世界一トヨタの憂鬱。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:トヨタへの称賛と批判。トヨタ世界一を振り返り、課題を指摘する。グローバルに活動する日本企業共通の弱点とは何か。世界と戦うリーダーシップとは何か。
トヨタ3年連続世界一
国内大手自動車メーカー8社が1月30日、2022年の世界販売台数を発表し、トヨタ自動車グループが(ダイハツ工業、日野自動車含む)1048万3千台で、3年連続で世界首位となりました。
これはすごいことだと思うんです。なぜならば世界市場での勝負に勝ってきたからです。
とくに競争と政治が渦巻く北米市場で、トヨタが覇権を築いたことは称賛と驚異に値すると思うんです。
改めて、何がトヨタの奇跡を生み出したんでしょうか。
今日のThe Wall Street Journal電子版(2023年1月29日号Toyota Rethinks EV Strategy With New CEOトヨタ、シンCEOを頂きEV戦略を転換)を例によってオレ流に解釈すると、以下のようにまとめられると思います。
1.トヨタのカンバン・システムとカイゼン
ご存知トヨタのお家芸です。
カンバンシステムとは別名ジャスト・イン・タイムシステム、必要な部品を必要な時に必要なだけ使い、在庫のムダを極限にまで防ぎ、コストと効率を最大限にする手法です。
カイゼンも日本の製造業の十八番です。
工場内の品質向上をめざす小集団活動のことをさします。
この2つが、コストとクオリティを備えたトヨタ車を生み出し、世界のブランドにしました。
2.トヨタの斬新主義
斬新主義(ざんしんしゅぎ。incrematalism)とは今日のThe Wall Street Journalがこの言葉を使っているのですが、急進主義というその反対語を考えるとわかりやすいかもしれません。
社会や周囲の変化を見ながら、徐々に変化させていくやり方をいいます。
基本的に今までのやり方を踏襲し、予算が増えた分で小さな改革をしていくやり方です。
装置産業という言葉があります。
工場やシステムが利益を生むための「装置」になっている業界、石油・石炭化学など自動化で生産性を上げている産業がそうです。
自動車もその一つといえましょう。
いやIT産業もシステム勝負ということでは、サービス業ももはや装置産業かもしれません。
装置産業は巨額の投資がネックです。
でもいったん装置を作ってしまえば、あとはそれにまかせていれば利益は保証されます。
しかし、工場やシステムの図体がデカいと、柔軟にそのスクラップ&ビルドができません。
斬新主義は、当然の帰結といえます。
トヨタは慎重にことを運んできました。それはトヨタが自動車産業であることから来る必然の戦略といえるでしょう。
これが半世紀の間「勝つ戦略」になりえたのは、クルマをめぐる決定的な社会的変化がなかったから、とも言えるでしょう。
えっ?EV電気自動車を忘れてないかって?
いや、トヨタの鋭い眼には、「まだEVは来てない」と映ってるんです。
トヨタはテスラだって冷ややかに、「やっぱりやらかした」くらいの気持ちで眺めてるんですよ。(あくまで私見)
3.世界制覇の野望
The Wall Street Journalは、北米に10を超える生産拠点を作ったことがトヨタの戦略のキモであり、トヨタは、時に利益を度外視して世界制覇を目指してきた、と主張します。
明確な目標があることが、トヨタを世界一にしたのです。
トヨタの蹉跌
最も象徴的なトヨタのつまずきは、2010年にアクセルペダルなどの不具合に伴う一連のリコール問題で、豊田章男社長が、米議会公聴会に呼ばれて、事情説明をさせられたことです。
800万台というリコール(クルマ回収)問題は、「リーマンショックから回復せねばの焦り」(トヨタ社長)が原因であり、The Wall Street Journalは世界一の野望が空回りしたと評しています。
また後で書きますが、僕はこの事件、トヨタ社長がなぜ通訳をつけて答弁したのかとても残念に思っています。
彼はグローバルな教育を受けており(米ハブソン・カレッジ卒)、英語での答弁に支障はないはずです。
細かいツッコミを的確に答えるために通訳をつけた、のかもしれません。
しかし、ここで自分の言葉でやりとりしていたら、トヨタはこの危機をもっと上手に乗り越えられたと思うんです。
ここにね、僕は、グローバル市場で勝負する、日本企業のグローバル戦略の弱さを見るんです。
それは、個人の英語力うんぬんではなく、組織の戦略の問題です。
グローバルなリーダーシップとは何か、という理解の問題でもあります。
これは僕のブログ全体のテーマなので、ここではあえていいませんけど。
トヨタの課題は異文化コミュニケーション
佐藤さんに、社長が交代したトヨタですが、いかにグローバルで勝ち続けるか、これが先代社長からの変わらぬもっとも重要な課題です。
さっきもいったように、ズバリ、トヨタの課題はコミュニケーションですよ。
電気自動車へのシフトという世界的なムーブメントに関して、実はトヨタは正しいことをやってきたんですよ。
それはプリウスに代表される、電気とガソリンのハイブリッド車の開発です。
豊田章男前社長は、「究極の環境カー」だと言っているように、電気自動車以上に環境にやさしいのです。
豊田さんはこんな皮肉も言っています。
「電気自動車を作る工場自体が石炭エネルギー稼働であり、炭素を排出してるじゃないか」。
なぜ、それをワシントンに説得できないのか、という問題です。
なぜ、電気自動車が次世代のデフォルトなどと言われるのか。
それはフォードやGMが、ワシントンを焚き付けたからです。
筆者的に裏読みすれば、それはトヨタを陥れる陰謀ですよ。
ハイブリッドなんて逆立ちしても開発できないから、電気自動車だ、といい出したんです。
レギュラー車でも勝てないから、EV勝負を挑んできたんです。
The Wall Street Journalも皮肉交じりに書いてますよ。
「ワシントンに、ハイブリッドじゃあ環境に万全とは言えないと政府に直訴した」と。
トヨタの斬新主義は正しい
まあ、トヨタに強い交渉力がないのは、日本企業の宿痾だから、見逃してあげることにしましょう。
先ほど、同社の斬新主義、つまり変化を見極めて慎重に行動する習性を指摘しました。
それは、電気自動車への移行という、世界的ムーブメントに対しても例外ではなかったのです。
トヨタの基本は従来の自動車技術とそれを生むシステムを堅持しながら、枝葉としてEVを作ることです。
しかし、最近はそのスピンオフ路線を放棄し、EV生産の専門拠点を設けることを宣言しました。
ようやく変化を見極め、トヨタにスイッチがはいったのです。
それはこれまでのテスラを始めとしたライバル研究、EV技術開発、時代特にコロナと戦争の行方の見極め、などが終了したことを意味します。
新しい社長を迎え、トヨタの新章が始まりました。
今日も最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
じゃあ、また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
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