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世界最小銀行の逆襲が始まった。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:シリコンバレー銀消滅のインパクト。本当に小は大に勝てないのか。世界最小銀行の挑戦。非・資本主義の逆襲が始まった。
シリコンバレー銀行を潰した米政府の罪
シリコンバレー銀行を潰したのは、まずかったですよね。いい銀行なのはこの間申し上げたとおりですが、
このことで、「小さい銀行は危ない」っていう、間違ったメッセージを世界にあまねく伝えちゃったからです。
アメリカ政府は考えが浅いよねぇ。
資本主義のバカなところは、効率だけ考えて、もっと大きな利益を失っていることです。
例えば、いま世界の金融業界の共通の心配は「too small to surviveあまりに図体が小さいと生き残れない」です。
そんなことないのに。
いいサービスを提供し、お客さんをいい気持にすれば、いくらでも差別化できるのに。
でも、SNSの拡散機能なんてのができちゃって、ちょっとでも銀行の不安をつぶやけば世界中にひろがちゃうし、ネット金融全盛でクリック一つで、預金が引き出せちゃう時代です。
シリコンバレー銀行は、これにやられちゃったんです。
だけれど、これは予想されたことです。
アメリカ政府は絶対に潰しちゃいけなかったんです、それは申し上げたように、「小さいから危ない」という意識を人々に植え付けてしまったからです。
小さい銀行の大きなチカラ
絶対にシリコンバレー銀行は守るべきだったのです。
でも資本主義はカネがすべてだから、少しでも損をしそうになると人々は、小さな銀行から逃げ出しました。
その結果どうなるか。
大きな銀行しか残らなくなる。そうすると、こういう不便なことが起きます。
1.銀行サービスが悪くなる
大きな銀行はえてしてサービスが悪いものです。手数料も値上げ、振込料も値上げ、住宅ローンも上がり、預金しても利息はもっとひどくなるだけ。
2.古きよき社会がなくなる
アメリカにはローカル・バンキングという地域文化があったのです。地域のために、地域の金融機関は便利さやサービスを競い、地域社会に貢献してきました。
でも、シリコンバレー銀行を潰したってことは、米政府が経済原理だけで、金融行政をやっていくことにシフトしたことを意味します。
顧客のための便利さ、快適さ、銀行と人々の連帯感、一体感、そういうものが失われる、ってことです。
3.信用というものが地上からなくなる
大げさな、と言われるかもしれませんが、銀行というものは人々の純粋な信頼で存在しているものです。
シリコンバレー銀行みたいないい銀行が潰れたら、じゃあ何を信じたらいいのか、と、なります。
アメリカ政府は、アメリカ人の精神的なレガシーをも、カネのために、資本主義のために潰してしまったのです。
最後の絶滅危惧種が、いた。
でも、僕らには一縷の希望がまだあったんです。
それは、インディアナ州にあるケントランド・セィビングス(Kentland Savings)という銀行です。
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地域の人口は1641人しかいません。預金量はたったの300万ドル(約4億485万)で、ATMもないし、ホームページもありません。お客さんへのサービスは住宅ローンと、預金口座を開くことだけです。
ではなぜ生き残っているのか。
俺流で以下まとめてみました。
1.手数料がないから
ATMがないことは言いましたが、預金引き出しの手数料がタダ、です。振り込み手数料もないんです。もちろんホームページもありません。
2.心意気
4代続くたった一人の支店長(社長)は、なぜ手数料を取らないかとの問いに「それは我々の信じていることに反するから」と潔い答え。
3.自動化を拒否する精神
支店長いわく「俺らのプライドは、お客さんがオレを呼んでくれると、ハイって出ていけることなんだ。デジタル化?やんねーよそんなの」。
4.地域銀行というレガシー
支店長は、経営学的なことも言ってます。
「我々の競争優位は『地域のよさがここにある』ってことなんだ」。
銀行と地域住民がこうしたつき合いをするためには、コストがかかり、それを双方が負担している、ということなのです。
ある意味、この世界最小銀行はバカですよ。
だって、商品の住宅ローンだって40件くらい未払いだし、人口は増えず、お年寄りはどんどんなくなってお客さんは減る一方だし、若者は増えてもこんな古きよき人間関係なんて興味ないし、ビジネスはよくなる可能性なんて、まったくないからです。
預金は保険が入ってますから安心ですけれど、シリコンバレーショックは社会に恐怖を与えてしまいましたからね。
マーケティングの逆説
よく最近テレビの爆盛食堂特集で、こんなのがありますよね。
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盛り放題、食べ放題で1000円きっかり、どうやって儲けを出すんだ、みたいな食堂があります。
でもおばちゃんがインタビューで「カネじゃないのよ、いっぱい食べて美味しそうな顔を見るのが一番幸せなの」って言う。
インタビューの最中に、近くの農家のおじさんが来て、「とれたての野菜だよ持ってって」と材料を置いていきます。かと思えば、お客さんがお皿を洗ったり、注文を取ったりしています。
ケントランド・セィビングス銀行は、言ってみればこんな「爆盛食堂」です。
この銀行も住宅ローンをお客さんが自分で申し込んで、めんどくさい書類も作成してしまうそうです。
地域がみんなでその存在意義を感じ、みんなで助け合ってこの銀行を生かしているのです。
資本主義は、人間の善意や目に見えないメリットを亡きものにしようとしています。
効率だけ追いかけて、大事なものを失っているのです。
もう効率の時代は終わりです。
やりがいだとか、心意気だとか、精神性だとか、地域貢献の喜びだとか、地域と住民の連携だとか、これからはいわば「非・資本主義的」な発想に基づくビジネスが生まれるんじゃないか、そういうロマンを僕は支持します。
ずいぶん長くなってしまいました。
お読み頂き、感謝です。
野呂 一郎
清和大学教授