大統領選最大の敗者はカマラでも国民でもない。マーケティングだ。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:なぜ今回の大統領戦での事前予測と現実がかくも乖離したのか。それは人々が本音を話さなかったからだ。でもそれはなぜ?それを考えることこそが、ビジネスの最前線で戦うあなたの大きな財産になる。トップ画はhttps://x.gd/ea7SQ
なぜ、下馬評と現実が乖離したのか
USA Today、The Wall Street Journal等、アメリカのメディアは今回なぜ、事前の出口調査の結果と現実がこうも違ったのかについて、さまざまに論評しています。
各種分析では、史上最大の伯仲レースだと伝えらえていたのが、スイングステートと呼ばれる僅差の接戦州をトランプがすべて制し、いわゆる地滑り的勝利(landslide victory)を収めたのはなぜなのか。
一言で言えばそれはShy Trump Voters(シャイなトランプ支持者たち) です。
この言葉の意味は、文字通り、「自分のトランプ支持を友人たちに言うことができない、内気な人たち」という意味です。
様々な記事を読むと、こんな分析がされています
人々が本音を話さなかった理由
1.都市部では人間関係が壊れるから
都市部のペンシルベニア州などでは、リベラルな隣人にわざわざトランプ支持を伝えることをリスクと感じる人々が多くいた。
非難されたり、下手すると喧嘩になることだって考えられる。この現象は都市部にとどまらず、地方にも広がった。
2.認知的不協和音(cognitive dissonance )がおこったから
認知的不協和音とは、自分の価値観と二人の候補者の考え、人となりが一致しないことだ。
トランプもハリスも選びたくないが、どちらかを選ばなくてはならないジレンマ、である。
こういう心理状態のときに、「あなたはどっちを選ぶの?」などの質問には答えられない。
3.あえて自分の本心は内心にとどめておきたいから
シャイとは、「内心の葛藤(introspection)」を外に出したくない気持ちのこと。
どちらに投票するかは、根本的な自分が問われることであり、本来人に話すことではない。
おしゃべりなアメリカ人が、”らしくない内省”に追い込まれた、とみることもできる。
4.トランプ主義を公言するとバカにされるから
はっきり言って、今のアメリカではトランプ主義(Trumpism)は、響きのいい言葉ではない。
はっきり言えば蔑称(エピテットepithet)である。
トランプの熱烈な支持者でありながら、熱烈にオープンに支持を表明したがらない人々は、バカにされるのを恐れているのである。
5.単純に疲れているから
有権者は、どっちに投票すればいいか、悩み抜いてほとほと疲れている(exhausted)のだ。
シャイというよりは、疲弊しており、インタビューや質問に応じるエネルギーが残っていない。
どちらが勝ったかよりも重大なこと
結局事前調査に、まともに答えた人々は少なかった、ということです。
僕は、ここに大きな教訓があると思うのです。
賢明な読者の皆様は、もうお気づきになったかもしれません。
このアメリカの状況、人々の価値観やイデオロギーが共和党と民主党に分裂していること、自身の価値観とリーダーのそれが乖離している、内心の激しい葛藤がある、理想と現実のギャップに悩まされている、これはアメリカだけではない、ということです。
あらゆる市場がカオスのただ中にいる、のです。
アメリカ大統領戦の教訓は、マーケティングなどもはや役に立たない、ということです。
マーケティングとは分析のことです。
しかし、世界中が混乱して、人々は正気を保てないような時代に、マーケットリサーチなど意味があるでしょうか。
もっと言えば、データなど信じてはいけない、ということです。
なぜならば、あらゆるデータは人々の思考や行動の調査が示す数字に過ぎないからです。
今後、すべてのマーケターに必要な最大のスキルは、目に見えない時代の空気、そして表に出ない人々の気持ちを読むチカラではないでしょうか。
会社の人間関係から、グローバルな経済の動きまで、あらゆる現象にヒントがあると思います。
野呂 一郎
清和大学教授