プロレス&マーケティング第41戦ラグビーに学ぶプロレス復興10年計画
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:ラグビーにならい、プロレスをメジャースポーツにする方法を考えてみた。テレビという温故知新。トップ画はハラダ画伯https://qr1.jp/a53bqX
ラグビー10年計画
BusinessWeek2023年10月2日号The other World Cup (もう一つのワールドカップ)という記事で、世界ラグビー・チーフ・エクゼクティブ・オフィサー(World Rugby Chief Executive Officer)のアラン・ジルピン氏(Alan Gilpan)は、自信満々にこんなことを言っています。
しかし、同じ米マスコミでも、ニューヨーク・タイムズは「アメリカのスポーツファンがテレビ、スマホ、タブレットの画面にかじりついてラグビーに熱狂するのを想像するのは難しい」と言っています。
まあなんとなくはわかりますね、アメリカンフットボールとラグビーは似て非なるスポーツですよね。
日本人がライスボールよりも、ラグビー早明戦に熱狂するのと似てるかもしれません。
さて、前述のジルピン氏は、「10年戦略」の一端をこうあかします。
プロレスはやはりテレビだ
ストリーミング視聴者は、マニア度合いが半端ないのは理解できます。
CMなんてウザいものをすっ飛ばして、場合によっちゃ録画して、倍速で見るわけです。
ジルピン氏は、今の流れならば、タイパ重視のZ世代にラグビーをストリーミングで流したほうが、ラグビー人気に火がつくと考えているのでしょう。
しかし、アメリカ人にとってラグビーは新興スポーツです。
いくらテレビからストリーミングへの流れ、プラグド(コンセントにつなぐテレビ)からアンプラグド(コンセントにつがないモバイル)への流れが急加速しているとはいえ、一見さんたちが有料メディアでラグビーを見ることは、想像しにくいです。
これは「プロレス&マーケティング第40戦」でも力説しましたが、ちょっと違う角度から書いてみましょう。
やはり、プロレス10年計画の核は、テレビだと考えます。
こんな話があります。
スポーツマネジメントの授業で、しかたなく(笑)プロレスを取り上げることがあるんですが、「タイガーマスクの戦略」という講義で、学生がこんな感想をくれたんです。
「先生がタイガーマスクの映像を流してくれたおかげで、没交渉だった父親と、プロレスの話で盛り上がった」。
核家族化と言われて久しいです。
つまり、家族団らんがなくなり、家族でテレビ番組を囲むなどということはなくなり、みんなスマホやタブレットで好きなものを見ている、というのが現代です。
昨日も、新宿のうどん屋さんに入ったんですけれども、4人組の若者が入ってくるや、注文を取った後はみんなスマホを覗き込むだけで、まったく会話がなく、そのまま食べ終えて行ってしまいました。
でも、本来プロレスは、そんなバラバラの家族関係、友人関係を、本来に戻す力があるのではないでしょうか。
タイガーマスクの力
テレビでプロレスを復活させるだけでは、足りません。
先ほどの学生の話のように、タイガーマスクがいなければなりません。
人間は素晴らしいものを見たり聞いたりしたら、誰かとそれを共有したい本能があるんです。
タイガーマスクを見て、何も感じない人は少ないでしょう。
ほとんど40年前のレスラーですよ、でも、当時もそうでしたけれど、半世紀近くたった今でも、老若男女を問わず魅了する存在が初代タイガーマスクなのです。
しかし、しょせん初代タイガーは100年に一度あらわれるかという天才ですので、それは期待できないのです。
でも、タイガーマスクの教訓は「わかりやすさ」という大衆性です。
プロレス関係者は、すでに若者が「プロレスってなあに?」という時代になってしまったことに、重大な危機感を持たねばなりません。
タイガーマスクは叶わぬ夢にしても、大衆には「わかりやすいプロレス」を提供すべきです。それもテレビで。
天心vs武尊の歴史的失敗
もうあれは一昨年になりますかね、那須川天心vs武尊の立技格闘技世界一決定戦。直前でフジテレビの放送が消えた件です。
あれがテレビ放送されていたら、キックボクシングは一躍メジャースポーツになっていたでしょう。
いくらアベマの有料放送で50億儲けたと言ったって、それは一過性の経済効果に過ぎませんでした。
天心も武尊も、全国クラスの知名度をゲットできる、千載一遇のチャンスを逃し、業界も天下取りに失敗したのです。
テレビは少なくともまだ日本においては、スターダムにのし上がる最高最大の舞台であり、最高のマーケティング装置なのです。
当時人気絶頂のタイガーマスクに対し、「虎ハンター」として立ちふさがり、スーパーヒーローを痛めつけ、名を上げた小林邦昭はこう言っています。
「あれから40年たったのに、いまだに街で『小林さんですか』と声をかけられる」。
テレビの威力を物語って余りある話です。
新日本プロレスはゴールデンを目指せ
プロレス界で唯一地上波中継がある、新日本プロレス。
しかし、惜しむらくは深夜帯の中継ということです。
視聴率は伝えられるところによれば、1%から2%。それでも100万から200万の視聴者がいます。
しかし、これは悪循環なのです。
深夜帯で30分のプログラムでは、じっくりプロレスの面白さが伝わりません。だから視聴率が振るわないんです。
1時間番組にすれば、視聴率が上がり、ゴールデンに行けるはずです。
悪循環はこうも説明できます。
深夜帯で30分番組は、放映権料が格安です。
かつてゴールデンで1時間放送していたプロレス団体は、月3千万円の
放映権料を手にしていたと言われています。今はその10分の一がいいところでしょう。
その放映権料で、強豪外人レスラーを呼び、リングが華やかになり、人気を呼び、視聴率も上がったのです。
そしてゴールデンで1時間という看板番組だったから、テレビ局とプロレス団体は一蓮托生の運命共同体となって、テレビ局から経営幹部が団体に異動し、マネジメントまで関わるようになったのです。
温故知新という言葉は、今の時代当てはまらないことも多いのですが、物事の本質はそう変わりはしません。
テレビの問題は、まず新日本プロレスが総力を上げてゴールデンに移転を実現させることではないでしょうか。
この戦略こそ、プロレスの10年戦略の中心になると信じるものです。
野呂 一郎
清和大学教授