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祝50周年・映画「ジョーズ」に見る、社会的インパクトのある作品の作り方。

この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:映画ジョーズが制作されて今年で半世紀を迎える。しかし映画のタイトルがジョーズでなければ、語り継がれる作品にはなり得なかったろう。でも、社会的インパクトが巻き起こるような作品は、ネーミングがすべて、ではない、という話。

「ナウエコノミー」の失敗

一応僕も学者のはしくれなので、本で勝負とは常々思っており、中身はもちろんですが、著書のタイトルはマーケティング的に最重要だと考えていました。

2006年に出したその本は、でも売れませんでした。

「ナウエコノミー」というタイトルで、サブタイトルを -新・グローバル経済とは何かーにしたのですが・・・。

ヒットするはずが(笑)

現在の経済だから、「ナウ」、経済だから「エコノミー」、で「ナウエコノミー」でいいだろう。

このナウエコノミーは和製英語でもない。

おりしもマーケティングの神・フィリップ・コトラーが、現代の経済はすでに過去の経済でなく、ナウエコノミー(now economy)と呼んで、定義スべきだと言っていたのです。

そこで僕は、「誰もそれを定義してないなら、オレがその答えを出してやろうじゃないか」などと粋がっていたのです。

3年がかりで書き上げた本のタイトルは、もちろん「ナウエコノミー」で、これで新しい経済にスポットが当たるぞ、などと取らぬ狸の皮算用を決め込んでいたのです。

ネーミングがすべて

アントキの猪木、いやあんときあの本のタイトルを、ナウエコノミーじゃなくて、「ヒューマンエコノミー」にしておきゃ、新しい経済の提唱者ともてはやされたのに(笑)、という情けない後悔があります。

本が出た時に、ネットでも「ナウエコノミーなんて奇をてらわずに、素直にヒューマンエコノミーくらいにしておけば、売れたのに」などと突っ込まれたことがありました。

そのとおりと思います。

いま、立憲民主党の代表選挙が行われていますが、枝野さんが「ヒューマンエコノミクス」っていうスローガンを抱えているんですよね。

https://x.gd/wJcL2

考え方は僕と同じで、人間性こそが経済の中心になるという考え方です。

「ヒューマンエコノミー」のほうが、ずっとわかりやすいですものね。

この件で僕の反省は、「ネーミングは自分だけで決めてはならぬ」ということです。

先ほど書いたように、こだわりはあったのですが、ひとりよがりでした。

やはり、市場が理解できない、親和性を感じないカタカナじゃ、流行らない、というのが結論でした。

いや、そうじゃないだろうお前の知名度のなさと、内容の薄っぺらさで売れなかっただけさ、そう言われるかもしれませんね。

学術書でもあり、流通も一般書とは違うことも、ブレイクを阻んだ理由の一つです。

しかし、知名度とか内容とか、装丁とかそんなものをやすやすと全部越えてしまうのが、ネーミングだと思うのです。

ジョーズがなぜメガヒットしたか

1975年にスピルバーグ監督がメガホンを取った、映画「ジョーズ」。

原作はその2年前にヒットしたピーター・ベンチレー氏の手になる小説でした。

作品の出版の打診を受けた、マンハッタンのダブルディ&Co(Doubleday & Co)では、持ち込まれた小説の出だしを読んだスタッフたちが、大ヒットの予感にざわめいていました。

「ニューヨークのロングビーチでひと泳ぎしようと、海に入った若い女性。恋人はビーチでまどろんでいる。突如彼女を襲ったのは白い物体だ。円錐形の巨大な”アゴ”が女を海中から引っ張り上げ、胴体に噛みつき、骨を砕き、彼女の肉と内蔵は瞬く間にゼリー状に変わり果てた。」

小説「ジョーズ」冒頭部  ニューヨーク・タイムズWeekly2024年8月11日 50 years ago, a terrifying shark tale captured angst of the era(50年前恐ろしいサメの物語が、時代の不安をとらえた)より
https://x.gd/tiN2B

問題は、出版社としてこの半ば成功が約束されている傑作のタイトルを何にするか、でした。

ベンチレー氏も含めて、スタッフたちのタイトルを考える日々は数ヶ月に及びました。

「ダーク・ホワイト(Dark White)暗黒の白いサメ」とか、「地獄の縁辺(The Edge of Gloom)」など、ベタなタイトルしか出てきません。

締め切り直前に提案されたのが、「ジョーズ」だったのです。

ジョーズとは(jaws アゴ)であり、そうです、若い女性を飲み込んだ巨大サメの口の部分のことです。

この冒頭の部分を読んだ人々は皆、恐怖におびえながらも、最後まで一気に読んだといわれています。

映画も、このシーンを最初にもってくれば、ヒット間違いなし、でした。

ジョーズの大成功が教えるもの

それは、映画に限りませんが、あらゆる作品は、その内容にピッタリのタイトルがなければヒットはおぼつかない、ということです。

もう一つは、作品をヒットさせるには、時代背景が必要だということです。

ニューヨーク・タイムズは、そこのところをこのように表現しています。

「ジョーズは70年代のアメリカのマルチカルチュラル(多様な文化)の波に乗った。離婚率、失業率が不気味に上がり、社会は1972年のウォーターゲート事件で政治不信のただ中にあった。」

前掲ニューヨーク・タイムズより、一部筆者が加筆訂正

そうなんです、社会不安というスパイスがあって、ジョーズは大ヒットしたのです。

https://x.gd/07M6K

ネーミング✕コンテンツ✕時代背景、これが社会にインパクトを与えるヒットの方程式ではないでしょうか。

野呂 一郎
清和大学教授


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