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キッシンジャー外交にみる、国家の長期的利益とは何か。
この記事を読んで、あなたが得られるかも知れない利益:キッシンジャーの毀誉褒貶。あれから約半世紀たって、判明したキッシンジャー、本当の功罪。長期的な展望のむずかしさ。トップ画はhttps://qr1.jp/1epl1N
ニューヨーク・タイムズの的確な評価
きのう紹介したニューヨーク・タイムズのキッシンジャー追悼記事の冒頭、この大新聞はキッシンジャーをこう評しています。
11月29日に100歳でなくなったヘンリー・キッシンジャーは最も賢いアメリカの外交政策のリーダーであり、もっとも忘れられやすく、もっとも先見の明があり、もっとも目先のことしか考えず、最も偉大なレガシーを持った人物であった。
なんじゃこりゃ、ほめてるのかけなしているのか、それとも皮肉か?、と突っ込みたくもなりますが、僕はこれは実に、的を射た評価ではないかと思うんです。
半世紀たってわかったキッシンジャーの過ち
いま、日経新聞を見てるんですが、新刊の宣伝でこんなのがありました。
拒否戦略 中国覇権阻止への米国の防衛戦略
まさにこの本は、現在のアメリカ最大の危機を示している本です。
また、今日のThe Wall Street Journal電子版では、China, which the Biden administration named as the greatest danger to American security, remains at the top of the CIA’s to-do list (バイデン政権が中国をアメリカの安全保障にとって最大の危険とみなす、CIAも同じ見解)という記述がありました。
この米中緊張状態を作った、張本人がキッシンジャーです。
1979年に米中対話が始まり、米中貿易が加速し、過去最大の貿易量を今年度も更新しています。
米国との関係緩和がなければ、中国は世界第二位の経済大国にはなってなかったでしょう。
そして、アメリカが「中国覇権」を恐れることにもなってなかったでしょう。
ウィンドウズと心中した米国政府
45年たってわかったことは、キッシンジャーの中国政策は、近視眼的であった、ということです。
キッシンジャーは、当時積極的にウインドウズを世界的に売り出していたマイクロソフトと中国の関係強化にご執心でした。
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個人的には、キッシンジャーは米国IT企業なかんずく、マイクロソフトの中国市場獲得という目先の利益に走った、と思うんです。
中国では、1979年当時ウインドウズの偽物がタダ同然の価格で売られていました。
この海賊品市場をどうにかすることが、アメリカのITを中心としたグローバルな経済戦略のカギを握っていたのです。
米政府+大企業のタッグは、アメリカのお家芸であり、キッシンジャーはその才も長けていました。
しかし、中国の著作権侵害に関する異常なまでの無関心、はわかっていたはず。
彼の国の本質を無視して、目先の利益に走ったと言われても仕方がないでしょう。
いちいちあげつらいませんが、米中問題のほとんどは、そこに行き着きます。
政府も企業も100年の計を考えよ
資本主義社会にあって、カネと利益はいつでも悪魔の誘いです。
そして、人の野心も。
キッシンジャーも例外ではありません。
しかし、企業が潰れても社会に大きな影響はありませんが、政府はそうは行きません。
かの知の巨人、渡部昇一氏は「政治家の役割は、国民を守ること」と喝破しています。
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一時の資本主義的利益に駆られて、大局を見失ってはいけない、キッシンジャー氏の功罪を振り返って、そう考えます。
リーダーは、半世紀先を考えて、思考、行動できる能力がないといけない、そう思い知った次第です。
野呂 一郎
清和大学教授