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頑張らなくていい。
言葉があやとりをしていて、そのあやとりが永遠に続くかのよう。
これには既視感がある。サリンジャーだ。
対話のメタファーが渦を巻いておそらくは自分もその中に放り込まれているのだろう。完全に無意識である。
ここでわかったようなフリや、理解しようなどとは、およそ考えないことだ。自分は自分にそう云い聞かせる。
素っ裸で活字を追う。
逆に云えば読むのにこちらを素っ裸にする作品こそが、すぐれた作品の持つ特性のひとつであると思う。
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十七、八の頃。自分はどんなだったろう。
十代特有の神経質さを持って情緒不安定だったに違いない。
遠い昔の事で忘れてしまった。だけども毎日が鬱々として、生きてるか死んでるかわからないような毎日であったことは間違いない。
生まれ育った田舎の地を抜け出したくて、ウズウズしていた。
これ以上ここにいたら本当に気が狂ってしまう。そんな確信があった。
札幌の企業に就職して、一目散に逃げるようにして移り住んだ。
大学なんて行こうと思わなかった。いちミリも考えなかった。
早く働いて、自分でカネを稼いで生きていくんだ。
そんな思いで何も云わず、余計なことは考えず、毎日を過ごしていた。
しかしそんな儚い夢も無残に崩れる。
なにしろ自分が生きて暮らしてゆくには、あまりにも収入が乏しい。
今考えれば、それはそれで必要な時期であり、対価である。
片手ひとつで足りるくらいの手取りで、何とか生き永らえていたのは云うまでもない、廻りの大人たちのおかげである。
先輩や上司の、そして同僚の助けなしに、自分はやっていけなかった。
その事を今となってまざまざと思い知る。
震えるくらいに。
そういった数々の恩を仇で返し、廻りの人たちに不義理の限りを尽くし、惚れた女をいいだけ傷つけ、のうのうとまだ生きている自分を恥じる。
結局十七、八の頃の自分にぐるりとまわって、また辿り着いた感さえある。
俺は何歩進んだんだろう?
俺は何センチ、いや何ミリ成長したんだろう?
考え想うに、恐ろしくなってくる。
後退すらしているかもしれないのだ。
頑張っているひとたちに、頑張れとは云えない。
頑張っているひとたちは、すでに頑張っているから。
頑張っているひとたちに「頑張れ」と云うのはそれは、
「頑張るな」というに等しい。
けれど時には「頑張るな」と声をかけたい人にも出会う。
頑張り過ぎだよ。もう、頑張らなくてもいいよ、と。
怠けてOK。
もうじゅうぶん。
力をこめて、力を抜いて。
頑張らなくていい。
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