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Jリーグを知らない人も、文章センスと構成を学べる、引退に際した父と、その息子の“幸せになれる”メッセージです。
Jリーグディビジョン3(通称J3)、
一般の人はもちろん、Jリーグ好きでも
それほどは観られない、いわゆる3部リーグの
しかも下位に甘んじた「ガイナーレ鳥取」で
今季プレーした、36歳のJリーガーが引退した。
*
長谷川アーリアジャスール。
上のリンクには、彼の引退セレモニーにおける
長男のロイ君からのメッセージと
アーリアジャスール自身の引退メッセージが収められている。
■その幸せは、聴く者に伝わる
まず、ときに笑いながら読み上げたロイ君のそれは、
遠く鳥取のチームに行った父への小さな恨みごとを
言った後で、
チームとチームメイトの素晴らしさを
子どもらしく称え、感謝した
メリハリのある構成と、
父を愛する気持ちがストレートに伝わる言葉が
聴いている私たちをも幸せにしてくれる。
ロイ君も可愛いのだが、
アーリアジャスールを囲むチームメイトの
涙もたまらなくいい。
■味わいある構成と、あふれる愛情
自身が「9チームのクラブでプレー
させていただきました」と言っているように
元日本代表でありながら、
その選手生活は起伏が激しかった。
私も、「BMWスタジアム平塚」で、
当時、湘南ベルマーレにいた彼の
チャント(応援歌)を叫んだ。
引退の辞というものは、多かれ少なかれ
周囲の関係者・家族への感謝を捧げるものだが、
この日の彼のメッセージは、まず
この日の対戦相手であった
ツエーゲン金沢のサポーターが掲げた
「アーリアジャスール現役生活おつかれさま」
という手作りの横断幕への感謝から始まった。
私が愛する
チームの枠を超えた
リーグ文化が、そこにあった。
この導入部に、まずしびれる。
*
そこからチーム関係者やスポンサー、
ファン・サポーターはもちろん、ボランティアに
至るまでくまなく感謝を伝え、
最後に家族への感謝を伝えてゆく
彼の涙に濡れた表情がいい。
感謝を捧げている自分に酔うのではなく、
心の底から湧きあがる「感謝」という気持ちを
私たちに差し出すような純粋さが、
無条件で胸を打った。
それは、
12分18秒の、
愛を語る
ショートムービーだった。