①【実録】僕たちは、家にいながら旅に出た。 (そのはじまり)
緊急事態宣言による外出自粛期間のど真ん中、2020年5月。
僕たちは、家にいながら旅に出た。
これは、旅に関わる人々にとって未だかつてない逆風の中、「新しいカタチの“旅“と“場“づくり」に挑戦した僕たちの1ヶ月の記録だ。
(うわーなんだか「いかにも」という書き出しでカッコつけたなあ、と早くも気恥ずかしくなっている。こんな感じで何本か続けていくので、どうかお付き合いください。)
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「これから5月中、毎日全国のゲストハウスとオンラインイベントをやりたいと思ってるんですけど、どう思います?」
そう切り出したのは、「Soft. Guest house」のオーナーであるセイヤくん。
「人類の起源を辿る旅」と題してアフリカまでの一人旅から帰国した彼は、新卒でフリーランスという道を選んだツワモノだ。
そんなセイヤくんには、いつか自分のゲストハウスを持つという夢があった。
そしてその第一歩として、「建物(ハード)を持たない、概念だけのゲストハウス」と称して、「Soft. Guest house」を屋号に活動をしている。
実際のゲストハウスを使いながら、海外の旅人との交流する「ゲストハウス留学」など、イベントや企画で場づくりをするのが彼の仕事だ。
今回のコロナショックは、当然のことながら宿泊事業者である全国のゲストハウスの経営に重大な危機をもたらしていた。
実際のハードを持たない彼も、自らの仕事にも相当な打撃があるにも関わらず、「ゲストハウスのために何か出来ることはないか」と考えていた。
そんな中で、全国で場づくりを行っている藤本遼さんという方からもらったアドバイスが、「5月中毎日イベント開催」だったそうだ。
(一切面識がなかったにも関わらず、Facebookの「相談乗ります」という投稿を見て、直接連絡をとったというのがいかにもセイヤくんらしい。)
相談を受けたのは僕ともう一人、アドレスホッピングをしながら旅と暮らしの発信をしているトモキさん。
僕ら3人は月額泊まり放題「ホステルパス」というサービスを展開するゲストハウス「LittleJapan」のラウンジで知り合い、意気投合。
その後イベントも一緒に企画したりしていたのだが、今回もリアルで会えない中で、夜な夜なZoomを繋いでお喋りをしていた流れでのことだった。
毎日開催というアイデアを聞いてすぐ、直感的に「これは、いい」と思った。
僕自身、イベント企画や誘致の仕事に2年程前から携わっている。この状況下で、いくつものオンラインイベントが立ち上がっているのはつぶさに見てきた。
僕もそうしたイベントに参加していく中で、感じている課題感がいくつかあった。
一方的な配信になりがちで、「参加している感」に乏しいこと。
急な対応であることから、告知集客が短く「単発」になりがちなこと。
イベント後の参加者同士の「交流」が生まれにくいこと。
一方で、オンラインにしかないメリットも同時に感じていた。
離れたところにいる人たちと同時に参加できること。
小さなお子さんのいるお母さんなど、夜間の外出が難しい人も参加できること。
参加するまでのハードルが、実際に足を運ぶよりも人によっては低いこと。
チャットを使えば、オフラインでは拾えない参加者の声をリアルタイムに拾えること。
これらのメリットにみんな気付いてはいるものの、総じて「オフラインの代替策としてのオンラインイベント」というところから抜け出せていないものが多いという印象だった。
そんなオンラインイベント黎明期に、31日連続で開催するということ自体、やり遂げれば相当な経験値(EXP)が蓄積されるのは明らかだった。
そしてそれ以上に「Soft. Guest house」にとって、毎日開催だからこその意義も感じていた。
イメージとしては、一回一回「イベントに参加する」というより「毎日そこにある」という状態を創ること。
行っても行かなくても良い。というより、行く行かないではない。
ふと思い立った時にZoomにアクセスすれば、そこには必ず誰かがいて、どこかのゲストハウス(旅先)に繋がっているという状態。
まさに、「概念上(ソフト)のゲストハウスのラウンジ」というわけだ。
そしてこれ自体が、外出ができない暮らしの中に「概念上の“旅“という体験をインストールする」という壮大な実験。
このコロナショックが起きる以前から「Soft. Guest house」というコンセプトを掲げていたセイヤくんだからこそ、そして今だからこそ、出来る企画・やるべき企画だという確かな予感があった。
それから僕たち3人は、このプロジェクトについて色々なことを話し合った。
協力してくれるゲストハウスにとってのメリットをどう設計するか。
31日連続という日程の中で、どんな人たちがどれくらい参加してくれるのか。
参加してくれる人たちに対して、僕たちが伝えたいメッセージは何か。
この企画を通じて、僕たちが創り上げたい世界観とは。
3人で頭を悩ませ、いっそのこと興味がありそうな人たちを「企画会議」と称して集め、会議ごとイベントにしてしまおうということになり(このやり口は今後も度々使われることになる)、スケジューリングをしたところではたと気づく。
この時点で4月28日。5月1日まであと3日……。
スタートラインからして中々にクレイジーなことになっていたが、もう僕たちに引き返すという選択肢はなかった。
この時点で僕たちは既に、この新しい旅に「出て」しまっていたのだから。
仕事や移動、あらゆる活動が静まり返ってしまった世の中で、どうやら波乱万丈な1ヶ月になりそうだった。
『REMOTE TRAVEL 〜旅するように、家で過ごそう。〜』
通称「リモトラ」。
これが、僕たちが出ることになった“旅”の名前になった。
そしてこの「リモトラ」は、単なるイベントのタイトル以上の意味を持つことになるのだった。
〜つづく〜