プロレス&マーケティング第34戦 赤井沙希の引退を惜しむ。
この記事を読んでプロレスファンのあなたが得られるかもしれない利益:引退宣言をした赤井沙希のマーケティング価値。レスラーというプロレスマーケティングにおける製品を再考する。高島屋と赤井沙希というグッドマッチについて。トップ画はhttps://qr.quel.jp/pv.php?b=433PDzw
赤井沙希引退を惜しむ
DDT所属の女子レスラー赤井沙希(あかい・さき)が引退を表明しました。
その理由がふるっているんです。
簡単に言うと「私の美学」ということなのです。
36で惜しまれて引退したいというのです。キレイなまま、強いまま、ファンが別れを惜しんでくれるタイミングで引退したい、というのです。
赤井沙希らしいな、彼女のファンは誰しもそう思うでしょう。しかし、経営学的には、違う、と言わざるを得ません。
つまり、引退のモチベーションのほうが、現役続行のモチベーションを上回っただけの話なのです。
「美しく散る花でいたい」なんて、かっこいいことを言ってますが、彼女の自分でも気が付かない本当の気持ちは、それではありません。
彼女はモチベーションのことは、考えていないようですが、経営学は彼女の無意識までお見通しなのです(笑)
新人賞の真贋
赤井沙希といえば、格闘技界のサラブレッドです。なにせ父が「浪花のロッキー」と呼ばれた赤井英和(あかい・ひでかず)です。
身長174センチ、スタイルと美貌は、女子プロレス史上最高峰といっていいでしょう。
2013年にDDT高木社長が、口説き落としプロレス界入り、翌2014年度には、プロレス界最大の栄誉とされる「プロレス大賞」(東京スポーツ新聞社制定)の新人賞を女子選手として初めて受賞しています。
彼女は10年プロレスをやっていて、タイトル歴がまったくないんですよ。しかし、僕に言わせれば、このプロレス大賞新人賞こそが、彼女の女子プロレスラーとしての最高の勲章なのです。
実は、この赤井沙希の新人賞受賞には、大きな批判があったのです。
表立ってそれを言うものは少なかったのですが、大した活躍もしておらず、レスラーとしてはまだまだじゃないか、東スポのえこひいきだ、という声でした。
僕もそれには同意するしかないですね、今も。
東スポの深謀遠慮
しかし、この事実にこそ、彼女のプロレスラーなどという存在を超えた魅力とポテンシャルの秘密が隠されているのです。
あくまで下衆の勘ぐりですが、真相はこうです。
東スポもさすがに新人賞はダメだ、と思っていたに違いないんです。
しかし、東スポには、低迷するプロレス界をなんとかする使命と責任があります。
その意味で彼女は存在自体が、もうすでにプロレスラーを超えた存在です。
その血脈、長身、スタイル、美貌、そしてすでに備わったスターとしての気品や風格。
もうワザや体力なんて関係ありません、リングに上げてしまえばそこは大輪の花が咲く地上の楽園になり、それだけで観客たちはうっとりして、試合などどうでもよくなるのです。
東スポが期待を込めて、彼女に新人賞を与えたことは、まさに慧眼でした。
言ってみればプロレス界の「一人宝塚」。
彼女はタイトルこそ取れなかったけれど、東スポの期待通り、10年間プロレス界をその強烈で華麗な光で照らし続けてきたのです。
引退試合は高島屋だった?
実は、彼女がこの時期に突然引退を発表したのは、偶然ではありません(かも)。
DDTは最近、老舗百貨店の新宿・高島屋で特設リングをもうけ、試合をしました。
この興行の最大の目玉は、赤井沙希でした。
考えてみれば、プロレス界ひろしと言えども、百貨店の中でもひときわ高い格式と美意識を誇る高島屋がスポンサードするリングに、最も映えるレスラーは、赤井沙希をおいていません。
赤井沙希の引退興行は、今のところ発表されていませんが、すでに引退試合はat新宿高島屋で、滞りなく終わっているのです。
まさに美しいまま、それに最もふさわしい場所で彼女は散ったのです。
新宿高島屋特設リングこそ、東京ドームを遥かに上回る赤井沙希の引退興行に、ふさわしい場所でした。
赤井沙希を讃えよ
赤井沙希と言えば、SKE48所属で、プロレスラーとの二刀流に挑戦している荒井優希(あらい・ゆき)をかわいがっていることが、最近よく報道されます。
よきお姉さんぶりは、荒井優希を自分の後継者にしたかったからなのかもしれません。
もう2年前、彼女と初タッグを組むあたりから、それは考えていたに違いありません。
赤井沙希は、DDTを10年貫いたことも、そこに団体への愛情と自分の信念が感じられます。
これは決して悪いわけではありませんが、野心のために団体を離脱、入団を繰り返す女子選手が多い中で、この頑なな姿勢は、いやが上にも目立ちます。
赤井沙希のすごいところは、自分以外男子レスラーしかいないDDTに飛び込み、常に男子を相手に試合をしながら10年間もやってきたことです。
ここは彼女のDDT愛と、高木社長の人を動かす経営手腕のなせるわざでしょう。
しかし、彼女の犠牲的精神も、ここに来て限界、そして偶然にも高島屋という美の巨人から認められたこともあり、赤井沙希としては有終の美を飾りたい気持ちになった、そういうことじゃないでしょうか。
モチベーションどうのこうの言いましたが、そう考えてみると、まさにこれで彼女のストーリーは美しく完結したようにも思えます。
そうです、そう考えましょう。
何か不満があって、プロレス界を去る、なんてことは考えるのは、ファンとしてもつらいですから。
ありがとう赤井沙希、そして永遠の美しい花でいて下さい。
それではまた明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー