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元ラジオ局の友人が教えてくれた、ポッドキャストの『本当の魅力』とリスナーとの距離感を縮める工夫

昨年から始めたポッドキャスト。台本を作って、コンパクトに情報を入れて、自然な会話を心掛けて……と、僕は普段仕事でやっている記事づくりのやり方に「声の力」を加えるように努力はしていたのだが、それは実は、「声のメディア」の魅力を存分に発揮するやり方ではなかったようだ。

今回は、旧知の仲で、ラジオ局で制作スタッフとして働いた経験もあり、現在は言語聴覚士の資格取得を目指しながらポッドキャストを企画・制作する笠木就斗さんにインタビュー。声のメディアの本当の楽しさや、リスナーに伝えられることリスナーとの距離感などを伺い、僕は自分がいかに「文字」の世界にどっぷりとつかっていたかを実感した――。

1対1の「あなた」との距離感

――就斗くんはラジオ局時代のノウハウをポッドキャストの企画・制作に生かしていますか?

編集や言葉のチョイスはすごく気をつけるようにしていますね。例えば、とても盛り上がっている口調は、怒っているように捉えられることもあるので、そこはカットしたり。

すごく面白い話も「これを聞いて傷つく人はいないかな……」と考えて、超えてはいけない壁を超えないように気をつけています。

――生放送の場合、頭で考えるより先に口でダイレクトにしゃべっちゃうこともありますよね。どうしても沈黙って怖いから……。

でも、沈黙が起こるのは必ずしも悪いことではないんですよ。インタビューなどで沈黙して答えを考えているような場面は、質問がそれだけ刺さっているということだし、リスナーにも考えさせる間を与えるんです。

――そうなんですね。「沈黙は悪」という先入観を持っていたかもしれない。では、しゃべるときはどんなことを意識していますか?

しゃべるときは常に、「リスナーはどう聞いているんだろう? イヤフォンかな? 部屋でiTunesを流しているかな?」と考えて、同じ空間を共有していることを意識しています

ラジオとかポッドキャストって、聞いている人同士も妙に親近感があるんですよ。「同じ部屋にいて、同じ場面を想像しているよね」みたいな。よくメッセージでも「あなた今、どこにいますか?」と問いかけたりします。

テレビだと「みなさん」となってしまって、視聴者は演台の上の人の話を聞くような感じですが、ラジオだと「あなた」1対1の距離感になりますね。自分の内側に入ってきて、内側で聞いてくれる感じ。

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――ああ、それは僕のポッドキャストでは全然意識していなかった。リスナーからのリアクションを期待するというよりは、ひとまず自分が伝えたいことをしゃべっているだけでした……。

放送する側は一方的ではあるんですけど、キャッチボールはあるかな、と思います。「~だよね?」と考える余地を与えるようにして、リスナーとの間に「塀」を作らないことが大事ですね。

――パーソナリティがゲストにインタビューする場合は、2人の会話になってしまいがちですけど、そこでもパーソナリティはリスナーを意識して問いを投げかけているんですか?

そういうときもありますね。「自分がリスナーだったら何を聞きたいか?」を意識して、「こういうことを思っているファンもいると思いますが……」と言ったりして。

でも、逆にリスナーに問いかけずに会話するときもあります。そういうときのリスナーの心境としては、バーで隣に居合わせて、面白そうな話につい興味を引かれて耳をそばだててしまうような、そんな感覚に近いかもしれません。

――そういう感覚がリスナーとの距離を近くしているんですね。

自分についてもゲストについても、いかに「よそ行きでない」パーソナリティを出せるかが大事ですね。リスナーは、そんなところに面白さを感じて、もっと聞きたくなるのではないでしょうか。

それから、リスナーに「自分はどうだろう?」と考えさせるような質問を入れるようにするのも距離を縮めるコツだと思います。

――逆にリスナーが一方的に聴くような、教えてもらうみたいなコンテンツは、ポッドキャストには向いていないんですかね?

いや、リスナーがついていけないような、思いっきりぶっ飛んだコンテンツがすごく必要とされることもありますよ。他の人が全然知らないようなことを話すパーソナリティも結構いて、リスナーが知らない世界に連れて行ってくれるんです。

人には、全然知らない世界に自分を投影してみたい……という本能があるのかもしれません。

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ポッドキャストは「ノンフィクション」

――自分のポッドキャストを聞き返すと、少し単調なときもあり、多少大袈裟なしゃべり方のほうがいいのかな、と思ってしまうんですが。

あんまりそれを意識するのはよくないかもしれません。大袈裟にしないと伝わらないような話題は、逆に「それほどでもない」ことが出ればいいのではないかと思います。そのトピックを「100のうち80ぐらいで感じている」ということでいいのではないでしょうか。

――ああ、声のメディアは「ノンフィクション」なんですね。

「パーソナリティがニュースをどう受け止めたか?」というのもリスナーは聴いているので、逆にパーソナリティの反応が薄いことに対して「この人にこれは響かないんだ!」というのが面白いんですよ。

――予定調和になってしまってはいけないんですね。でもインタビューの前には、どの程度準備すればいいのでしょうか?

ゲストをインタビューするとき、その人に関する情報はできるだけ集めます。それで、自分がどう思ったかゲストの作品や仕事をどう解釈したか、ということを自分の言葉で伝えられるといいと思います。

相手も実はそれをいちばん知りたがっているんですよ。アーティストだったら、自分が作った曲について「なるほど、そういう捉え方があるんだ」「そういう物語になるんだ」という気づきになるし、それが切り口になって、話が人生観に発展していったりもする。

「教えてもらう人」と「教える人」という感じではなくて、互いに思ったことを伝え合って、「話し合う」という感じですね。

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台本はいらない、いかに想像させるか?

――僕のポッドキャストは5〜6分ぐらいにまとめることを目標にしているんですが、台本なしにやったら15分ぐらいになってしまったので、今は台本を作って7~8分ぐらいには収めるようにしています。就斗くんは台本を作っていますか?

ラジオだと生放送でもニュースが入ったら、台本を作ってやっていましたが、インタビューでは特に台本というのはありません。「これを話そう」という大まかなことは決めますが、話の流れの中でそれ通りにいくことはほぼ100%ないので。

――それは記事のインタビューも同じだけど、ポッドキャストやラジオだとそれを生でやっている怖さがありますね。

そうですね。最低限の告知情報は入れなくちゃならないし。でも、インタビューで一番大事にしているのは、自分とその人だから話せることです。そこらで聞かれているのと同じものではなく。そのほうがやる側もリスナーも楽しいと思うんですよ。パーソナリティには独自の「パーソナル」が求められているんです

――なるほど。それは僕のポッドキャストに最も欠けているものだったかもしれない。情報を伝えるだけなら、誰がしゃべってもいいし、正直、記事のほうがコスパがいいんですよね。だけどやっぱり、声のメディアには「声音」とか「間」とか、言葉にならないものも伝わるんですね。

話すときにどこにストレスを置くかで、熱量が聴き手に届くというのもあります。機関車が大好きな人が語るとき、「この機関車が」という部分が強くなって、その熱量が伝わると、機関車に全然興味のなかった人も話に引き込まれたりしますよね。

耳の感覚は人間の体でいちばんセンシティブなのだそうで、耳から入った情報で人間は想像力を働かせます。リスナーがこれだけラジオに感情移入できるのも、人間のそういう性質が反映されるのだろうと思います。

僕がこれまでに携わった番組の中で、特にものすごく盛り上がったのは「番組スタッフによるコスプレ大会の実況」でした。せっかく着替えてもリスナーは衣装を見れないのに(笑)。だけど、もう掲示板が重たくなるほど反響があって。すごいビジュアルを想像させるのと、ガードを構えていない楽しそうな感じがウケたのだと思います。

――そうすると、台本はやっぱりポッドキャストっぽくないということですね?

そうですね。やっぱり台本を読んでいるというのは、ある程度伝わってしまうと思うんです。大枠で「この話はしよう」というのは決めつつ、どういう運びになるかは相手と作るという感じでいいと思います。

――あまり「効率的に伝えよう」と思わなくていい?

ラジオをやっていたとき、僕は「効率的に伝えよう」とはあまり思っていなくて、「このスタジオ楽しそうだな」を伝えようとするほうが大きかったように思います。パーソナリティとゲストが楽しく会話をしている以外に、ガラスの向こうの音響さんとか、スタッフも皆が笑っているのが伝わると、やっぱり聞いているほうも楽しいと思うんですよ。

――僕のポッドキャストはやっぱり作り込みすぎていたんだなあ。これまで「いかに効率的に情報を伝えるか」を重視して、その上で「声のメディアの良さを出す」という順番で考えていましたが、ノンフィクションをそのまま伝えるのがポッドキャストの魅力だということが腹落ちしました。今度はぜひ、作られた感じでない、生っぽいものに挑戦してみたいな、と思います。今日はありがとうございました!

編集者/Livit代表 岡徳之
2009年慶應義塾大学経済学部を卒業後、PR会社に入社。2011年に独立し、ライターとしてのキャリアを歩み始める。その後、記事執筆の分野をビジネス、テクノロジー、マーケティングへと広げ、企業のオウンドメディア運営にも従事。2013年シンガポールに進出。事業拡大にともない、専属ライターの採用、海外在住ライターのネットワーキングを開始。2015年オランダに進出。現在はアムステルダムを拠点に活動。これまで「東洋経済オンライン」や「NewsPicks」など有力メディア約30媒体で連載を担当。共著に『ミレニアル・Z世代の「新」価値観』。
構成・文:山本直子
フリーランスライター。慶應義塾大学文学部卒業後、シンクタンクで証券アナリストとして勤務。その後、日本、中国、マレーシア、シンガポールで経済記者を経て、2004年よりオランダ在住。現在はオランダの生活・経済情報やヨーロッパのITトレンドを雑誌やネットで紹介するほか、北ブラバント州政府のアドバイザーとして、日本とオランダの企業を結ぶ仲介役を務める。

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