プーチンを動かしたのは皮肉にも”民主主義”だった?
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:ウクライナ戦争はこの20年、非民主主義陣営がたくまずして民主主義陣営に牙を向いていた必然の結果であるということ。ウクライナ戦争は、実はアンチ・グローバリゼーションの必然的な帰結であるかもしれないこと。プーチンは民主主義の本質的な矛盾を突いた、ともいえる事実。
民主主義陣営、獅子身中の虫としてのトランプ
昨日、こう申し上げました。
資本主義陣営を転覆させる戦略、それは資本主義を運営している民主主義陣営がたくらんでいました。無意識のうちに。
例えばトランプ。
彼の主張する「アメリカ・ファースト」はある種の孤立主義であり、アンチ・グローバリズムです。
トランプファンの皆さん、これは僕が言っているんじゃないんです。
ディビッド・ブルックスさん(David Brooks)という方が。
この方はニューヨーク・タイムズの論説コラムニストであり、The Road to Characterとか、The Second Mountainなどの著者で、昨日引用した同紙の記事を書いた人が言っているんです。
ブルックスさんは「グローバリゼーションは終わった。その代わりにグローバルな文化戦争が勃発した」と主張します。
その本質はリゼントメント(resentment鬱積した恨み)だというのです。
それは、もちろん専横主義の人々が民主主義の人々に対して、ずっと持ってきた反感であり嫌悪です。
それは民主主義が標榜してきた自由であり、公平さであり、個人の尊厳であり、多元主義であり、人権です。
西欧はこれらの価値を普遍的な価値とし、世界はこの真理に収れんする、そう信じていた象徴が、グローバリゼーションでした。
しかし、民主主義など望んでも手に入らない人々は、こうした主張を”押しつけてくる”西側の人々を皮肉を込めて”エリート”と揶揄し始めたのです。
エリートとは自分たちの価値を金科玉条とし、他者の現実に目を向けようとしない傲慢な態度のことです。
それが、今回の戦争の引き金を引いた、としたら・・・
今回、拙論の参考にしたニューヨークタイムズの記事は、そう読むしかないと思うんです。
数字でわかるグローバリゼーション衰退の現実
人類の普遍的な価値を体現したはずの、グローバリゼーションが衰退していることも、非民主主義陣営を勢いづかせています。
英国の世界的メディアThe Economistのレポートによれば2008年から2019年にかけて世界貿易の総量はGDP(国民総生産)ベースで、それ以前に比べ5%落ちています。
米中間の投資額でみてみると、5年前は年間300億ドルだったのが、現在は50億ドルに激減しています。
それまでにない関税とか、もろもろの貿易障壁が原因だとも言われています。
同じ期間で、グローバルな投資額を見てみると、これはなんと半分に落ち込んでいます。原因は単純にこれと断定できず、複雑で広範な要因がからまっているとされます。
2008年の世界的金融恐慌リーマンショックは、グローバルに連携する資本主義のあやうさを多くの人に気づかせました。
一方で、中国は、輸入を制限しながら国内産業、輸出を促進して貿易収支を黒字にする経済政策である”重商主義(mercantilismマーカンティリズム)”を国家戦略として推進することに舵を切りました。
中国はグローバリゼーションを表面上は唾棄しながら、実際はグローバリゼーションを大いに利用し結果、経済力を蓄えアメリカに次ぐスーパーパワーにのし上がったのです。
世界は思いのほか動いてない
2017年にイギリスがEUからの脱退を表明し、2019年にその離脱が承認されたブレクジット(Breit)、頻発する国家主義者による外国人排斥運動(ゼノフォビアzenophobia外国人排斥主義)、トランプ支持のポピュリスト運動、これらはすべて民主主義の国々で起こっています。
非民主主義陣営だけでなく、民主主義陣営にも飛び火している、このアンチ・グローバリスムの波。
これらは必然的に、非民主主義諸国のリゼントメントとあいまって、反民主主義、反西側の空気を醸成したきたのです。
この空気を利用したのが、プーチンだったわけです。
ブルックスさんはこんなことも言っています。
「西側はウクライナ戦争は専横主義との戦いでありほっておけないと動いたが、世界の多くの国は動かないまま、だ。いやそれどころかプーチンに同情的でさえある。While Ukraine's fight against authoritarian aggression is an inspiration in the West , much of the world remains unmoved even sympathetic to President Vladimir V. Putin of Russia」
世界の民主主義に対するリゼントメント(反感、うらみ)を上手く利用し、半ば無理矢理でも世界の同情を引き出したとすれば、もしそれをタイミングを図り、計画的に行っていたのであれば、プーチンは真の悪魔かもしれません。
今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
では、また明日お目にかかるのを楽しみにしています。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー