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プロレス&マーケティング第70戦 長州力ブレイクに見るアントニオ猪木の「上司力」。

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:ブレイクするには運だといったが、実力があるあなたを腐らせたり、飼い殺しにする上司は、会社は一体どうなってるんだ。天下のアントニオ猪木はそんなことをしなかった。長州力ブレイク前夜のエピソードこそマーケティングだ。

マーケティングとは何か?

マーケティングとは?

そんなの簡単さ、マーケティングとは”爆発”のことだ。

シコシコ売ってるんじゃない、ヒットが出るんじゃない、ブームを創るんじゃない、爆発なんだよ、ってプロレスファンのあなた以外の人に言ってもわからないか。

そうなんだよ、題名に書いたように、長州力なんだよ、あの「噛ませ犬じゃねえ」って言ったあの事件こそが「爆発」なんだよ。

あの事件、1982年10月8日、後楽園ホールのメインイベント、長州力、藤波辰爾(当時は辰巳)アントニオ猪木とガイジン組が6人タッグで激突。

そこであろうことか,日本人チームの仲間割れが始まった。

長州力が藤波辰巳に「藤波ぃ、なんで俺がお前の下にいなきゃならないんだぁ、お前の噛ませ犬じゃねえ!」と言い放ったのだ。(何を言ったかについては諸説あり)

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この模様がテレビで生中継され、長州と藤波は袂を分かち、それが両者の抗争に発展、「名勝負数え歌」としてロングランの興行につながり、いまの長州力の大躍進のきっかけになった。

この事件が特筆されるのは、これが長州力ブレイクのきっかけになっただけではなく、プロレスブームを巻き起こし、さらにプロレス界全体の底上げにもつながった点だ。

数字の検証はなくても、この事件後、長州力が、アントニオ猪木とならんでプロレス界を牽引した事実が、この爆発を物語っている。

神様カール・ゴッチは幸せか

さて、昨日は拙稿で、あなたがブレイクするには運が必要、つまりあなたのパフォーマンスを見守り評価する誰かがいなくてはいけない、等と言った。

でも、あなたがそうだったら困るけれど(笑)、こうした「大物飼い殺し案件」は、会社あるある、なんだよな。

プロレスに例えると、「神様カール・ゴッチ」だよな。

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実力は世界一なのに、プロモーターに嫌われ、チャンピオンシップを組んでもらえなかったことはあまりに有名だ。

でも、企業はゴッチを作ってはならぬ。そんな余裕はないはずだ、からだ。

カール・ゴッチは幸せだったのだろうか?、その答えは人それぞれかもしれないけど。

「爆発」の三要件

せっかくプロレス&マーケティングと銘打っているんだから、マーケティング用語はあまり使わないでいくぜ。

爆発の三要件がある。

1.有能なプロデューサーの存在

プロレスラーでも、タレントでも、若手社員でも、チカラはあるのに何故か冷遇されているものがいる。

直属の上司、または会社の上層部は、不遇な大物にここぞというチャンスを与えなければならないし、その能力を持たねばならぬ。

プロデューサーは、まず公平感がなくてはならない。

そのものをひいきにすることは、会社全体の利益を考えないと、思わぬかたちで痛くない腹を探られかねない。

当事者が有能なだけでなく、組織にとって適切な人物という見極めができなくなくてはならない。

そして、プロフェッショナルの目利きであることだ。

真の実力者を見抜く目を持っていることだ。

アントニオ猪木はその時どうしたか
長州力はデビュー8年、実力は十分あるのに、メインイベンターのロースター(MLB用語でレギュラーメンバーのこと)に入っていなかった。

猪木は危惧した。「このままではあいつはすねて、プロレスをやめかねん。なんとかせねば」と。

あなたの部署の彼女も、そんな悩みを抱えているかも。

2.ふさわしい舞台

プロレスラーにしても、教師にしても、タレントにしても、「スター誕生」の儀式は必要不可欠+合理的だ。

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なぜならば、今までくすんでいた存在が一気に認知を得るには、この儀式が最も有効だからである。

「この人こんなにすごかったんだ!」という世間への、業界への、そして組織内へのアナウウンス効果をなるべく大きくするのは、合理的だ。

そうすると、儀式の会場は東京ドームがだめなら、後楽園ホール、せめて新宿FACEは譲れない。

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サラリーマンのあなたなら、取締役会でトップが勢揃いしたシチュエーションがいいだろう。

そこであなたは「伝説の新製品プレゼン」をやるのだ。

プレゼンの終わりには、あなたはこのパフォーマンスをプロデュースした上司と抱き合って泣くことを忘れずに。(笑)

アントニオ猪木はその時どうしたか
長州力ブレイクの舞台は、プロレスの聖地後楽園ホール、テレビは生中継が入っており、事件は夜8時半くらいに起こった。

金八先生、太陽にほえろという超強力裏番組を向こうに回し、長州力劇場が全国3000万!(当時のアナウンサーの常套句)のプロレスファンに映し出されたのである。

事件の首謀者と言われる(諸説あり)アントニオ猪木は、またとない長州力再評価の舞台をこさえたといっていい。

3.タイミング

目立たないプロレスラー、実力はあるが人気はない教師、女性社員に人気はあるがそれゆえ男子社員の不興を買って「パフォーマー」と軽く見られているあなた(笑)。

捲土重来にはタイミングというものがある。

たとえば・・・

あなたの上司は、プロレスファンで、あなたのセカンドデビューを長州力になぞらえたかった。

そこで、社運を賭けた「セクハラ撲滅宣言!ニューイヤーダッシュ」というプロジェクトをあなたに任せ、仕事始めの東京ドーム大会明けの1月5日に、全社員参加のZoom会議にて、その概要を発表させたのである。

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女子社員は趣旨にもちろん賛同しあなたに熱狂、男子たちも、理路整然としたあなたのプレゼンの巧みさを見せつけられ、ハブられ気味のあなたは一躍社内のヒーローになったのである。

アントニオ猪木はその時どうしたか
長州力は、1974年にミュンヘン五輪出場の最強アマレスラーとして、華々しいデビューを飾ったが、地味なファイトと自己抑制的なコミニケーションが災いして、スター街道を闊歩する、というふうではなかった。

坂口征二と組んで北米タッグこそ戴冠していたが、ピンの王座はなし。

事件の直前に遠征したメキシコで「メヒコの帝王」エル・カネックを破りUWA世界王者にはなったものの、ファン、マスコミにはほぼスルーされるという状況。

長州力vsエル・カネック https://qr1.jp/1Mdsrp

実力はあっても、人気はない、これが長州力の現実だった

タイガーマスクの登場で、新日本プロレスの営業成績は好調ではあったが、長州力、小林邦昭といったいまだブレイク前夜の中堅レスラーは、あせりをつのらせ、経営者の猪木にもそれは以心伝心、伝わっていたのである。

爆発の収支決算

冒頭でマーケティングとは爆発だ、と言った。

爆発とは、一時的なセールス急増などではなく、本質的に業界が変化する現象のことだ。

それは、プロレスでしか起こり得ない経済現象であり、長州力のこの事件にとどめを刺すのだ。

でも、ビール好きのあなたは、1987年アサヒビールのスーパードライの大ブレイクは爆発じゃないのか、とおっしゃるだろう。

プロレスファンのあなたは、「真に爆発したのは、タイガーマスク登場だろ?」となじるだろう。

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猪木アリに決まってるだろう!」という声もいま聞こえた。

たしかに。

しかし、長州力の「噛ませ犬事件」が爆発だと言ったのは、プロレスという概念を変えたから、なのだ。

そして、プロレスのリアリティが、空前絶後のカタチで世間に伝わって、プロレスが再定義されたからだ。

なぜならば、この「長州事変」は、プロレスがあなたの会社と何ら変わらない、ということを見せつけて、世間の空前絶後の共感を呼んだからである。

冷や飯食っている実力者たち、仕事はできるのに上司との折り合いが悪く干されている職人かたぎの社員たち、やり手なんだけれど歯に衣を着せない毒舌で上司への直言で覚えがめでたくない中堅社員。

正しいがゆえに正しい評価をされてない日本の実力者といった、「強い社会的弱者たち」がいっせいに長州力に感情移入したのである。

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この長州事変は、真にプロレスを社会的な存在にしたのである。

それに比べれば、タイガーマスクも、アリ戦も、これほどの社会的影響を持たなかった。

この事件は、プロレスの歴史に刻まれ、いまだ語り継がれており、プロレスのリアリティ創造にプラスの影響を与え続けている。

ゲームチェンジャー、ということばが言われる。

つまりゲームのルールを変える出来事のことだが、「長州事変」こそは真のゲームチェンジャーだったのである。

野呂 一郎
清和大学教授





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