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プロレス&マーケティング第49戦 大仁田厚とKissの共通点「引退詐欺」の考察

この記事を読んで、あなたが得られるかも知れない利益:涙のカリスマ大仁田といえば、17回も引退を撤退したことであまりに有名。しかし、海外アーティストも案外やってるという事実。「引退詐欺」はマーケティングたりうるのか、一緒に考えましょう。

Kissはもはやオオカミ少年

今月、マジソン・スクエア・ガーデンで、あの伝説のバンドKissの最終公演が行われました。

https://qr1.jp/gziQZW

2019年にEnd of the Road farewell tour (サヨナラ解散ツアー)と銘打って始まった、このコンサートツアーもめでたく最終日を迎えたというわけです。

ベースのジーン・シモンズも最近ロスアンゼルスのラジオ局でのインタビューで、「ああ、もうキッスのステージはこれで終わりさ」と言っていました。

https://qr1.jp/7J0hCS

しかし、ファンは誰も信じてません(笑)

なぜならば、2000年にもKissは解散をぶち上げていたからです。

デビット・ボウイも嘘つき

今年はといえば、ディビッド・ボゥイの50周年ってご存知でした?

https://qr1.jp/bfG2R8

でも、26歳で初めて引退を撤回してからの(笑)50周年なんですって!

フィル・コリンズもそうです。

2004年にサヨナラツアーを始めて、2017年までそれが続いたんです。

終わりかと思いきや、そのあとツアー名を「まだオレは死んでないツアーNot Dead yet tour」に変えて、ちゃっかり公演を続けています。

ソロボーカル界の大御所、フランク・シナトラでさえ、1971年に引退して、2年もしないうちに戻ってきています。

Kissのことは最近だったので、ニューヨーク・タイムズがさっそく記事にしていましたが、ロックの大御所エアロスミス、チープトリックもおんなじようなことをやっているんです。

「引退詐欺」はマーケティングなのか

大仁田厚は、海外アーティストたちのこうした行状を知っていたのです、おそらく(笑)

でも、「奴らはちょっと変わってるんだよThey just seem a  little weird 」の著作で知られる音楽ジャーナリスト・ダグ・ブロッドさん(Doug Brod)はこういいます。

「いいじゃない。もし君が彼らの純粋なファンならば、いつまでもずっと奴らを見たいと思うだろ?」

ニューヨーク・タイムズWeekly2023年12月17日号「The end of of the road for Kiss, or really a retirement ruseキッスのサヨナラツアー?でも引退詐欺でしょ」より

うん、うん、なるほど、と僕も納得しちゃいましたよ。

でも、「やっぱり、ruse(策略)でしょ」、つまり詐欺的マーケティングであってけしからん、という声もあるわけです。

ニューヨーク・タイムズは「音楽業界の収益をひねり出すためのトリックindustry's income-generating trickery」と半ば容認するようなことを言ってますね。

さて、この記事はプロレスファン向けのものですので、ちょっと話を大仁田厚に戻しましょう。

考えてみるとエンタテイメント?だった

よく言われますよね、大仁田は詐欺師だって。

実際、引退を撤回したときは、プロレスファンは怒ってましたよねぇ。

引退試合は確かハヤブサとの電流爆破デスマッチだったと記憶しているけれど(違うかも。何度も引退しすぎで!)、「ああ、これで大仁田も引退しちゃうんだぁ」というシンパシーを川崎球場の大観衆とともに分かち合えた感動は忘れられません。

大仁田vsハヤブサ (閲覧注意!)

でも、引退撤回なんて、ファンの気持を何だと思っているんだ!、そう思いましたよ。

でも、その後16たびの引退宣言のたびに涙し、復帰しては怒り、また引退しては悲しみ、でもそのたびに心を揺さぶられてきて、しまいには大仁田の引退劇場っていうパフォーマンスとして、受け入れてしまった僕がいたのです。

これって、エンタテイメント?大仁田の創った新しいプロレスの魅力?今ではそんなふうに思うんです。

汚れ役という役どころ

大仁田は、ベビーフェイス、ヒール(悪役)という、従来のプロレスの二元論を超えたのかもしれません。

それは「汚れ役」です。

ののしられ、ブーイングを浴びるけれど、カリスマがあるという不思議な、善玉とか悪玉を超えた存在。

それは自らのキャラクターを、プロレスに投影したからに他なりません。

プロレスに対しての純粋な愛があるから、彼の嘘つきも、いい加減さも、デタラメも、許されたのです。

引退撤回劇の最高傑作は長州力

引退撤回するレスラーはあとをたちませんが、うまくやってのけたのは大仁田厚だけではありません。

長州力です。

長州力は、汚れ役なんてできません。

だから、大仁田式の「オレは嘘つきじゃー」なんていう引退撤回はできません。

長州力にふさわしい、引退撤回理由が必要でした。

そのお膳立てを買ってでたのが、「汚れ役」大仁田厚だったのです。

長州力の引退撤回をしつこく迫り、電流爆破デスマッチに誘い込もうとする「邪道」大仁田厚という絵を作ったのです。

もちろんこれは、ガチなのかアングル(商業的に作られた演出)なのか、わかりませんが、長州力vs大仁田厚の電流爆破デスマッチは横浜アリーナで実現、チケットは発売直後にソールドアウト、当時新しかったペイ・パー・ビューでも過去最大の売上を叩き出しました。

僕もチケットを買おうと、チケット販売開始直後から予約電話にしがみついたのですが、結局とれなかった苦い思い出があります。

この大仁田vs長州力の禁断の対決が実現した瞬間、長州力の引退撤回にまつわるあらゆるマイナスは雲散霧消し、長州力はリブランディング(ブランド再生)に成功したのでした。

以上、引退撤回のマーケティングについての一考察を申し上げました。

野呂一郎
清和大学教授



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