GMを抜いたトヨタの真の強さとは「強さを捨てる勇気」。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:トヨタがGMを抜いたというニュースに隠されたいくつかの真実。トヨタ・カンバンシステム70年にみる世界企業の変遷。日本企業の強さ再確認。なぜ、ケイレツこそが永遠の日本の強みなのかの理由。
トヨタが全米トップになった理由
さっき届いた今日のThe Wall Street Journalオンライン版のトップニュースは、トヨタが車の売り上げで初めてGMを上回ったというニュースでした。
おそらく、50代以上のサラリーマンの方々は、「やっぱりトヨタはカンバンシステムという、効率的な生産システムを持っているから、強いんだな。」そう思ったかもしれません。
でも、それは違うんです。むしろその反対なのです。
後で述べますが、ジャストインタイム・システムとも呼ばれる、トヨタをトヨタたらしめた生産システムが開発されて、70年が経ちます。
これは政治的には非常にデリケートなニュースでもあります。
なぜならば、日米の貿易不均衡が長年問題になっているからです。トランプがこの件で安倍さんにプレッシャーを掛けていたのは記憶に新しいことです。
トヨタがGMを売上で抜いた理由は、トヨタの効率的な生産システムが答えではないのです。
答えは、実はまったくの逆で、トヨタがこの効率的な生産システムをやめたからなんです。
トヨタが売上全米ナンバーワンになった理由は、何のことはない、別にフォードやGMよりもすっごいクルマを作って、人気が爆発したわけじゃないんです。
単に部品を持っていたからなんですよ。そう、半導体、チップがあったから、ライバルたちみたいに工場の操業を止める必要がなかったからです。
アメリカ人は、フォードがないから、GMがないから、トヨタを買った、だから全米1になっただけなんです。
でも、それはあの効率的なシステムを捨てなければ、実現しないことでもあったんです。
トヨタ生産システム、70年の紆余曲折
実はトヨタのカンバンシステムと呼ばれる、トヨタ式生産方式は、一言で言えば在庫をなるべく少なくするという考え方、やり方です。
大野耐一の発見
トヨタのカンバンシステムの始まりは、1950年にさかのぼります。
当時トヨタ副社長の大野耐一(おおの・たいいち)さんが、アメリカのスーパーに行って驚いたのです。
小さなスーパーで小さな棚しかないのですが、棚が空になるとすぐに商品が補充されたのを、目の当たりにしたのです。
大野さんは、自動車工場と思わず比較しました。生産を止めないために、常に金属板だとかタイヤだとかが、倉庫に山積みでした。
スーパーはバナナをストックしておくわけに行きません。スーパーでは、在庫をなくすことは、必然でした。
在庫があれば保管コストとムダが出ることに改めて思いが至り、それがなるべく在庫を少なくするというトヨタ生産システムにつながったのです。
トヨタの工場に着く部品の供給業者のトラックは、一日の生産に最低限必要な部品しかおいていかなくなりました。
やがてこのやり方は世界のライバルたちが真似をすることになりました。
フォードも、フォードシステムの名前でこれをコピーしました。
今をときめくアップルも、他業種の大企業も、こぞってこのやり方を採用したのです。トヨタシステムは世界を席巻したのです。
しかし、トヨタ生産システムに逆風が吹き始めたのは、あの9.11でした。
テロでサプライチェーンが完全に止まってしまいました。
日本でも3.11の大震災で、生産が、流通が完全に止まり、在庫を限りなくゼロにするトヨタシステムの脆弱性がクローズアップされたのです。
トヨタの一大決心
今回のトヨタがGMを抜いたというニュースは、ある意味、トヨタ自身がこの70年続いた、その代名詞のトヨタシステムを捨てた、ということなのです。
いや捨ててはいないですね、一部考え直し、それをどのライバルメーカーよりも真剣に考えていたことの結果、なのです。
2021年5月3日付The Wall Street Journalは 「Auto Makers Retreat From 50 Years of ‘Just in Time’ Manufacturing 自動車メーカーが50年に及ぶ”ジャストインタイム・システム“から撤退」というタイトルで、トヨタの強さを報じています。
同紙はこう報じています。
トヨタがある時、最大の供給業者であるデンソーに「部品をとっておいてくれ」と頼んだ、というのです。
この発言は、在庫をゼロにするというジャストインタイム・システムの理念と正反対の発言です。
この時が、トヨタがカンバンシステムを捨てた時でした。
必要な時に必要な分だけ部品を使えばいい、という考えを変えたのです。
記事ではそれが、半導体かどうか明らかにしていません。デンソーもノーコメントです。
”ケイレツ”こそ日本再興のヒント
トヨタのカンバンシステムの成功って、結局、日本企業の強み、いや日本の強みなんですよ。
海外ではそれは、ケイレツ(系列)と呼ばれています。
そうです、旧財閥の流れをくむ企業群だったり、住友グループとか、三菱グループだったりとか、いわゆる大企業を頂点とした関連企業群、下請けシステムの存在です。
その集団は一種の家族であり、運命共同体的な意識で強固に結ばれているのが特徴です。
トヨタはもちろん、独自のケイレツを持っています。トヨタの場合、そのケイレツが強力に働くのは、ケイレツメンバーの企業が至近距離に位置するからです。
そうです、デンソーを始めとするトヨタの強固な企業群が、いつでもトヨタを支えるぞとばかり、企業城下町である名古屋・豊田市に集結しているからです。
ケイレツの微妙さ
トヨタは、今回GMを抜いたというビッグニュースにも平静を装い、いや、なるべく目立ちたくないというテイです。
米国トヨタのトップは「今後の広告に『GMを抜いた』なんて言わない、とご丁寧に明言しているくらいです。
その理由は、日本人の謙遜の美徳ではありません。
その理由は政治的に微妙なことだからでも、ライバルを刺激したくないからでもありません。
それは、最大の企業秘密を守るため、です。
ケイレツとは、単なる形態でなく、魂です。日本独特のチームワークを超えた、企業家族意識ともいうべきものです。
ケイレツとは親子関係です。
親企業は、子企業が困った時はいつでも手を差し伸べます。子企業は身を挺して、親企業を守ります。そんな関係です。
ケイレツは、非常時にこそ発揮されるのです。
でも、それは絶対に明かしてはいけない、日本の、日本企業の秘密なのです。
もっとも、そんなことはばらしたところで、絶対マネができないことなのですがね。
ただ、この関係を海外の企業を締め出す非関税障壁とみなす向きもあり、この問題は微妙でもあります。
ケイレツ解体などの文言が、たまに経済誌の見出しに踊ることもしばしばで、ケイレツは新規の合理的な取引を阻む旧弊のみなされることもあるからです。
トヨタも国際企業だから、このことに話が及ぶのを嫌がっているのかもしれません。
しかし、日本の強みって、これくらいしかないんじゃないか、と思うんですよね。
それは外国排斥、なんてことじゃないですよ。でも無理してDXとか、AIとか言っている日本は、もっと生来的な特徴を活かすべきだと考えるのです。
トヨタがGMを売上で抜いた、というニュースは、期せずしてこれからの日本の方向性を示したと言えないでしょうか。
それを持っているのはトヨタやデンソーもだけじゃないでしょ。あなたも、あなたの会社も、持ってますよね。
えっ?最近リモートでそういう気持ちが薄れてる?って?
それはいけませんね。
日本人にとって、コロナの本当の怖さは、ここかもしれませんね。
じゃあ、また明日お目にかかりましょう。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?