外国人と政治の話をするのはもはやタブーではない
虎穴に入らずんば虎子を得ず
よく、英語で政治の話はタブーだよ、とか言いますが、これは僕は間違いだと思いますね。いや正確には、「以下に述べる準備が整っていればタブーでなくなり、むしろその勇気あるトライがかえってプラスをあなたにもたらす」、と言うべきですね。いわば、虎穴に入らずんば虎子を得ず、です。
リスクはあるものの、政治トークを勧めるのは、まず政治の話ができるという知性、教養を相手に見せつけることが基本的な人間関係におけるよい戦略になる、と思うからです。
今どき国際政治の動向、なかんずく世界の中心であるアメリカの政治を理解していなければビジネスはできないでしょう。ビジネスとは信頼です。信頼の基盤は正直さはもちろんですが、くわうるに知性、教養でしょう。
政治を話していいと言うもうひとつの理由は、申し上げているように、企業およびトップが政治的スタンスを表明しなくてはならない時代でもある、ということです。
社会正義に対してのスタンスを示せ、と僕が言っているのも、ありていに言えば政治的ポジションを表明しなくてはならないことも今の時代『ある』、という意味です。
政治論議はしっかり準備を
ただ、これは当然に企業とそのステークホルダー(利害関係者。株主、従業員、関連業者等)の利益を考えに入れなくてはならず、経営者はこの部分があやふやなままで、政治談議をしてはなりません。
例えば、中国が売り上げの大きな部分を占めているユニクロの経営者が、新疆ウイグル自治区問題に言及するのは大きなリスクです。
また、あなたとアメリカ企業のトップが、俺はこういうスタンスだ、と言い合うのは賢くありません。そこはトーンとして中立を装うべきです。
世界のクオリティ・ペーパーを引用せよ
その時に便利なのが、The Wall Street Journal、BusinessWeek、ニューヨークタイムズ等の引用です。昨日、一昨日の連載の引用はThe Wall Street Journalに載ったベーカー元国務長官のお話ですが、これは使えると思います。
「偶然、The Wall Street Journalでベーカー氏が共和党は死んだ,なんて噂を否定してなかったな、あれにはびっくりした」とジャブを出して、相手の反応を見ます。
自分が知らないふりをして、相手に聞く、こともいい戦略です。
「彼はアメリカは総じて保守だと言っていたが、本当か」などと探りを入れるのです。
ここであなたは共和党支持も、民主党支持も言っていません。相手は得意になってアメリカの政治の話をしてくれます。話を聞くうちにあなたも彼が共和党支持なのか、民主党支持なのかわかります。
お前はどっちだと聞かれれば、はっきり「僕は大きな政府を標榜する民主党はちょっとね」と言ってもいいです。
政治的スタンスをはぐらかすという高度な戦略性
でも、もっと賢いのは両党の長所、欠点を上げたうえで、「選挙は人じゃなくて、政策、これは政党の正しい在り方じゃないか」などとベーカーさんの言葉をパクるのもおすすめです。
「あーこいつ、見事に微妙で危険な政治トークを絶妙にはぐらかしやがった」、と評価が上がることは間違いないでしょう。
通訳を介してでも、こんなやり取りができれば、ビジネスはうまくいくと思います。
ビジネスは信頼だからです。信頼は知性と教養だ、と申し上げましたが、その上で駆け引き、つまり戦略性に飛んだやりとりができれば、「こいつはできるな」と一目置かれるというのが僕の経験上の実感です。
アメリカ人エリートの本音とは
もっとありていに言ってしまうと、ビジネスエリートも含めてアメリカのエリートたちは、知識とコミュニケーションのレベルが彼ら、彼女ら以上じゃないと本当の意味で胸襟を開かないんです。もっというとバカにするんです。それでは対等の関係にならないし、信頼もできず、結局ビジネスも政治もできない。
僕はよくわかりますよ、テレビの画面からでもよく伝わってくる。国際政治の現場で日本人の政治家の振る舞いを見ていると。欧米人のエリート政治家は表面にこやかに接しているけれど、本音はバカにしてるな、とわかる。日本の国際的地位がどんどん下がっているのは、リーダーに本当に国際的に尊敬される政治家がいないからです。
我々はグローバルで勝負をかけるなら、知識、教養、戦略性そして英語を常に磨いてないと勝てないと思います。これはもちろん自戒を込めて、ですが。
今日も読んで頂き、ありがとうございました。
明日はまたベーカー氏の論説をもとに、彼のライティング技術を考えたいと思います。
野呂一郎