ジーンズの雄・リーバイ・ストラウスはいかにしてコロナに勝ったのか
この記事を読んで高校生のキミが得られるかもしれない利益:コロナ禍で企業の戦略はどうあるべきか。企業文化の持つ偉大なパワー。リモートワークは企業文化を失うという懸念への理解。リーバイ・ストラウス社成功の要因。以上に関する考察。
トランプと対極。もう一つのアメリカの価値観
昨日トランプの話をした。
トランプは自分の責任を棚に上げて、人のせいにする名人で無責任だが、その明快であからさまな言葉は大衆の心を捉えたから、4年任期が務まったと言った。
そしてトランプの放言は、アメリカの民主主義の根幹である言論の自由が支えているとも言った。
トランプはある意味、アメリカの価値観を象徴していると言えるだろう。
恐れずはっきり物を言うことが、アメリカの価値感であるならば、静かに己の信念を粛々と実行するのもアメリカの価値観だ。
あるアメリカの企業が、自社の哲学をコロナにおいても貫いて、コロナ危機を乗り越えた話をしよう。
その企業の名はリーバイ・ストラウス(Levi Strauss & Co.).
企業文化というとてつもないパワー
リーバイ・ストラウスは、昭和世代にオジサンたちが夢中になっていたジーンズ「リーバイス」のメーカーだ。
同社は現在、デニム&ジーンズ・メーカーとちょっとキャッチフレーズを変えている。
リーバイ・ストラウスは、創業以来頑固な信念を守っている。
同社ホームページに飛ぶと、以下の3つの価値観を守り続けていることがわかる。
1. アイコンに成長したブランドを育てた豊かな文化を持った企業
アイコンとは崇拝の対象という意味だ。アイコン・ブランドとはいわばブランドをこえたブランドのことだ。
リーバイスは今もジーンズの代名詞であり、アイコン・ブランドと呼ばれるのにふさわしい。そして、そのブランドを育てたのが同社独自の文化だというのだ。
文化の大切さについては、最近これを書いたので、ここで復習してほしい(笑)
2. 着るもの、そしてそれをどうやって創るかにこだわっている。
独自の文化から生まれた衣類。そしてこだわりの原材料で、リーバイ・ストラウスの文化にどっぷり使った職人から生み出されるジーンズ、デニム衣料。
3. サスティナビリティの追求。
利益を追求するのはあらゆる企業の目的で、リーバイ・ストラウス社も例外ではないが、サスティナビリティつまり環境、循環、永続という価値を壊さない範囲で利益を追求するのがリーバイ・ストラウス流だ。
コロナに効く戦略的スローガンとはなにか
BusinessWeek2021年11月15日号(P27)は、「リーバイスがパンデミックで得た教訓(Levi’s pandemic lessons)」と題して、リーバイスが、この頑固な価値観を守りながらコロナをサバイバルした様子が描かれている。
リーバイスはどうコロナを乗り越えたか、それを一言で言うなら、
Buy better, Wear longer(より良いものを買ってください。そうすれば長く着ることができます)という同社の消費に向けたメッセージだ。
Buy betterは「安い粗悪品を買うな、高くてもいいものを買え」意味だ。
Wear longerは「いつまでも着ていろ」、という意味だ。
たしかにこれは間接的に、こだわりのリーバイスの衣料を買えと言っているわけだが、コロナ禍でのビジネス戦略としてはどうだろう?
リーバイスも他の衣料メーカーと同じくコロナではほとんどの店が閉まり苦労した。
キャッシュが枯渇して、大慌てで借りた。
コロナで普通の洋服メーカーがとるのは、まず安く売ることだ。
品質はともかく、たくさん売ってキャッシュを手に入れないと従業員の給与も払えない。
Buy better wear longer は同社の理念に沿ってはいるが、同社にキャッシュを雨あられともたらすものではない。
いいものを選んで買って、それが長持ちしたらどうなるか。人々はもう服を買わなくなる。
いいものを買えなんてよけいなことは言わなくていいのだ。
リーバイスも、黙って安物の中国産を自社ブランドで売ればいいではないか。
しかし、それを良しとしないのが、リーバイ・ストラウスの文化なのだ。
ファストファッションvsリーバイス
リーバイ・ストラウスの幹部はこう言った。
はやりのファストファッションとやらで安い服を買って、3,4回着て、ごみ箱に捨ててしまう。これが現代人の洋服の消費だ。これは俺たちがこだわる原理原則、つまりサステイナブルなのか。断じて違う。俺たちが生み出したこだわりの、ちょっと高くてもいい服を買ってもらえば、飽きないし、長持ちするから捨てない。これこそサスティナビリティだ。
はたして、リーバイ・ストラウスのこの古色蒼然とした戦略は、成功した。
人々は同社の新機軸オンライン販売でリーバイ・ストラウスの製品を次々に求めた。
リモートワークで人と会わないから、気の利いた服なんて着る必要ない、いい服なんていらない、ましてやおしゃれなんか必要ない。
だから、値の張るこだわりのリーバイスなんていらない。ファストファッションの勝ちだ、世間もそう思っていた。
しかし、蓋を開けてみれば、リーバイ・ストラウスはコロナ危機を乗り越えて復活したのである。
トランプと真反対に見える、地味に自分の信じたところを守る、という姿勢。
これもアメリカらしさと言えるだろう。
今日も最後まで読んでくれてありがとう。
じゃあ、またあした会おう。
野呂一郎
清和大学教授/新潟プロレスアドバイザー
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