武道と経営学。大学授業実況中継
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:武道には日本の、日本人の知恵が詰まっている。経営学と武道の深い関連についても考える。武道とは、これからの経営の根幹である「暗黙知」を鍛える方法論が存在する。学ばない手はない。
武道と経営学
今日の講義のテーマは「武道と経営学」だ。
武道が経営学に関係あるのか、って?
それが大いにあるんだ。
武道とは、広く解釈すると「勝つための道」だ。
勝つことを成功すること、と考えれば、まさに経営学だ。
経営学は成功するための学問だからだ。
「勝つための道」は戦略と言ってもいい。
武道は経営学であり、戦略でもあるのだ。
武道とは何か
さて、この土日は棒術の合宿に行ってきたことは話した。
何をやってきたのか、って?
武道とは何かを、身を持って体験してきた、と言えばいいかな。
武道とは
なんだ。
今回の棒術の合宿で、僕が改めて学んだきたのはそこだ。
一つずつ解説しよう。
1.手の内を見せないこと
勝つためには、こちらの情報は隠しておかねばならない。
今、イランがイスラエルに攻撃を仕掛けているが、イスラエルが恐れているのは、イランの戦力についての情報がまったくないからなんだ。
イランと交戦したこともないし、イランは大使館を攻撃された復讐だといっているが、確たる情報がないから、その動機すらわからない。
情報は敵と相対した時にも、隠さねばならない。
藤井聡太が、コロナが収束してもなぜマスクをやめないのか。
それは、口元に存在する情報を「消す」ためだ。
相手は藤井聡太の口元を見て、何を考えているのか、次の一手は何が来るのかを予想する。
それは単なる人相読みの類ではない。
表情という情報さえあれば、プロのカンで次の手、3つ先、9つ先に打つ手がわかるのだ。
藤井棋聖は、その情報漏洩を避けるためにマスクを外さないのだ。
ってほんとかよ、ああ、あくまで武道的な観点からは、それは正しいよ。(笑)
2.予備動作をやらないこと
武道の鉄則はこれだ。
予備動作、つまり「攻撃しますよ」というあからさまなサインをだすのは、武道の心得に基本的に反する、ということだ。
例えば剣を振りかぶるのは、斬リ下ろすという攻撃のサインだし、拳を構えるのだって、パンチを出しますよ、というメッセージを相手に与えているだけだ。
脚を横に上げて畳む動作は、回し蹴りの予備動作だと察知される。
蹴るんなら、たった姿勢からノーモーションで前蹴りを相手の金的にブチ込むしかない。
予備動作とは、キミの癖でもある。
野球部の4番を打つキミは、本塁打狙いのときは、どうしても左翼のスタンドを見上げるクセがある。
敵バッテリーは、スコアラーを派遣してキミのそのクセは、先刻承知だ。
癖という予備動作は読まれている。
北朝鮮が大規模なミサイル発射をするのも、必ず日米韓で合同軍事演習があった翌日だ。
まあこれはクセ、というよりも、「お約束」と言ったほうがいいかもしれないが。
3.居着かないこと
居着く(いつく)ことは、武道で最も忌み嫌われる動作だ。
居着くとは、最終動作つまり相手にとどめを刺す時に、心身ともに最後の一太刀と一心同体になってしまう状態をいう。
最後に相手を斬ったはいいが、その動作が居着く、つまりその形のまま、自分も動かなくなってしまう状態だ。
心も「相手をやっつけた」という勝ち誇りと油断が、占めている。
剣道では、「残心(ざんしん)」という言葉でこの状態をいさめている。
つまり、敵を倒しても油断するな、ということだ。
居着くことは、とどめを刺す動作に限らない、ようするに技を出して固まってはいけないのだ。
常に、敵を倒しても、どこから残党が現れて攻撃してくるかわからないから、常に一動作終わったら、動作をほどいて次に備えなくてはならないのだ。
武道の現代経営学への示唆
今日の話をまとめると、「敵に読まれるな」ということです。
でも、賢い読者の皆さんは、野呂のやつ、情報開示の時代に何とぼけたことを言ってるんだ、と思われるでしょう。
その通りです。
しかし、あくまでこの武道の鉄則は、現代にも生きているんです。
敵に読まれないようにするために、では、どうすればいいのか。
それは「暗黙知」で勝負する、ことです。
暗黙知とは、表に出ない情報で、数字や言葉で表せない、空気や雰囲気、企業文化のことです。
現代は確かに情報開示が法律でも求められていますから、各種財務諸表はもちろん、株主にも詳細なデータを提供する必要があります。
ある意味、現代の企業は情報開示の圧力にさらされて、丸裸にされている状態なのです。
データや企業のクセまで把握されている中、勝つための最終兵器は、「暗黙知」なのです。
仮にデータが盗まれたって、へっちゃら、です。
例えてみれば、レシピが盗まれたって、本物のシェフはびくともしないようなものです。
原材料を入手しても、調理の仕方のテキストを手に入れたところで、その料理は再現できません。
なぜならば、その料理を究極のものにするには、シェフだけが持っている暗黙知が物を言うからです。
いわば才能と長年の修練で培った、言葉にできないスキルとコツ、がモノをいうのです。
経営情報が他に漏洩しても、あなたの会社には「ゼロから立ち上がる姿勢」が根付いています。
武道にしても、本当の強者は武道の秘伝書に頼りません。
絶体絶命のピンチのときに、大逆転勝利を収めるのは、長年の修練で身体に、そして潜在意識にまで染み付いた動き、つまり暗黙知なのです。
武道はそれを鍛えるために、反復練習を惜しみません。
企業も、武道にならって、その「刷り込み」をする現代的、合理的な体系を創ったらいいんじゃないでしょうか。
野呂 一郎
清和大学教授