ロシア国民は戦費高騰にどこまで耐えられるのか?
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:制裁が効いて物価高に苦しむロシア国民。一方で戦費は拡大の一途をたどるロシア。人々はどこまで我慢できるのか。戦争のコストについて考える。
不明瞭な戦費
ニューヨーク・タイムズWeekly 2023年10月2日号は、Russia retools economy for its war machine (戦争というマシンのためにロシア経済が変容)というタイトルを付けて、ロシア経済の窮状をレポートしています。
ロシアの財務大臣が「必要なものはすべて前線へ」と宣言したように、ロシア国民は戦争第一の生活を強いられています。
ロシア経済は、戦争中心に塗り替えられているのです。
来年の国家予算の3分の一、1090億ドル(約14兆6000億円)が、戦争に注ぎ込まれることが決まっています。
本来ならば国民のヘルスケア、教育、道路などのインフラ強化に使われるお金がすべて戦争に使われ、その額は戦争前の倍に膨れ上がります。
何と言っても最大の貿易パートナーEUから経済関係を断たれ、堅固なサプライチェーンを崩され、アメリカはロシア人の何千億ドルという資産を凍結し、グローバルな金融システムから外されたつけが、やはり回ってきているのです。
GDPでは測れない戦時経済
この記事でなるほど、と思ったのは、戦争中の国家の経済はGDPでは測れない、という指摘です。
フィンランド過渡期経済のための中央銀行(Bank of Finland Institute for Economics in Transition )シニア・アドバイザー、ローラ・ソランコ(Laura Solanko)氏によれば、「戦時における国家にとって、GDPは経済の健全性を測る指標としては弱い」と主張しています。
それは戦車や大砲や弾丸を作ることが、経済成長にカウントされ、そのおかげでGDPが増えても、人々のQOL(生活の質)が上がるとは限らないからです。
いや、まさにそのとおり、目からウロコでした。
食料品が高騰するロシア
バターが、そしてパンが値上がりしています。
ここ数ヶ月は食肉が、鶏肉価格が特に上がり、庶民の暮らしを直撃しています。
それに加え、インフレでルーブルの価値が下がっています。
スマホ、洗濯機、車、薬、コーヒーといった輸入品も、下落したルーブルでは買い支えられず、以前よりも遥かに高額になっています。
ロシアはこの期に及んでまだ、戦争という言葉を使わず、特別軍事作戦等と言っていますが、国家予算のおよそ1割、9.2%が戦争に使われています。
戦費は負傷兵へのケア、亡くなった兵士の家族への手当、ウクライナから奪った領土の統合にかかる費用等、直接間接に莫大な額にのぼります。
ポイントは国民がどこまで耐えられるか
記事は、「大統領選を来年3月に控え、いつものロシアならばこの辺で、国民の人気取りのために、インフラ整備などの名目で大盤振る舞いをするところだが、その余裕はない」、としています。
おそらく3月までは、国民が不満を募らせるような新たな徴兵や、締め付けはやらないでしょう。
しかし、大統領選が終わりプーチンが勝ったら、その反動でロシア国民は新たな苦難に見舞われるのではないでしょうか。
問題は、ロシアもそして我々も、ロシア経済の実態がつかめないことなのです。
野呂 一郎
清和大学教授