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テクノロジーの進化は声優の仕事を奪うのか?
この記事を読んで高校生のキミが得られるかもしれない利益:生成AIが音声のプロフェッショナルの仕事を奪いつつある現実。日本の声優を含め、声のプロにとってこれは対岸の火事なのだろうか。トップ画はhttps://qr1.jp/k9n0lb
NHKのニュースに変化が
昨日も言ったけれども、AIの進歩が人類に突きつけたのは、テクノロジーの発展は止まらないということ、そしてテクノロジーは既存の仕事を奪うという真理だ。
僕は最近NHKのニュースに感心しているんだよ。
定時ニュースの終わりに、最近NHKは「最後にAI音声で、その他のニュースをまとめます」ってやるんだよ。
そのAI音声ってやつが、人間顔負け、なんだ。何ら合成の匂いすらしなくて自然なんだ。
これ、完全に人間の仕事を奪っているね。
NHKはアナウンサーの募集枠を減らしているはずだ。
米オーディオブック業界に激震
ニューヨーク・タイムズも、同じことを指摘している。
僕が居住していた30年前もそうだったんだけれど、アメリカってオーディオ・ブックつまり本の内容を耳で聞けるように録音した商品が一定の人気を集めているんだ。
それはおそらく車社会だからだろう。
どんな人でも車に頼らないと、生活できないのは、土地が広いからだ。
近くのコンビニに行くんでも、歩いて20分くらいかかるのが当たり前だ。
そして、通勤通学もすべて車だから、いきおい車中の時間を有効利用するということになる。
オーディオブックは、日本よりも遥かに大きな市場だ。
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生成AIが、そのオーディオブックに原本の言葉を吹き込むプロフェッショナルの仕事を奪っているのだ。
先日、ハリウッドのストライキのことを取り上げ、亡くなったトップガンの出演者のナレーションをAIでやって問題になった、と話したけれど、肉声を使う仕事はこれからますますAIに盗られるおそれがある。
声優は絶滅危惧種なのか
声を使う仕事が危ないなどと申し上げたが、逆、だとも思うのだ。
さっき言ったNHKのAIニュースは、特徴がないことが特徴だから、あれはいいんだよ。
考えてごらんよ、NHKの普通のニュースを古舘伊知郎のプロレス実況みたいな語り口でやったらどうだろう?
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誰もNHK見ないよね。
だから、AIは、個性のない平坦な音声が必要なときにしか出動しないよ。
アニメの声優の仕事は奪われないだろうか?
これはね、市場に、ファンに任せるしかないんじゃないか。
例えばサザエさんやドラえもん声優問題、というのが昔から、ある。
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声優が老齢化や病気、死亡などでやむなく他の誰かに交代する時、ファンは通常怒り狂う。
声が違う、と。
声が違うと感情移入できず、そのキャラクターは死んだも同然、と命がけの抗議が巻き起こるのだ。
声を変えるのは許さないとどうしても言い張るならば、AIの登場だ。
でも、AIがドラえもんの大山のぶ代を、新しい脚本で100%再現できるかが問題だよね。
大山のぶ代は、ストーリーの文脈を読んで声を常に微調整しているし、感情を変えることだってできる。
AIに果たしてそれが務まるか、ってことだよね。
声優プロダクションとしては、大山のぶ代が亡くなっても替えるな、と言われれば好都合で、高いカネを代替声優に払う必要がなくなる。
でも、新キャストで3回目くらいからは、ファンは「やっぱりAIじゃだめだ、他のキャストのほうがマシだ」と言ってくるかもしれない。
でも、個人的にはドラえもんのAIの声は聞きたくないな。
人間の音声に付加価値がつく時代
美空ひばりを完コピするAIが、数年前にテレビに出てきた時、人々は直感的に「違う」と感じた。
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おそらく今はその違和感は少しは薄らいでいるだろう、だが、違和感は消えないままだろう。
AI紅白歌合戦は、ビジネスとして成立しないに違いない。
しかし、芸術じゃなく日常のルーティンにAIが組み込まれるケースは増えるだろう。
逆に言うと、AIに代替されるような声しか出せないプロは、市場からキックアウトされるということだ。
それでも今後コスト削減のためと称して、無人テレビ局などが出てくる可能性もある。
声の仕事の市場を広げよ
声優、ナレーターは、いまこそAIに対抗し、自分たちの価値とAIの価値の差異を理解し、理論武装し、そして自分たちのスキルをリスキリングすべき時が来た。
AI音声がはびこる中、あなた達の肉声をもっと聞きたい、恋い焦がれるようになった、とファンはあなた達をもっと欲しがるようになるはずだ。
だから、もっとファンと触れ合うように、声優劇場みたいな声優の命である発話、発声など声の可能性を広げる実践の場を作るべきだと考える。
AIの時代は、皮肉にも人間の価値を浮かび上がらせる時代でもあるのだ。
コロナで人類が、人同士のつながりの大切さを思い知ったように。
AIは人間の持っている特質、本質に新たなスポットライトを当てつつある。
このことを認識することが、これからのビジネス、マーケティングには欠かせない。
さあ、高校生の皆さんは明日からまた学校かな。
コロナのおかげで、学校っていいなって気づいたならば、
それはキミの人生に大いなるプラスだと思う。
野呂 一郎
清和大学教授