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南禅寺の記憶・・哲学の道で17才ノデキゴト 第四章 哲学の道での別れ
卒業式の日、アキラは早朝の静かな校庭を歩いていた。三年間通ったこの学校も、今日で最後だと思うと、少しだけ感慨深かった。クラスメイトたちは写真を撮り合い、笑顔で別れを惜しんでいるが、アキラの心はどこか遠くにあった。
胸ポケットには、優香への手紙が入っている。
「これで最後だ。」
自分に言い聞かせるように呟いた。
南禅寺での再会
午後、アキラは南禅寺の境内で優香を待っていた。卒業式が終わったら、哲学の道を歩こうと約束していたからだ。紅葉の名残がわずかに残る水路閣の下で、アキラは背伸びをして周囲を見回す。
「アキラさん。」
振り返ると、卒業式のスーツ姿の優香が立っていた。いつもと違う装いに、アキラは少し驚いたが、それを口に出さなかった。
「来てくれたんだな。」
「ええ、最後にどうしても哲学の道を歩きたくて。」
優香の微笑みには、どこか寂しげな影があった。
二人は並んで歩き始めた。哲学の道は桜が満開で、花びらが風に舞っている。観光客の姿もまばらで、静かな空気が二人を包んでいた。
「東京には、いつ行くの?」
アキラが尋ねると、優香は少し視線を落としながら答えた。
「来週には行く予定です。準備を整えたら、すぐにでも。」
「そっか。やっぱり早いな。」
アキラの声には、ほんの少しの寂しさが滲んでいた。
「アキラさんは…どうするんですか?」
「浪人して、医者になるために頑張るつもりだよ。だから、もうバンドも少しお休みだな。」
アキラは苦笑いしながら答えたが、その笑顔にはどこか未練が見えた。
「私、アキラさんなら絶対に成功すると思います。」
優香は真剣な表情で言った。
「優香さんも、絶対に歌で成功するよ。」
アキラは力強く頷いた。
別れの言葉
哲学の道を歩き終えた二人は、出会ったばかりの頃と同じ場所、南禅寺近くのベンチで立ち止まった。
アキラは胸ポケットから手紙を取り出し、優香に手渡した。
「これ、俺の気持ちを書いた手紙。東京に行ったら、時間があるときに読んでくれ。」
優香は手紙を受け取り、優しく微笑んだ。
「ありがとう。必ず読みます。」
少しの沈黙の後、優香が静かに言った。
「アキラさんと過ごした時間、忘れません。私にとって、本当に特別な思い出です。」
アキラは軽く息をつき、優香を見つめた。
「俺も、優香さんと出会えて良かった。夢を追い続けようと思えたのは、優香さんのおかげだ。」
別れの瞬間
優香が歩き出し、アキラもその場を去ろうとしたとき、優香が振り返った。
「また、いつかここで会えるといいですね。」
アキラは立ち止まり、少し笑いながら答えた。
「そのときは、お互い夢を叶えた姿で会おう。」
優香は笑顔で頷き、再び歩き出した。桜の花びらが舞い散る中、彼女の背中が少しずつ遠ざかっていく。アキラはその姿を目で追いながら、静かに手を振った。