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現実味を帯びる「半導体で中国が台湾を侵攻」のシナリオ


The Wall Street Journal2021年7月27日号は、半導体チップ不足でアメリカ経済が先行き不透明なことを心配しています。そして、それは中国vs台湾の、抜き差しならない近未来に直結すると警告を鳴らしています。

これは日本も他人事ではありません。

記事の概要と解説をお届けします。

半導体生産で中国に遅れを取る米国

ケイタイから、ラップトップ、車、スマート家電、あなたのかかりつけの近くの病院のあらゆる機材、そういった全ての重大な部品に使われている。

ボストンコンサルティンググループの調べによれば、グローバルな規模でアメリカは半導体の生産を1990年の37%から、現在12%減らしている。

アメリカの半導体のポジション後退し、一方その分中国が前進している。 さらに悪いことには次の10年には、さらに新しいチップの製造の約40%が中国においてなされ、結果中国が世界で最も大きな半導体の製造スポットになる可能性が出てきた。

すでに半導体の不足が車の生産を抑制し、物価を押し上げている。 チップ製造の王者インテル(Intel Corporation) のChief executive はウォールストリートジャーナルに対してこう言っている。

「グローバルな半導体の不足は2023年も続く」。

半導体が中国vs台湾戦争の引き金を引くシナリオ

経済的な脆弱性と地政学的なリスクの両方が、言われているよりもより深刻である。

こんなシナリオはどうだろうか。台湾にTaiwan Semiconductor Manufacturing Corporation(台湾半導体マニュファクチャリングコーポレーション)という会社がある。世界でもっとも世最も洗練されたチップはすべてそこで作られている。

重要な半導体会社であり、ランキングも世界で11番目だ。もしこの会社が中国のものになったら?

習近平は、「台湾と再び合体する」などとしつこいほど声明を出している。

アメリカ海軍のトップも、2027年までに中国が台湾に戦争を仕掛ける可能性を警告している。他国の軍事リーダーも中国の本気を警戒している。もし、中国が台湾を併合したら、それは中国に半導体ビジネスにおける気の遠くなるような有利さを与えることになる。

今や半導体は、戦略的品目(strategic commodity)なのである。

半導体をめぐる米中の主導権争いは、おぞましいシナリオを示唆している。

それは半導体欲しさに、中国が台湾併合に突き進むインセンティブ(動機づけ)を与えているともいえるし、アメリカにはなんとしてもそれを止める、インセンティブを与えているかも知れないのだ。

次のことを言っても言い過ぎではないだろう。

「半導体が国際的な緊張と混乱を引き起こしている。そしてその最悪のシナリオは、戦争勃発である」。

始まったアメリカの半導体増産計画

アメリカも手をこまねいているわけではない。上下院の政治家たちは国内の半導体生産を増やすための法案を提出した。チップスアクト(CHIPS ACT )と呼ばれる半導体製造と研究に資金を提供し、半導体製造者に税控除等の製造のインセンティブを与える内容だ。先月法案は526億ドルの法案が通った。

複雑な半導体ビジネス
半導体ビジネスは複雑である。何かをやっても、すぐに変化は現れたりしない。多くの前工程のチップ生産はアメリカで行われているが、最終工程は海外の工場に任されている。チップの欠乏に輪をかけたのはトランプ大統領が、そのチップの輸入に関税をかけたからだ。

サプライチェーンを海外に頼りすぎなアメリカ

長期的な視野に立った解決方法は、アメリカが国内チップ製造を増やす方向にかじを切ることだ。

しかし、工場建設は時間がかかるし、訓練されたスタッフを配置するのも同じだ。アメリカのライバル国もみな、かなりの補助金を半導体製造に出している。

このことがアメリカを、半導体ビジネスにおいて脆弱な国にしている。
パンデミックはアメリカが、カギを握る製品の数々に対しての海外のサプライチェーンに 依存してることをはっきりさせてしまった。皮肉なことに、政府高官を目覚めさせた効果は十分にある。

製造業をおろそかにしたツケがまわっているアメリカ

国家戦略的に、半導体が要になると読めていたはずです。しかし、製造業は全て中国に行ってしまっています。

やはり現場でこそ、製造に関する知恵やアイディアが出てくるのです。

労働力の安い中国に製造はみんな任せればいいと言うのが、アメリカ流の経済合理性です。しかし、その単細胞的考えのツケが回ってきているのでは。

国家戦略的に、アメリカは半導体はじめ製造業の30%位を、アメリカに戻すべきです。今回のパンデミックでサプライチェーンを海外に頼り過ぎの弊害は身にしみたはずです。そして、申し上げたように製造業は体全体を使って、何かを生み出す場所です。当然、知恵もアイディアも出てくるのです。

日本の強みはそこにあります。アメリカの製造業は主に車産業ですが、そこは景気が悪くなるとレイオフ(一時帰休)ばかりで、安定しないことこの上ありません。こういうところもなんとかしないと、アメリカ強国はもう帰ってこないのでは。

ひるがえって日本の製造業は国際マーケティングが弱く、収益性が低いです。サムソンに負けてしまっています。シャープのように身売りしないためには、ここを強化する必要があります。

国家戦略のミス

なんでアメリカは半導体が国家の命運を握ることくらいわかっていたはずなのに、いまに至るまで何の手も打たなかったんでしょうね。まあ日本もそうなんですが。

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そしてやはり、トランプさんが半導体輸入に関税をかけたのは、国家戦略的に正しくなかったというしかありません。これでチップの欠乏に歯止めがかからなくなってしまった。やはり、一人の大統領の感情的な意思決定を合法とする今の大統領関連法はダメだと思うんですよ。これは世界にとってよくなかった意思決定ではないでしょうか。これで半導体で世界を牛耳ろうと、台湾侵攻のシナリオに拍車がかかるとなると・・。

日本も同盟国なんだから、こういうときにこそ助言をしないといけないのに。

さて、今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。

それではまた明日お目にかかりましょう。

                           野呂 一郎


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