ジャーナリズムの良心がみえる。
読者に解釈を押し付けるな
どうだろうか、大学生の皆さんはここまで読んで、今回のディズニー財務トップの辞任騒動の本質が垣間見えたのではないだろうか。
それは綿密な取材による事実の積み上げと、論理的な説得力のある意見のおかげだろう。
よい記事は結果として、読者の主体的な分析をうながす。
例えば、こんな感じだ。
・マッカーシー氏がやめたのは、ダンナさんの体調が理由、かもしれないぞ
・マッカーシーさんは、その率直な物言いで、ディズニーの取締役会を牛耳ってきたのだな
・ディズニー社の中に、Disney+Huluというストリーミング移行に賛成しない勢力もいるんだな
・エンタテイメント界のストリーミング移行って、やっぱり今の流れなんだな、ディズニーが流れに乗ろうとしないのは、マッカーシーさんが煙たかっただけなのかな
・いやまてよ、マッカーシー氏は辞任じゃなくて追放だよ。なぜならば、株主、特に「物言う株主」たちが「配当金よこせ」って決起したに違いないからだ
AIに絶対できないこととは
行間を読む、ってことだ。
きょう、キミと一緒に見てきたのは、「行間を読む」ってことなんだ。
「行間を読む」とは、つまり、事実と意見の間にあるキミの気づきさ。
チャットGPTは、単に事実から、統計有意なものを優先して、提示しているだけにすぎない。
そんなものを、コンサルであるキミがクライアントに毎回提出してみろ、個性のない、役に立たないゴミ、と唾棄されるぞ。
その時に役に立つのが、よきジャーナリズムだ。
ただ、コンサルの答えは、それを要約したり、まとめることではない。
腕利きの記者が、現場で探ってきた選りすぐりの事実と、鋭い分析をもとに、キミはその文脈を読んで、そこに書いてないキミだけの洞察を探り出すんだ。
それを、他の情報やキミの知性で再調理して、お客さんに出すんだ。
これで、キミだけしかできないコンサルティングが完成する。
ああ、また明日から仕事、かあ。
お客さん、つまり学生さんが聞いてくれるような授業ができるかなあ。
それでは、また明日会おう。
ペットボトルにお水を詰めて、2本くらいは持ってったほうがいいよ。
野呂 一郎
清和大学教授