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「戦の神」 — ひとつのキーワードで約1000文字歴史小説

戦の神が見た夢

戦国時代の末期、大和国(やまとのくに)に戦の神と呼ばれる男がいた。
名を早坂景光(はやさかかげみつ)。
卓越した軍略と剣技で知られ、数々の合戦で勝利を収めてきた。
しかし、その評判とは裏腹に、彼の胸中には常に孤独が宿っていた。
彼が率いる軍勢が進むたびに荒れ果てた村々と泣き叫ぶ民衆を目にし、勝利の栄光がむなしいものに感じられるようになった。
そんなある日、景光のもとに一通の密書が届いた。
内容は「天下を統一するために協力せよ」という大名からの誘いだった。
だが、それは単なる協力依頼ではなく、謀略の匂いが漂うものだった。

景光は密書を読み、ひそかに決意した。
「天下統一」という美名のもとに人々を苦しめる者たちを止める。
そのためにまず、自らの剣を振るう。
密書の送り主が属する勢力に身を投じた彼は、戦場でその力を発揮し、多くの将たちの信頼を得た。
しかし、景光の真意を知る者は一人もいなかった。
彼はその大名を打ち倒し、戦乱の連鎖を断ち切る計画を胸に秘めていたのだ。
戦の神と呼ばれる彼でさえ、未来を変えるには犠牲が必要だと悟っていた。

ある夜、景光は戦場で命を落とした仲間たちの亡霊に囲まれる夢を見た。
彼らは口々に問いかけた。
「景光、お前は何のために戦うのか」と。目覚めた彼は自問自答する。
「戦乱を止めるため、だが、それでまた命を奪う自分は何者なのか?」
その翌日、大名との決戦の場が迫っていた。
景光はわずかな部下に全てを告げ、最後の戦いに臨んだ。
「この戦いで多くの命が失われても、その先に平和があるならば、私は剣を振るう」と彼は決意を新たにする。

決戦の場で、景光は「戦の神」の名にふさわしい戦いぶりを見せた。
敵味方問わず畏怖の念を抱かせたが、ついに彼は大名の本陣へと辿り着く。しかし、そこにいた大名は彼を見て静かに笑った。
「お前の戦いもまた、終わらぬ争いの一部に過ぎぬ」と。
景光はその言葉に動じることなく剣を振るい、勝利を収めた。
しかし、戦場に立ち尽くす彼の心に浮かんだのは、かつての夢で見た亡霊たちの声だった。
「平和の先に何があるのか?」
戦の神と呼ばれた彼の伝説は多くの人に語り継がれたが、景光自身はその後、戦場から姿を消した。
彼が目指した「平和」がどのような形で訪れたのか、それを知る者はいない。

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