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どうして旅に出なかったんだと友部正人が俺に云う

夜明け前十分 小池昌代


正直に、出来るだけ正直に生きようと元旦に決心するも、三日と持たないやさぐれた根性の持ち主である為覚えず地に膝をつく。

今度こそ、今度こそと、奥歯を食いしばって立ち上がるが、基礎体力が皆無なのだろう。くじけるのも早い。

もう開き直って独りで独楽を廻す路地裏で見えたものは天啓。
夕焼けのような天啓。
旅に出るんだ。その声が聞こえる。

いや、ほんとうは前から聞こえていた声だ。
その声に耳をふさぎ、聞こえないフリをして、何も見ないフリをして、一般ピープルにまじって嘘や悪態をついたり、ごまかしたりしてきた。

自分の罪は自分で償う。

俺は今年、旅に出た。
道連れはたくさんある。
それは目に見えないものだけれど、道連れならたくさんある。
どうして旅に出なかったんだ。
友部正人の歌が、左胸の勲章のように、ここにある。
もっと砂をつかめ。
いちど止まって考える、その勇気を忘れるな。



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