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なぜMBA教育は、アメリカよりヨーロッパなのか。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:ヨーロッパの社会人教育はケース・スタディ一択という事実。なぜこれからのMBA教育は、アメリカでなくてヨーロッパがリーダーなのかの理由
ドイツの苦い思い出
ヨーロッパのことを少し書きましょう。
初めてのヨーロッパはドイツでした。
もう30年以上も前のことです。僕は、ドイツのデュッセルドルフというところで、開かれていた食品展示会にいました。
国際展示会の営業の仕事で、出展者を日本の展示会に誘うために上司と来たのです。
仕事熱心でなかった僕は、あまり何をしたか記憶がありません。
ただ、ビールとソーセージは飛び切りうまかった、それだけです。
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ホテルの食事には野菜が全くなく、聞いてはいたけれど、ドイツはジャガイモしか栽培に適さない土壌なのだと納得した覚えがあります。
今から思うと、行く前にドイツ語を少しでも覚えるなり、現地で何か積極的なふるまいをして人間関係を作っておくなりしていればよかった。
準備というレバレッジをかけて、帰国後にその経験を爆発させようなどという、知恵がありませんでした。
突然のドイツ行きという偶然を、活かせなかったことは、つくづくバカだったな、もったいなかったな、と思っています。
でも、これから活かせばいいか。
積極性こそ国際性と心得る
ドイツの反省は、もっと貪欲に積極的にやればよかった、です。
それから20年たって、二度目のヨーロッパがスロベニアです。
きのうの写真は、それ以来のヨーロッパで、スロベニアで行われた、2週間の合宿の一コマです。
ちょっと今日は、訓練の合間のコーヒーブレイクの絵を載せようかな。
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その時の反省で、今でも苦手ですが、コーヒーブレイクには積極的に知らない人にも声をかけるようになりましたね。
国際性とは、積極性のこと。
結局そんな単純なことなのか、今もそう思います。
ヨーロッパという一体感
スロベニアは、イタリアと国境を交えた小国で、森と湖に囲まれた自然豊かな環境が自慢です。
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この合宿の正式名称はIMTA(Internatinoal Management Teachers’ Union 国際経営学教員連合)というもので、30年の歴史があり、ヨーロッパの大学院生及び社会人の経営学教育にたずさわる者たちが、能力開発、スキルアップをはかる一大チャレンジの場になっています。
ここでのテーマはただ一つ、「ケーススタディを高度に切り回せる教育スキルを身につけること」です。
そうなんです、ヨーロッパで大学院生および社会人の経営教育は、ケース・スタディしかないんです。
経営教育の最高峰としてのケース・スタディ
ケーススタディとは、企業の悲喜こもごものストーリーと経営上の数字を教科書に、ディスカッション方式で決められた課題にグループワークで取り組む学習法です。
コーディネーターの教師が、そのストーリーにまつわるテーマを決め、学生たちはグループを組んで、その問題解決に挑むのです。
グループ分けし、リーダーを決め、各自が役割を与えられ、ディスカッションを通じて問題解決にアプローチをします。
ケース・スタディとは、徹底したグループワークのことです。
一人ひとりが調べる、議論する、問題提起する、主張する、反論する、他者の意見を聞く、まとめる、リーダーシップをとる、フォロワーシップを学ぶなど、問題解決に向けて、いやでも主体的、能動的に取り組むことを余儀なくされます。
ケース・スタディの成功は、しかし、このグループワークをコントロールする教師にかかっています。
教えるものはグループごと、そして一人一人のニーズや特徴をつかみ、グループワークにうまく適合させたり、能力を発揮させたり、時として孤立させないように、様々なヘルプを行うのです。
そのスキルを身につけるのが、IMTAの2週間の合宿なのです。
ケース・スタディ教師の”虎の穴”が存在した
僕もアメリカのビジネススクールでは、ずいぶんケーススタディをやらされましたが、自分が教師になってこの方法論を司る経験も能力もスキルもありませんでした。
2週間の合宿は寝る間もないほど、タフでハードでしたが、MBAの2年半を2週間でやり遂げたような実感がありました。
ケース・スタディの本場は、アメリカのビジネススクールだと思い込んでいたのですが、正しくはヨーロッパです。
IMTAは、その訓練のための総本山的なスクールです。
というより、タイガーマスクに出てくる、超悪役レスラーを養成する地獄の訓練所”虎の穴に例えたほうが適切かもしれません。(笑)
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ここにはヨーロッパをはじめ、世界中からケース・スタディの本物の教師を目指し、つわものたちが集ってくるのです。
そのダイバーシティ(diversity)つまり国籍、人種、文化、価値観の豊かさは、僕の知る限りアメリカのビジネススクールを遥かに凌駕します。
そもそも、アメリカにはこうした、「ケース・スタディをマネジメントするスキルを徹底的に鍛える場所」なんてないんです。
これまでIMTAに参加した大学教師たちの国籍は、100を優に超えます。しかし、日本人がIMTAに参加したのは僕が初めてで、物珍しさからずいぶん歓待されました。
しかし、ある意味で、いかに日本の大学、大学院、社会人教育団体がグローバル経営教育、なかんずくケース・スタディを軽視しているともいえるでしょう。
申し上げたように、IMTAの理念は「ケーススタディこそ、社会人経営教育の唯一にして無二なもの」ということです。
それはヨーロッパの共通認識だというのです。この事実が僕をして、「アメリカより進んでいる」と信じるゆえんです。
なぜ、経営教育はヨーロッパがすぐれているのか
そもそも経営教育の王者がケース・スタディであるとすると、教師の訓練カリキュラムがあるヨーロッパのほうが、アメリカより上だといえます。
いや、もう一つもっと重要な、アメリカとの差があると感じたんです。
それはヨーロッパの一体感です。
僕がドイツに行ったときと違って、ヨーロッパは一つの大きな経済、文化ブロックになりました。EUという名の。
今回それを感じたのは、週末にみんなで隣国のイタリア・ベニスに観光に行ったときのことです。
クルマで3時間、一行はやすやすとベニスに入ることができました。
国境という感覚が、まるでない。
お金もユーロですから、スロベニアにいる感覚なのです。
ああ、これがいまのヨーロッパなのか、と強く感じました。
アメリカで学ぶ欠点
僕はアメリカで運よく学ぶ機会を得て、MBAを獲得することができました。
しかし、アメリカは、ある種、独善的な国です。
アメリカという文化の外から来たものは、アメリカのルールに従わなくてはならない。
アメリカの経営教育も、基本はアメリカの価値観に基づいています。
そして、アメリカは差別という宿痾を抱えています。
表面、世界で一番差別に厳しい体をとりながら、実は差別が横行している。
ヨーロッパに差別がないとはいいませんが、アメリカのようなおぞましい差別事件はめったにおこりません。
差別がないからこそ、EUという共同体ができたのです。
このアメリカにない一体感というか、差別がなく、公平性が強い風土こそ、現代の経営教育にベストマッチしているのではないか。
その意味で、ヨーロッパこそ、まさに、社会人経営教育の新しいメッカなのではないか、そう思うのです。
ヨーロッパの経営教育、これからも折に触れてお話したいと思います。
今日も最後まで読んで頂き、ありがとうございました。
では、また明日お目にかかるのを楽しみにしています。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー