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藤波辰爾が今日新潟で見せたプロレスのあるべき姿
この記事を読んであなたが得られるかもしれない利益:本当のプロレスとはどうあるべきかの気づき。プロレスラー藤波辰爾の偉大さ。6人タッグの新しい鑑賞法。
たたずまいだけで伝わってくる藤波辰爾
今日は新潟プロレス10周年大会です。関係者として見に行ってきました。
試合開始は15時だったのですが、後援企業様方へのご挨拶等があったので、13時半には会場到着、そそくさと主催者、関係者にあいさつを済ませ、何気なくリングを見やると、レジェンド・炎の飛龍・藤波辰爾選手がリング上でウォームアップをしているではないですか。
僕は感じたんです、そのたたずまいから、彼が本当のプロレスラーであることを。
試合前にリング上でウォームアップ、準備運動をする選手はたくさんいます。しかし、藤波辰爾選手のそれを見て、衝撃を受けたのです。一言でいえば、「やらされている感」が一つもないのです。
普通試合前の準備運動というか、ウォームアップってやらなきゃならないと教わっているからでしょうか、どの選手もしょうがないからやっている感が多少なりともあります。人がやるからやる、そういう感じです。
しかし、藤波辰爾は違いました。自然なんです。まるで肉体と会話をするかのように、自然にゆっくりと身体をほぐしているのです。
ウォームアップのストレッチでも、リズムが違うのです。普通は1,2,3のリズムでやります。しかし、藤波辰爾のリズムは、そういう決まりきったリズムではなく融通無碍で、肉体と相談しながら自然にやっているがごとくなんです。
藤波がウォームアップしている空間は、なにか特別な空気が立ち込めています。
もちろんその一つはレジェンド藤波辰爾のオーラです。
もう一つは、プロレスをないがしろにしないぞ、というプロレスに対しての強い思いれ、愛情です。それが客席まで伝わってくるのです。
試合前のリング上での準備運動、ウォームアップだけで、こんなに強烈な光線が伝わってくるレスラーがいるでしょうか。
その正体は、誰よりも強烈にプロレスに対して真剣、真摯な藤波辰爾の思い、僕はそう確信しました。
理屈ではなく、僕は試合開始1時間前、リング上の藤波辰爾のその姿に心を打たれたのです。
6人タッグの印象をがらりと変えた藤波辰爾
セミファイナルの6人タッグマッチ、藤波辰爾は再びリングに姿を現しました。グレート小鹿、息子のLEONAと組んで、大日本プロレス組、関本大介、青木勇也、佐藤孝亮選手が相手です。
僕はそこでも、藤波選手に魅了されました。
動きがどうの技がどうの、じゃないんです。
鍛えこまれたその肉体、コーナーにたたずんで試合の状況変化を見逃さない真剣さ、味方選手、敵の選手一人ひとりの動きをじっと見つめる集中力、そしてルールを守ろうとするクリーンさにです。
動く藤波辰爾に魅了されたのではありません。動かない藤波辰爾に魅了されたのです。
それは初めてのことでした。衝撃ともいえるもので、僕の中で初めて芽生えたプロレスの楽しみ方だったのです。
藤波に魅了されたその1 鍛え上げた肉体
まずは藤波の鍛え上げた肉体です。
あれを見れば、毎日どれだけ努力しているかがわかる。
年齢に関係なく、鍛えに鍛えているということが伝わってきます。
それは、「俺はプロレスが好きなんだ」という気持ちにほかなりません。
彼の哲学も伝わってきます。
「レスラーたるもの、少しでもたるんだ身体をお客さんに見せてはならない。プロは常に鍛えこんだ身体でリングに上がらなくてはいけない」という彼の信念です。
それを言葉で言うのではなくて、肉体をさらすことで、一瞬にしてお客とコミニケーション、会話をしているのです。
藤波に魅了されたその2 試合の状況変化に目を凝らす真剣さ
試合の状況変化を見守る真剣な姿にどうして感動したのか。
それは、勝敗に真剣だということが伝わってきたからです。
今のプロレスラーは二言目には「プロレスは勝ち負けじゃない」なんてことをしたり顔に言います。
それは自分のやる気のなさ、プロレスに対しての愛情のなさの裏返しに過ぎないことが多いんです。
藤波辰爾は6人タッグだろうが男女ミックストマッチだろうが、どんな試合でも真剣に勝ちに行きます。
だから、タッグマッチでコーナーに控えているときも緊張感を解きません。
すきあれば援軍に入るぞ、タッチを受けるぞという心づもりが、そのコーナーでの戦況把握の真剣さに出ているんです。
藤波に魅了されたその3 選手の動きを見つめる集中力
選手一人ひとりの動きを見つめる集中力に、どうして打たれたか。
6人タッグはある意味、緊張感がない試合の代表とみられることがあります。
実際、この大人数のタッグマッチは、選手に出場機会を与えるための員数合わせだったり、適当にお茶を濁す主催者側の怠慢なマッチメイクだったりします。
選手もそれを感じ、全く緊張感がないゲームになることしばしばです。
藤波辰爾はコーナーから、全選手をくまなく真剣に集中して見つめていました。それが緊張感となって観客に伝わり、その瞬間この6人タッグは格闘技としてのプロレスの緊張感を取り戻したのです。
藤波のこの態度は勝利に対しての真剣さ、どん欲さにほかなりません。それが伝わってきたのです。
6人タッグで今日の試合のような緊張感を感じたことは、初めてでした。
あたかも自分も、真剣勝負をしているような感じに思えたのです。それはプロレスを50年間見ていて初めての経験でした。
藤波辰爾の動かない動き、その隠された意味が観客席まで、伝わったからです。
藤波に魅了されたその4 ルールを守ることでプロレス本来の魅力が出る
最後、なぜルールを守るクリーンさに感動したのか。
タッグマッチでは戦ってないレスラーは、コーナーにあるタッグマッチ用の短いロープをつかんで待機してなくてはなりません。
それがルールです。
いきなり飛び出して劣勢の味方にアシストをいれるなどは反則なのです。
レスラーはそのロープをつかみ、適正な距離をもってタッチを受けるのがタッグマッチのルールなのです。
しかし、今はタッグマッチのそんなルールは有名無実です。というよりも死んでいます。
しかし、藤波辰爾は愚直にそれを守っていたのです。
ルールを守るからこそ、ゲームはゲーム本来のおもしろさを味わえるのです。
タッチロープをしっかり持ったレスラーをタッグマッチで見たのは、いったい何年ぶり、いや何十年ぶりでしょうか。
藤波辰爾がコーナーでロープを握りしめ、戦況を見つめる姿は美しくさえありました。
反則やいい加減なことばかりのプロレスが当たり前になってしまった、昨今のプロレス界。
その悪しきカオスに、きょう新潟で、新潟プロレス10周年の記念すべき日に、藤波辰爾はくさびを打ち込み、プロレスの、プロレスラーのあるべき姿を身をもって示してくれたのです。
今日も最後までお読みいただきありがとうございました。
ではまた明日。
野呂 一郎
清和大学教授
新潟プロレスマガジン編集長