平衡化について
生体分子シミュレーションでは,多くの場合,平衡系での統計サンプリングを目的にしています。実践的に平衡状態に達している初期構造を用意することは絶望的に難しく,統計サンプリング(production runと呼ばれたりします)を行う前に平衡化計算(初期構造を平衡状態に緩和させる計算)を実施する必要があります。平衡化計算は信頼できる統計サンプリングを実現するためにとても重要な作業です。
平衡化とは
理論的には,MD計算やMC計算によって生成される3N次元の配置がボルツマン分布(古典統計の場合)からのサンプリングであると見なせる状態です。
どうやって確認するか?
個人的には,
1. ポテンシャルエネルギーをモニタリングして,揺らぎながらも大よそプラトーに達しているかを確認する
2. プラトーに達している部分を何分割化して,同一分布からのサンプリングと見なせるかを何かしらの指標で判断する
3. 余裕がある場合は,プラトーに達していた後の配置を何点かピックアップし,速度を初期化して更にサンプリングし,同様に同一分布からのサンプリングと見なせるかを判断する
が良いかなぁと思っています。
世間的には,RMSDの振舞で判断するということも良く行われる気がします。ですが,RMSDは
1. RMSDの定義(reference構造が何で,reference構造にどうalignmentするか,どの粒子をRMSD計算対象にするか等)によって値が変わる
2. RMSDがどのようになれば平衡化されたと言えるかの理論的な裏付けがない
ため,平衡化の判断には適さないと思っています。
RMSDのモニタリングにも意味はあると思っていますが,あくまで平衡化の判断には使えないのではないかなぁという感じです。