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ビッグデータでは不可能だった?映画「危険な情事」の大ヒット

エンディングを変えて超問題作に

「危険な情事」(原題:Fatal Attraction致命的な誘惑)、もうあれは30年以上も前、1987年のの映画ですけれども、個人的には大変思い入れのある映画なのですが、あれもフォーカス・グループの手によって劇的にプロットが変えられて大ヒットした作品です。

この場合のフォーカス・グループは実験的観客(テスト・オーディエンスtest audience)と言われる人たちで、完成したこの作品を見て「気に入らない」、と言ったのです。

この映画の主役は不倫をする男女で、男が「不倫くらい男の甲斐性さ」というかぁるい男を演じるマイケル・ダグラス、女は「浮気も本気も同じ」と、まっしぐらに男を追い詰めるグレン・クロースです。

テスト上映でフォーカス・グループが気に入らなかったのは、グレン・クロースが自殺して、それがマイケル・ダグラスのせいだ、というエンディングでした。

映画製作側はこの反応を受けて、プロットを大幅変更そしました。この封切り前の観客たちは、「もっとグレン・クロースを悪女にしないと面白くない」とアオリ、結果、エンディングは鬼女になったグレン・クロースが、ダグラスの家族にさんざん最低、最悪の嫌がらせをし、最後はダグラスの妻に拳銃で撃たれ殺されるストーリーに急遽変更されたのです。

この改編の結果、結果映画史上に残るような、家族への嫌がらせのクライマックスとしての、あの衝撃的な「生きているうさぎを鍋で煮る」というシーンが生まれたのです。

マイケル・ダグラスのいい加減な男っぷりと、グレン・クロースの一途をはるかに通り越した狂気が見事なコントラストで描かれ(野呂の感想)、クロースはその後も何を演じても、この時の鬼女のイメージが消えなかった、と言われています。

この危険な情事は興行収益3億ドル(300億円)の大ヒット、アカデミー賞6部門にノミネートされました。

マーケティングの意図が反映されにくい映画界

これ、フォーカス・グループにテスト上映を見せてなかったら、この大ヒットは生まれなかったことでしょう。もちろん映画製作会社も、当然マーケティングは考え、その線にそって制作をしたはずです。

しかし、やはり映画という芸術作品は監督の感性に支えられているところもあり、俳優陣も一筋縄では行かない人達が多いですから、マーケティング側の主導権がなかなか取れないのです。

黒澤明監督みたいな人がこの危険な情事を指揮していたら、絶対にテスト・オーディエンスなんかに見せるわけもないですよね。勝新太郎みたいな俳優がいたら、セリフだけじゃなく、脚本そのものも変えかねません。

しかし、そこは資本主義の国アメリカ。おそらくみんなが「収益第一」と考えているから、上映前の反応を掴んだ上で、必要なら変えちまえ、となったのでしょう。

トレンドは教えてくれるビッグデータ

仮に、この映画を、フォーカスグループではなく、ビッグデータだけを頼りに作ったらどうなったでしょうか。

当時のヒット映画ランキング、好まれていた映画のストーリー展開、人気俳優、セリフなどがビッグデータで出てきます。明日また詳しくお話しますが、ビッグデータはトレンドを掴むには悪くないんです。

80年代のあの頃は、アメリカ経済は日本に押され沈滞ムードでした。そんなときには静かな、ペーソスをベースにしたハッピーエンドな映画がいい、とビッグデータは示したのではないでしょうか。例えば同じ年にヒットしたニコラス・ケイジ主演「月の輝く夜に(つきのかがやくよるにMoonstruck)みたいな。

ぼくの個人的な好みを言っちゃってますが、いいんです。ビッグデータが教えてくれるのは、せいぜいこのくらいのいい加減さなんですよ。

フォーカス・グループの中核としてのモデレーター

もちろん、この危険な情事のフォーカス・グループにもツッコミどころはありますよ。例えば、「マーケティングのセオリーに則って然るべき属性の人達を集めたのかよ」、とか、「もっとたくさんのグループに見させないと統計的にダメだろう」とか。しかし、このフォーカス・グループは手間とカネがかかるため、理想は言えないんです。ポイントはモデレーターと呼ばれる、フォーカスグループの統括責任者の手さばきなんです。

このビッグデータの話、あと数回続きます。

今日もお読み頂きありがとうございました。
ではまた明日お目にかかりましょう。

野呂一郎

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