アマゾン米国でのバッシングのさなか、楽天がとるべき戦略はこれだ。
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:経営学とは何か。経営学の使い方。リアルタイム世界経済情報の読み方。この2つを合わせた実践的な意思決定。経営学は机上の空論と馬鹿にできないという理解。
経営学を勉強する意味
きのう久しぶりに対面授業をやったんですよ。経営学の講義ではなく、1年生対象の基礎ゼミという位置づけで、大学での勉強の仕方とか、コミニケーションの基礎を教える科目です。
学生は2年生にならないと、僕の経営学の講義は取れないのですが、昨日は「経営学はこれだけでいい」と大見得を切って、昨日電車の中で偶然読んだ、The Wall Street Journal一面に出ていたアマゾンのニュース記事を題材にして話をしたのです。
話をまとめると、
経営学はまず歴史の流れ、経営学の流れを理解することが最も重要で、それにプラスして世界で何が起こっていることをリアルタイムに把握することが欠かせない。そしてこの2つから、問題解決を提示すること。これが経営学の実践的な学習法であり、使い方だ、と言ったのです。
学生には具体的にそのやり方を見せました。
まず拙著「HRMとは何か」を読めと言ったのです。
それには歴史と経営学の現在までの流れが書いてある。
でもその歴史のプロセスはちょっと長くて複雑でいろいろあった、それを理解することが大事だと言いました。
その次にThe Wall Street Journal9月15日号の一面の切り抜きコピーを渡しました。
そして、その概要を説明しました。
そして、最後にその2つの情報から、楽天のECビジネス戦略はどうあるべきかを導き出してみせました。
経済、経営の流れを理解するという実戦性
具体的に申し上げると、まず経営学の流れは人間性への流れです。
「HRMとは何か」に書いてあるのはそれだけです。
人間性の敵はブラック企業、セクハラ、パワハラ、LGBTいじめなどあらゆる種類の差別であり、従業員の人格を貶めるあらゆる企業の行為です。
経営学はこれを理解すればいいのです。
だけどもう一つはリアルタイムの経済、経営の動きを知り、そして考えること、です。
その道具として僕はThe Wall Street Journalを使ってます。(明日からはできませんけどね。宅配終わっちゃうから)
今日取り上げるのが、アマゾンです。
内容は、アマゾンの物流システムでアマゾンの従業員が過重労働を課されており、カリフォルニア州知事が、アマゾンほかの流通業者が課す、倉庫労働者への”強制割り当てノルマ“を明らかにする義務を法制化したことです。
フルフィルメントセンター(fulfillment center)と呼ばれる物流倉庫で働くパートタイム労働者に対する扱いがひどいことは、随分指摘されてきました。
倉庫の主役はAIですが、AIは作業の自動化だけでなく、従業員の仕事ぶりを見張り、ノルマ未達成が続くと、AIが自動的にピンクスリップ(pink slip 解雇通牒)を自動的に作成し、郵送までしてくれます。
今回注目に値するのが、州政府が法律でアマゾンのこういうやり方を規制したことです。
要するにノルマの量を公表しろというのは、正しく公表すれば過重労働とわかるわけですから、実質的にアマゾンの労働者の人間的に働く権利を守ったと言えます。
カリフォルニア州知事は、経営学が指摘する人間性への流れに忠実に従ったのです。
楽天はこの戦略でアマゾンに勝てる
では、この2つの理解からどうやって、問題解決を提示するのでしょう。
今回僕はこの2つの理解を、日本のアマゾンにまったく太刀打ちできない競争相手、楽天の戦略に応用しました。
楽天はEコマースで頑張っているのはみなさんもご承知のことですが、配達のスピード、様々なサービスでとても互角に勝負しているとは思えません。
でも僕が楽天の社長なら、アマゾンの正反対のことをしますね、つまり 「楽天の人間性」を間接的に強調します。
以下のような意見広告を毎朝読日経(まいちょうよみにっけい=主要4大紙)に出します。
「楽天は人間中心主義です。倉庫の現場で働く人を大事にします。7時間以上の労働は課しません。週休3日制も導入し、物流を支えるすべての倉庫労働者の健康と安全を第一に考えます。あなたが楽天を利用されることが、彼ら彼女らのしあわせにつながるのです」
こんなかたちで労働者の安心、安全、健康、福祉を強調するのです。
これはもちろん、アマゾンの今回のカリフォルニア州の決定に対する「あてこすり」です。
でもハッキリそのことは、もちろん言いませんよ。
「アマゾンに加州知事からの強制的な指導が入りましたよ。でも正反対にウチは、パートタイム労働者にやさしいよ」なんて口が裂けても言いません(笑)
ただ問題はそもそも、日本人がアマゾンのこうした問題点を知らないし、報道もされないことですね。
だから、今の戦略は世界で展開したらいいですね。ね、楽天さん。
でも、日本人もこういうWokeな感覚は少しは出てきているんで、日本人にも通用するとは思うんだけれど。
経営学とグローバルをバカにする日本の経営者
今回僕が言いたかったのは2つ。
一つは、経営者よ、経営学をバカにすんな、勉強しろ、ということ。
もう一つは、経営者よ、The Wall Street Journalくらい読んどけよ、ということです。
経営学も、グローバルも全然関心のない経営者が多すぎる。
その理由はふたつとも「バカにしている」ことだと思うんです。
一つは「経営学なんて机上の空論で役に立たない」という思い上がり。もう一つは「グローバルなんて、かっこつけてるだけ。日本人は日本人の考えで商売すればいいし、商売は商売、国境なんて関係ねえ。」という時代錯誤。
最後にあえて宣伝します。僕のその本のこと。アフィリエイトはやるななって言ってるくせに、自分の本は宣伝するんだ。
うん。今回はね。
あの企業の本棚に、僕の本があった衝撃
こないだ、こんな話があったんですよ。僕の日本でサラリーマンやっていた時の友人がこんな写メ付きメールをくれたんです。
「この前、仕事でA社を訪ねたら、そのオフィスの本棚に、お前の『HRMとは何か』を発見した」。
僕は喜んだんです。実利ばっかり追ってると思ってたあのA社が、一見すぐに役に立たないあの本を大事にしてくれてるんだ、という思いです。
企業の意思決定は3つしかない
ただね、僕がもう一つ言いたいことは、
経営学の教科書を読んだだけでは役に立たない。The Wall Street Journalを読め。そしてその2つの理解から、応用せよ、自分たちの戦略を創れ、正しい意思決定をしろ、と。
ただ、あらゆる企業の結論は3つしかありません。
1. Go(それやれ)
2. No Go(それやるな)
3. In-betweenその中間(妥協案)
今回アマゾンが取ったのは1です。彼らにも理由はあるんですよ。
過重労働で締め付けているおかげで、サプライチェーンが回って世界経済が助かってるんだ、アメリカ経済が回復してるんだぞ。
まあハッキリこうは言ってないけど(笑)
今回カリフォルニア州がとったのは、2,です。理由はアマゾンのやり方は人間性をそこねてるから。
しかし、多くの企業は3を選択するんですよ。妥協、です。
でもこの妥協が正しかったりする。こういう意思決定をケーススタディで磨くんです。
これが経営学のもう一つの使い方です。でも誰もやらないんだよなあ。
長くなりました、最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。
それでは、また明日。
野呂 一郎