資本主義が打ち砕いたツイッターの言論の自由という幻想。
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:ニューヨーク・タイムズが、ツイッターを買収したマスクさんの持論である”言論の自由”を「おためごかし」と大批判。言論の自由たるデジタル落書き帳がツイッターならば、スキ、リツィート、モデレーション(善悪の判断』は要らない?そもそも資本主義には、ツイッターの正義など笑うだけなのか。
ニューヨーク・タイムズvsイーロン・マスク
ニューヨーク・タイムズがイーロン・マスクに「怒り新党」です。
2023年Weekly9月17日号の社説欄で、Where free speech means Musk's speech (ツイッターの言論の自由は、イーロン・マスクの言論の自由に過ぎない)とこき下ろしてるんですよ。
マスクさんは、最近ADL(Anti-Defamation League中傷反対同盟)という反ユダヤ主義(antisemitism)の団体を糾弾するキャンペーンを、ツイッター上で展開したんです。
#Ban The ADL (ADLをバンしちゃえ!)とハッシュタグをうち、ADLをブーイングするツィートにスキをさせるキャンペーンをぶっぱなしたのです。
まあこの手の扇動をやるのは、マスクさんは初めてじゃないし、いまさらそんなことをあげつらっても仕方ありませんが、ニューヨーク・タイムズは「もう我慢できない」とマツコばりの怒り新党、状態なのです。
言論の自由とは何か
この記事はDavid Frenchさんという方が書いたのですが、ニューヨーク・タイムズの論説欄に載っているので、ニューヨーク・タイムズの主張であることは間違いありません。
ニューヨーク・タイムズの主張はまさに記事の見出しにあるように、「マスクは言論の自由を履き違えている」ということです。
マスクさんの口癖はこうです。
「言論の自由こそ、機能する民主主義の根幹だ(free speech is the bedrock of a functioning democracy)」。
しかし、ニューヨーク・タイムズは、「彼にとって言論の自由とは、マスクが勝手に決めた独善的な言論の自由にすぎない」と一刀両断します。
普通に考えても、いくらADLが極右思想とはいえ、ツイッターの創始者がある団体の考えを自分の影響力を使って潰そうとするのは、おかしくね、ではないでしょうか。
ニューヨーク・タイムズは、はっきりこういいます。
「マスクは言論の自由のプラットフォームを作ったなどと言っているけれど、作ったのは『マスクの言論の自由のプラットフォーム』に過ぎない。もっと正確にいえば、『マスクの権力としてのプラットフォーム』なのだ」。
そもそも、スキとかリツィートは危険
マスク氏がツイッターを買い上げる前から、ツイッターといえば、スキとリツィート(現Xではリポスト)でした。
しかし、これは言論というもの、ひいては言論の自由を歪める、へんてこなしくみだと思うんですよ。
誰かが書いた意見について、スキがつきます。
100,千、そして万、1億になればその考えは嫌でも価値を持ち、世の中を変える力になってしまう、いいも悪いも。
リツィートも同じ、賛同を拡大することによって、いいねと同じいやそれ以上の効果を持ち、何気ない一言が政治的な武器に変容する。
スキとか、リツィートって、そもそも「ノリ」でもあるし、自分の利益につがれば賛同しなくてもそれをやるし、純粋に見えるけれど、すぐに資本主義の垢にまみれて、誰かのカネもうけの道具と化して、人を傷つけちゃったりするんですよ。
モデレーション(記事の適、不適を判断する)も、一見公正、公平に見えて、結局誰かの主観がその当否の意思決定に影響するんだから、民主主義的とはいえないはずで、これもおためごかし、です。
もし、ツイッター(現X)が自由な言論が許される、デジタルの形を取った民主主義の発露だというのならば、スキもリツィートもモデレーションもなくすべきではないでしょうか。
資本主義が民主主義の邪魔をする
結局、民主主義的なしくみを運営しようとしても、それが資本主義の運営であれば、どうしてもカネという悪と矛盾に紛れることになります。
マスクさんも知らないうちに、「月額10ドルのサブスクで、あなたの記事を目立たせます」なあんてやってるんです。
カネをたくさん出すやつの意見を、価値あるものにする。
民主主義の仮面を被ったプラットフォームとやらの、資本主義的な結論は、そんなとこでしょう。
そもそも、カネを生むことは資本主義では正義なのです。
マスクさんも元々はいいひとで、言論の自由を真面目に正面から考えており、ツイッターでそれを実現しようとしたんですが、どうしても資本主義の寵児たる自分の本性=金儲けというDNA、が自分でも知らないうちにでてしまったんです。
って、ちょっと皮肉を言ってみました。
でも予言しますよ、これからも民主主義を装ったツイッターもどきはたくさん出てくるけれど、いまよりもっとひどいよ、と。
金儲けしようとすれば、カネを出してくれる人をえこひいきしなければ、商売は成り立たないからです。
僕もこの記事を読んで、結構ツイッターに洗脳されてたのかなあ、と思った次第です。
野呂 一郎
清和大学教授