クリスピー・クリーム・ドーナツのパリ攻略切り札は「甘くないイチゴシロップ」
この記事を読んであなたが得られるかも知れない利益:フランス・パリで新規開店した、アメリカ・ドーナツ界の雄・クリスピー・クリーム。行列が途絶えないのには理由があった。それはアメリカ企業の宿痾ともいえる、思い込みを捨てたことにある。
クリスピー・クリームはどこへ行った
もう10年もたつでしょうか。
クリスピー・クリーム・ドーナツの新宿店がオープンし、行列で買うのに2時間かかった、あのブームから。
日本のスイーツ界に突如として現れ、ドーナツブームいやクリスピー・クリーム・ドーナツブームを巻き起こし、そして消えていったクリスピー・クリーム・ドーナツ。(いや、消えてはないです、新宿店、赤坂見附店などが撤退)
僕はクリスピー・クリームの成功が一時的で、日本に根づかなかったのは、いわゆるエスノセントリズム(自分たちの文化が最も優れているという考え)にあると考えています。
大学の講義では、こんなファイルを作ったことがあります。
ようするにアメリカ企業にありがちなことなんですが、自分たちの作ったものが一番すぐれているから、世界はそれを受け入れるのは当然だ、という考えですね。
しかしその過剰な自負があったからこそ、アメリカ製品(サービス)は世界を席巻したことは間違いないでしょう。
コカコーラしかり、マクドナルド、スタバしかり。
エスノセントリズムとはある意味、自分たちが一番だから他者の意見や考えなど受け入れないという頑迷さ、でもあります。
クリスピー・クリーム・ドーナツは日本人スタッフの「もうちょっとくどくないドーナツのほうがよくね?毎日食べられるような」という、あったはずの進言は受け入れなかったのです。(たぶん)
パリのクリスピー・クリームも同じ運命か
そのクリスピー・クリーム・ドーナツが昨年12月6日、パリで一号店を開き、そのグランドオープニングでは500人の行列ができ、パリっ子はテイクアウトしたり、カフェスタイルの店内で大いにアメリカンテイストを味わったのでした。
読者の皆様は、こうおっしゃるでしょう。
「ははあ、ノロのやつ、エスノセントリズムどうのこうので、クリスピー・クリーム・ドーナツは砂糖菓子のようなアメリカンテイストのドーナツをやめないから、日本と同じ運命にあうだろう、と言いたいんだな」。
確かに。
おっしゃるとおり、ちょっと昔なら、学生たちに「エスノセントリズムに侵されたアメリカのドーナツ会社は、またパリでも同じ失敗をやるさ」と教えていたでしょう。
でも、今は違います。
文化的多様性に目覚めた?アメリカ企業
ここのところ、欧米企業は白か黒で、中間色なんてないんだよ、それがかられの文化だから、などと言っている僕ですが、最近は国際化の影響からか、変化が見られます。
クリスピー・クリーム・ドーナツのパリ進出を報じたニューヨーク・タイムズWeekly2,023年月31日号は、「12月6日にオープンしたパリのクリスピー・クリーム・ドーナツは、アメリカンテイストを捨てた」、と分析します。
グレイズ(glaze)と呼ばれるシュガー・コーティングがクリスピー・クリーム・ドーナツの一大特長なのですが、これを甘さを抑えたイチゴシロップのコーティングに一部変えるなどして、フランス文化に迎合する試みをしているというのです。
さては日本での痛い経験が生きて、悪しきエスノセントリズムを引っ込めたのでしょうか。
文化は変わる
前出のニューヨーク・タイムズは、こう言っています。
「確かにフランス人はアメリカンテイストが好きなところはある。しかし、基本この国はミシュランガイドの評価を誰よりも受け入れる国さ。10年前なら、クリスピー・クリーム・ドーナツなんて門前払いだった。しかしフランスも変わったんだ。クリスピー・クリーム・ドーナツは、パリで成功するよ」。
世界は文化の相尅が原因で、紛争、戦争が絶えません。
しかし、一方で自国にない文化こそが、相互理解を促進し、人々の幸福感を高めることもあるのです。
今回ニューヨーク・タイムズを読んで、気がついたのは、僕が文化について最も重要な真理を忘れていたことです。
それは、「文化は変わる」という真実です。
フランスも、アメリカ文化を受け入れる国になったということです。
考えてみれば、一昔前は欧米人はスシに拒否反応を示す人が多かった。
しかし、今ではスシは彼らが最も好きな日本料理に昇格しています。
日本文化に追い風が吹いている今こそ、企業はそれに乗っかるべきです。
野呂 一郎
清和大学教授
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