原題は全然違うものなのね ウォッチメーカー ジェフリー・ディーヴァー(著)、池田真紀子(訳)
いい天気で良かったではないか。
札幌ではお祭りがやっている。
似たような姿、似たような振り付けで老若男女が踊っている。
似たような姿、似たような振り付けでも、しかしそこには順位がつけられるらしい。
群舞である。
その順位をつける基準が私にはわからないが、私の生活に特に影響を与えるものではないので気にしないことにする。
テレビをつけてみた。
若者たちがインタビューに答えている。
私には聞こえない。
その声が聞こえない。
テレビの音量をひどく小さくしているせいだ。
しかし彼女らの表情を眺めながら思う。
今日がいい天気で良かったではないか。
それは心からそう思ったのだ。
分厚い二段書きの、夢中で読んだミステリがもうすぐ読み終わるところだった。
読み終わるのがもったいない気がした。
犯人も緻密なら捜査側のチームも細心の注意を払って仕事をすすめている。
双方ともこの上ない用心深さだ。
このフィクションを創作した作家の技量というか執念深さというか志しに想いを馳せれば気が遠くなるようなものを感じた。
贅肉というものが一切ない。
伏線とその処理の仕方。
冷徹さと湿り気のある心の情。
すべてのバランスが綺麗に配置され、脳内で映像化される。
2時間半の映画である。
観終わってから、ふぅ、っと息を吐き無言で映画館を出る。
まわりはポップコーンの匂いで満ちている。
家族連れがいる。恋人同士がいる。男同士女同士がデートでもしているのだろうと見受けられる。
職人、という言葉が思い浮かんだ。
何年かに一度、ジェフリー・ディーヴァーの大作を読む。
前回読んだのは『魔術師(イリュージョニスト)』だったと思う。
次回は是非『石の猿』か『12番目のカード』を読んでみたい。
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