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クリスピー・クリームの復活が教えるデリバリー全盛の飲食サービスのあり方
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:米クリスピー・クリーム・ドーナツが、再び新規株式公開した本当の理由。企業にとって”借金”のほんとうの意味。レバレッジ比率、という財務指標の実践的意味。フランチャイズはどうあるべきか。飲食における根本とは何か。値上げをしても売上が落ちない秘密とは。
クリスピー・クリーム新規上場の理由
わかりますよ、デリバリーの件。
デリバリーを頼む飲食店の皆さんは、妥協をしてらっしゃるんです。本来の味を味わってもらえないという妥協を。
何回かデリバリーについて書きましたが、今回はじゃあ、妥協のないやり方で成功している企業の例を上げてみたいと思います。
それはもう20年くらいたつでしょうか、あの黒船ドーナッツの衝撃から。そうです、クリスピー・クリーム・ドーナツです。
あの時の熱狂は冷め、数年前にオープンした新宿南口近くのお店の行列も止みましたが、まだそのブランドは健在です。
実はクリスピー・クリーム・ドーナツは昨年7月に5年ぶりに株式公開して、新生クリスピー・クリーム・ドーナツとなっていました。
それまでは、JAB Holding Co.に買収されて、実は株式非公開でした。新規株式公開の理由はただひとつ、ドーナツの品質を上げたかったから、です。
ドーナツの品質を上げる?
ドーナツだよ?
皆さんはこうおっしゃるでしょう。
確かにクリスピーは美味しいけれど、品質向上って、あれでいいでしょ、と思いますよね。
でも、クリスピー・クリーム・ドーナツの経営陣は、もっとおいしいドーナツを作ることに燃えていたのです。
おそらく買収先で、美味しいドーナツというゴールを達成するための、理想のビジネスができなかったのでしょう。
美味しいとは美味しく食べさせることだ
美味しいとは何か。それは、美味しいものを作るだけではありません。
美味しく食べさせることです。
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クリスピー・クリームの”美味しい”は、「なるべくできたてに近いものをお客に食べさせること」です。
お客ができたてのドーナツを食べることのできる、システムを作ること、なんです。
日本と違い、アメリカではグローサリーストア(食品スーパー)とか、コンビニエンスストアにも、クリスピークリームはおいてあります。
しかしこれまでは、焼いてから4日~7日たったものが置かれていることも珍しくありませんでした。7日って・・・・😁
美味しくするコツは”コントロール“だ
クリスピー・クリーム・ドーナツは世界中の24のフランチャイジーと(フランチャイズ加盟店)販売店をを4億6600万ドル(約450億円)を投じて買い取ったのです。
何のために?
本社主体で販売拠点を”コントロール“するため、です。
以前は本社が買い取った加盟店、販売店の割合はアメリカが50%、その他の市場が30%でしたが、今回の買収で世界中のクリスピー・クリーム・ドーナツの拠点の80%が、本社直轄になったのです。
加盟店、販売店を買収すれば、本社のコントロールがよりやりやすくなり、その結果、クリスピー・クリーム・ドーナツのファンに、なるべくできたてのドーナツを食べてもらうことができるのです。
どうやって?
1週間たったドーナツを売るなんてことができないしくみが、下の写真です。
![](https://assets.st-note.com/img/1641277817461-r4Ce0LsHfQ.png)
ホット・ライト・シアターショップ(hot-light theater shop)です。
ホットライトとはテレビ番組の制作に使われる強いライトのことです。シアターショップとは文字通り劇場型販売店。つまり、揚げたて、出来たてのドーナツの製造工程を見ながら、出来たてを持ち帰ってもらえるショップです。
クリスピークリームはこのホット・ライト・シアターショップを世界中に378店作り、そこから、コンビニやスーパーの売り場を含む加盟店、販売店に流すシステムを構築したのです。
この物流は、やはり、本社が買収した加盟店、販売店であることで、正しく、効率的に機能し、ファンにフレッシュなドーナツを提供できるのです。
どうでしょうか。
クリスピークリームの考え方、やり方は、デリバリーを頼む日本の飲食店と正反対です。
フン、大企業だからできるんだろ?
痛みと犠牲を伴なうクリスピーの大改革
ここなんですよ。
クリスピークリームは、フランチャイズやコンビニに出している小さいお店からなにから買い上げてしまうわけで、借金が雪だるま式に増えちゃっているんです。
2020年の終わりには借金は、795ミリオンダラー(約800億円)にまで膨れ上がりました。
同社の財務状況はだから、借金の割合が大きすぎるのです。
自己資本比率という指標がありますよね、総資本における自己資本の比率で、これが高ければ高いほど、経営は健全です。
これと逆の指標がレバレッジ比率(leverage ratio)という指標で、総資本に対して借金がどのくらいあるかを示したものです。これが大きければ大きいほど、経営は不健全、です。
![](https://assets.st-note.com/img/1641294168605-csmQSRr0Lv.png)
別の見方もできないことはありません。
もう少し詳しくこのレバレッジ比率(leverage ratio)を説明すると、レバレッジつまりテコという言葉が、素敵なんです。
総資本というのは、収益から利息、税金、減価償却費をさっぴいたものです。今の財務的実力と言っていいでしょう。
それをテコにして、外部から借金をして会社を回していく、という荒馬テリー・ファンクみたいな😁経営です。
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自己資本つまり今の財務的信用をテコに、銀行借入れ、社債などを発行して、他人資本つまり借金をし、必要な投資をし、利益を上げて回収するという大胆不敵なやり口です。
言葉を変えれば、これだけのリスクを犯して、美味しいドーナツをお客さんに届けようとしているのです。
クリスピー・クリーム・ドーナツの”ハブ&スポーク“戦略
具体的に言えば、さっきの世界378のホット・ライト・シアターショップを、”ハブ&スポーク“に使う戦略です。
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この出来たてドーナツ工場を世界に適切に配備し、本社のコントロールでどの拠点でもフレッシュなドーナツを提供するシステムの構築です。
これが大成功しているのは、借金が減っていることで証明できます。
さっき言った2年前の795ミリオンダラーから、昨年8月8日づけで646ミリオンダラーに減っているんです。
どうやったか。
各店の売上が上がったキャッシュをぶち込んだのです。
昨年7月4日の第4四半期での総収益は349.2ミリオンダラー(約400億円)であり2000年の実績から43%も前年から増えています。
注目すべきは、クリスピークリームのこの成長は、コロナ禍の中で成し遂げられたという点です。
食の原点を命がけで守ったクリスピー・クリーム
それは、フレッシュ・フロム・オーブン(fresh from oven オーブンから出したばかりのフレッシュさ)という食の原点を、どんな犠牲を払っても実現する、というクリスピー・クリーム・ドーナツの執念にあるのではないでしょうか。
同社も皆さんと同じく、小麦粉や砂糖の値上げと言った逆風に苦しめられています。
でも、ここ数年年間2%値上げをしているんです。それでも売上が落ちないどころか、増えている。
さっき、実はピンポーンとベルが鳴るから、フォーンを取ったら「ウーバーです」って。
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頼んでないよ、と言ったら、何も言わずに行ってしまいましたが、このあたりでずっと迷っているみたいです。
ご苦労さん、と配達の方には言いたいですが、今頃本当の注文主は、「まだ来ないのか」とイライラしていることでしょう。
それだけで、注文した料理は美味しく食べてもらえない、かもしれません。
食の原点は「出来たてを提供する」ことにあります。
今年は、食に限らず、原点が問われる年になるのではないでしょうか。
野呂 一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー