議論する能力をつけるK-1石井館長方式とはなにか
信じる者は救われる
さあ、議論をする能力だ。
でもキミたちのこんな声が聞こえてくるなあ。
「フン、偉そうなこと言って、どうせお前は具体的な方法論なんか持ってないんだろう。弱者の味方を気取ってるけど、しょせんは教師、オレたち、わたしたちの敵。そんな口先だけのセンセーにあきあきしてるんだよ」。
「なに?議論ができる能力をつける方法でもあったら言ってみな」。
よく言ってくれた(笑)。
実はあるんだよ。この連載は永久に続くはずなんだけれど、これを言ってしまえば終わりになっちゃうんで、これは最後の最後に持ってきたかったんだけれど、みんなの「ん??」な視線を少し感じるので、思い切って結論をいいたい。ちょっとその前に一つだけもったいぶらせてくれ(笑)
K-1知ってる?
この連載ってさ、ジェネレーションギャップをうめるのがまず大変なんだよね。子供とおじいさんみたいなもんと言うか、実際そうだから。
第一話のカイジくらいは、僕も知っているから良かったけれど。
ところで、K-1って知ってる?魔裟斗とかキッドとか。あ、もう引退したりなくなったりしてるから知らないか。
でもこの前、那須川天心とやった皇治(こうじ)は知ってるよね、K-1をやめてライジンっていう格闘技の興行に参加した選手だよ。
K-1ってまだやっていたんだ、それが古いK-1ファンの感想なんだが、そう、今また結構K-1はブームなんだ。
そのK-1の創始者が石井和義氏だ。カラテの正道会館の創始者でもあり、K-1プロモーターとして、ヘビー級のキックボクシングとも言えるK-1という興行を日本の格闘技のメジャーにまで押し上げた人物だ。
石井館長のカラテ革命
しかし、脱税疑惑で逮捕され、今は第一線を退いている。彼は格闘技に革命をもたらしたと言われているんだが、それは彼が正道会館をやっているときにすでに始まっていた。
当時はフルコンタクト空手というカテゴリーでは、老舗ともいえる極真カラテが唯一無二の存在で、他流派が参加する全国大会でも圧倒的な強さを見せていた。そこに食い込んだのが、正道会館だ。
流石に極真カラテの全国で優勝というわけにはいかなかったが、新興勢力でありながら様々な選手権大会で常に上位を独占していたのだ。その秘密が、「基礎をすっ飛ばす」という訓練方法だった。
実戦こそ真に効率的な練習
カラテには伝統派とフルコンと言われる、直接相手に打撃を当ててKOして勝負を決める派がある。石井館長(カラテのえらいひとを館長とよぶならわし)はフルコン派なのだが、選手たちに教えたのは、いきなり戦うということだった。
パンチとかキックの基本はもちろんやるんだけれど、それがほぼできたらいきなり実戦に放り込むんだ。
普通カラテはその前に攻防の基礎である約束組手、つまり相手がこうきたらこう返す、下段を蹴ってきたらそれを払って上段回し蹴りにつなげるとか、バリエーションの練習をしてはじめて組手に臨む。またそうしないと怪我をする。
しかし、石井館長はいきなり実戦をやらせるんだ。
石井さんいわく「実戦と練習は違う。実戦の中でこそ、このパターンは使えるとか使えないとかがわかるんで、実戦こそが真の練習である」。
これは練習時間の短縮そして、選手が短期間で強くなることにつながったのだ。かくして石井館長率いる正道会館は「トーナメント荒らし」といわれ、フルコン業界の台風の目になった。まあこのプロセスを詳しくお話すると長くなっちゃうんでこのくらいにするね。
ケース・スタディとはなんだ
僕も議論のスキル獲得の練習は石井館長方式を取るよ。
具体的に言うと「ケース・スタディ」というメソッドだ。
これは前回お話した、僕が通ったアメリカのビジネススクールで主流の勉強方法なんだよ。
ケースというのは企業の物語、これは企業にこういうピンチがあって、チャンスがあって、発展して、落ち込んでそのときに社長は社員はどうしたこうした、といういわば企業のリアルストーリーなんだ。
それを題材にディスカッション(議論)しながら、ビジネスについて考えを深めていくというのが、ケース・スタディなんだ。
学生は3人から5人位のグループを作り、ケースの中で気に入ったトピックを選び、それについてなにかのテーマを決めて、話し合いながら考えをまとめ、最後にグループで発表する。
リーダーや書記など、ケース・スタディというひとつのプロジェクトの中で、ひとりひとりの役割分担もする。
先生は遠くで眺めているだけだ。
いきなり英語で議論させるよ。できるって
これを高校生の君たちにやらせよう、というわけだ。
それも議論の仕方の基礎なんて教えないで、約束組手はおろか、基礎すら教えないでまずやらせる。檻に放り込んじゃう。
え、おまえの連載のテーマはグローバル・リーダー養成だろ?英語でやらせるの?
ビンゴだ。英語でやってもらう。
大丈夫だよ、議論も英語も基礎なんていらないよ、まずはやってみる。やればわかるさ。
時間が来たみたいだ、これ以上はお互い集中力が続かないしね。明日また詳しく話すよ。
今日も来てくれてありがとうね。
野呂一郎