プロレス&マーケティング第89戦 緊急追悼・虎ハンター小林邦昭の「逸話力」に学ぶ。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:初代タイガーマスクの天敵・「虎ハンター」小林邦昭氏の訃報がいっせいにマスコミに報じられた。これだけ世間に愛された理由は、タイガーマスクをいたぶったことだけでなく、彼のレスラーとしての数々の逸話だった、という話。プロレスだけじゃなく、「逸話力」こそがマーケティングの要であるという勝手な論。しかしポイントは「秘すれば花」。トップ画はhttps://x.gd/8XUbU
逸話力とは何か
逸話力とは何か。
逸話とはエピソード、知られざる面白い話のことです。
それはその人にまつわる、代名詞的な面白い出来事がたくさんあることです。
マーケティングで大事なのは、プロデュースする製品、サービス、人物に逸話をもたせることではないでしょうか。
いま、逸話をもたせる等といいましたが、そもそも逸話とは表に出ない話なので、この言い方は矛盾していますね。
要するに、マーケティングのプロデュース側が戦略として演出するのではなく、モノやサービスやヒトが勝手に物語を綴る、のです。
存在自体にエネルギーとパワーが充満し、個性が溢れ出ていれば、エピソードは自然に生まれるのです。
逸話があるプロレスラーこそが、スターといえるのではないでしょうか。
僕がプロレス界で気になっているのは、そういうエピソードを持っているレスラーが少ないことです。
小林邦昭のエピソード
もちろん、小林邦昭といえば1983年に初代タイガーマスクと戦って、マスク剥ぎの暴挙に出て、全国の虎ファンを激怒させ、新しいヒール像を作り上げ、「虎ハンター」としていちやくスターダムに駆け上がったことは、言うまでもありません。
しかし、これは誰もが知る話なので、逸話ではありません。
では、小林邦昭の知られざるいい話を、箇条書きにしてみましょう。
1.大食い
その昔、新幹線にはビュッフェと呼ばれる食堂車がありました。
若手時代、移動で東京から大阪に赴いた小林邦昭は、そこでメニューにあるものを全部平らげたのです。
山本小鉄さんのおごりだったそうですが、このエピソードは昭和のファンに刺さりました。
2.プロレスラーのプライド
今回小林さんはガンでお亡くなりになったようですが、1992年頃から大腸がんを患いしており、99年には肝臓にも転移していました。
2000年に引退するのですが、ガンとの戦いに負けたからではなく、70センチにも及ぶ手術跡を人に見せたくなく、それを隠すためにシャツを着るくらいなら、プロレスをやめる、ということだったのです。
プロレスラーとはどうあるべきか、という独自の美学を持っていたのです。
3.礼儀にうるさい
1991年空手団体の誠心会館と新日本プロレスの抗争が起こるのですが、その発端が、小林選手でした。
タッグを組んでいた誠心会館の青柳館長の門下生の振る舞いが無礼だとして、殴りつけ大怪我をさせたのです。
それが両団体の歴史に残る闘争につながるのです。
ただ、この話は諸説あり、抗争のきっかけづくりに青柳が門下生をけしかけたとか、第三者が仕組んだとかの説も根強いものがあります。
4.プロレスとは何かという信念を持っている
これは2のプロレスラーとしてのプライドと重なりますが、小林選手はプロレスとは何かという固い信念を持っていました。
それを象徴するのが「カミソリ事件」でした。初代タイガーマスクをいたぶる冷酷ファイトに、全国からブーイングが殺到、抗議の手紙がわんさか届きました。
その中はカミソリが入っている手紙があり、小林邦昭は指を深く切ったのです。
しかし、小林はファンを恨むわけでもなく、「レスラー冥利に尽きる」とほくそ笑んだのです。
「カミソリで怪我させてやろうとまで、ファンはオレを憎んだ、オレのファイトでそこまでファンをヒートアップさせた、それはプロレスラーとして本望だ」、こう小林は思ったのです。
熱と愛がないとファンに共感されない
さて、エピソードはプロレスラーの個性を表すものにほかなりません。
個性にはいいも悪いもなく、それはレスラーのアイデンティティ(その人だけが持っている特質)ともいえるでしょう。
でも、問題はそれが自然に伝わりレスラーの価値を上げるか、ということなんです。
答えは”熱と愛”がないダメ、です。
熱はその人が生来持っている、エネルギーとかオーラと言ってもいいでしょう。
愛とは、プロレスを心から愛しており、一心に打ち込んでいるという態度のことです。
小林邦昭は、ファンにそういったものを感じさせるレスラーでしたね。
もう一つは、マスコミです。
昭和の時代は、プロレスマスコミが今よりずっと強力でした。
特に1980年代は東スポを中心に内外タイムズ、レジャーニューズ、週プロ、ゴングに加え、週刊ファイト、ビッグレスラーなどひしめいて、プロレスラーのリング内外の様子を伝えようと、切磋琢磨していました。
小林邦昭の逸話も、そうしたプロレスメディアが報じたものです。
今はまったく時代が変わり、東スポと週プロしかないし、レスラーは自ら自分のニュースを発信するしかなくなっています。
逸話とは、表に出てないから、噂の段階だから逸話なのであって、今のようにSNSで、自分から「こんなことがありましたぁ」なんていうのは、逸話でもなんでもないわけです。
時代が変わってレスラーも、ファンも変わりました。そんな中で昭和の寡黙なダンディズムを復活させろ、等と言うつもりもありません。
しかし、エピソードは一流レスラーにはなくてはならない、”目に見えない資産”だと思うんです。
そしてそれは絶対に自分で言ってはならない、情報です。
「秘すれば花」であり、逸話の価値はここにあります。
YouTubeでプライベートを発信するのもいいけれども、レスラーは自然ににじみ出るものにこだわる、という姿勢も大事なのではないでしょうか。
マスコミも、選手があまりにも自分のことをあけすけにSNSで発信してしまうために、取材に対してのモチベーションが低くなっているのでは、などと余計な心配をしている私なのです。
一番困っているのは、「宝島」じゃないかな。(笑)
野呂 一郎
清和大学教授
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