経済理論で読み解く、大谷の本塁打が増えた理由
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:いわゆる米球界にはびこる「マネーボール」の弊害。経済学のフォワード・ルッキング理論で読み解く大谷翔平の本塁打増産。統計は便利だが、危険という話。ウェブマーケティングに頼る企業の危険性。
マネーボールの危険性
今日の日経の社説に、映画マネーボールのことが書いてありました。
これは資本が大きい球団がカネに物を言わせて選手補強をしたり、データで選手の価値を値踏みしたり、選手の方はカウントや相手ピッチャーに関するデータで、打法を変えるべきだという、いわば「野球はデータがすべて」という主張がベースになった物語です。
原著は、もう少しアカデミックで、実例と学問をもとに書かれており、これを脚本にしたのが、映画です。
僕は、このマネーボールはいわば統計学を絶対視する考え方であり、それはそれで有用だけれど、野球をつまらなくするものだと危惧するものです。
いや、もっと言うと間違った方向性じゃないか、と。
それを証明してるのが、大谷翔平、だと言いたいんです。
今日はこのマネーボールを、経済学のフォワード・ルッキングという考え方を引いて説明しましょう。
阪神・岡田監督激怒事件
マネーボールは、日本でいうと、これはいわゆる野村ID野球です。
野村IDとはImportant Data という日本語英語から来ており、文字通りデータ重視の野球です。
この間、阪神の岡田監督が怒り狂った件。
走者2,3塁で、センターにフライが上がって3塁ランナータッチアップで決勝点と思われましたが、2塁にいた大山が同じくタッチアップで3塁を陥れようとして、タッチアウト。決勝点は認められませんでした。
これは単に走塁ミストも言えますし、こうした条件のもとでの戦術ができてなかった、いわゆるデータ野球ができていなかったとも言えるでしょう。
元ヤクルトの野村監督は、カウントごと、走者の埋まり具合、ピッチャーごとにチームバッティングという錦の御旗のもと、どう打つべきか、何を狙うべきかを指南してきました。
マネーボールは、もう少し学問的ですが、データを重視するという考えの基本は同じです。
経済学を野球に応用する
経済学では、今でもこういう思想があります。
「人間は過去に起きた出来事に基づいて、未来を予測する」。
マネーボールと野村IDは、まさにこの考え方です。
しかし、ある経済理論はこれに真っ向から反対します。
僕の経済学の愛読書The rough guide to Economics (Andrew Mell & Oliver Walker著 Rough Guide Ltd 発行2014年)は、学術書には珍しく、ベースボールの例を上げて、こう説明しています。
例によって野呂の超訳でいきましょう。
この考え方を、この教科書はフォワード・ルッキング(foward looking 進んだモノの見方)として、過去のデータで未来を予測するやり方より、「より洗練された考え方」としています。
大谷の本塁打が飛躍的に増えたワケ
それはね、想像するに「マネーボール」が米球界を支配しすぎちゃっている悪影響ですよ。
サッカーもそうだけれど、今は何でもかんでも全部データです。
スカウトが見るのはあらゆる状況での、選手の成績、対応力を数字にしたデータです。
バッターも、ピッチャーも、野村ID真っ青のデータ信奉者になって、対戦前にタブレットとにらめっこしたり、データ専門家がチームにいて、いちいちアドバイスも欠かしません。
しかし、大事なのは、過去のデータじゃなくて、さっき書いたように、自分で相手のその一球を見定めることです。
即時の対応力がすべてなのに、それを忘れて過去のデータにこだわっています。
大谷選手は、逆に、データじゃなく、対応力を磨いてきました。
自分で考えながら、自分というものを深く見つめながら。
その差が、今シーズン出たのです。
大谷シフトという固定観念
あれ、大谷のバッティングについて、誰かが話しているようです。ちょっと聞いてみましょう。
「えーっ、過去のデータを信じろって言うの。今年はさ、大谷翔平、レフトへのホームランが多いじゃない。あれって去年までの大谷シフトの全部逆をついてるよね。
大谷が打率を上げているのは、大谷シフトが禁止になったのもあるけれど、敵の野手が大谷の去年までのデータに、縛られて動きが取れてないってのもあるんじゃないの。
だから、バカみたいなことなんだよ、過去のデータに縛られて、相手の次の行動を予測するなんてさ。
統計的?それって100%じゃないだろ?それじゃ負けちゃうよ。
戦いの本質ってのは、100発打って最後の1つが当たれば勝ち、そうだろ?
ウェブマーケティングの危険性
結局、あらゆる企業が頼っている、ウェブマーケティングも同じなんです。
結局あれも統計にすぎない。
それも安易なアルゴリズムに頼っている。
統計的に、過去のあなたの購買履歴を盗んで、それに関連する商品どうですかっていう、実に単純な思考です。
消費者のほうが、アルゴリズムより進んでいるのに、ウェブマーケティングを頼りにしているから、どんどん負けている。
まるで、大谷にカモにされる今シーズンの、ア・リーグの投手たちのよう。
企業にいいたい、いい加減ウェブマーケティングなんてやめて、自分で消費者の打球のスピード、軌道を判断し、重力の法則をおさらいして、備えろとね。
これからも酷暑が続くようです、読者の皆様ご自愛を。
野呂 一郎
清和大学教授